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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(海上で)11

 そんな折、ドワーフの船が沖合に現れた。

 どうやらちゃんと浮いたようだ。

 三本マストとは生意気な。

 あれ、マストから煙が出てる。煙突か? 暖炉でもあるのかな?

 どんどん近付いてくる。

「え?」

「あれ?」

 沖を見ていた連中が全員首を傾げた。

 なかなか近くに来ない。

「まさか……」


 防波堤の向こうまで近づいた船を見て呆然と立ち尽くした。

 それは信じられないくらい大きな船だった。

 大型商業船が二隻横に並んだぐらいの幅があり、三隻縦に並んだぐらいの全長があった。

 こんなでかい船どこに隠してたんだ……

 マストも馬鹿でかい。

 ドワーフたちが手を振っている。

「さあ、さあ、どんどん乗り込め、食い物も水もねえが床だけはピカピカだぁ」

「どうせ錆びりゃ、海の藻屑だ。今のうちに楽しまんとな」

 防波堤から氷の船を寄せて桟橋を作り、次々鉄の船に乗り込んでいった。

 鉄の船じゃ、氷の船に負けないくらい寒そうだ。

 元々、脱出用に造ったと言っていたが、あれだけいた避難民を全員回収できたとは驚きだ。

 東側の崩壊まではまだ数日あったはずで、近くの島までの避難もこの一隻の往復で可能だと豪語していたが、まさに……。

 見上げる口が塞がらない。

 オクタヴィアもリュックのなかから出てきた。

 おっ! お前だけ暖かい。

「俺は貴族だぞ! お前たち亜人の命令など誰が聞くものか! いいか、この船は我ら貴族が徴発する!」

 あっという間に周囲にいた連中に蛸殴りにされて、海に放り込まれた。

「頭を冷やせ、馬鹿もんが! 一体誰のせいで今日の事態を招いたと思っていやがる! てめえら貴族のせいだろう!」

 (はしけ)にいた連中になんとか助けられ、這い上がってきたが、男は黙り込んで何も言わなくなった。

 貴族だったらサンセベロの領主の船に便乗させて貰えばいいものを、所詮はその程度の下っ端ということだ。いずれ、何も残らなくなる。貴族だった証も何もかも、海に飲み込まれてしまうのだ。奴隷だった者たちより、生きるのはつらかろう。


「どうじゃ、この船は?」

 ジグロがやって来た。

「これだけの鉄どうやって?」

「船に積み込んでも、重くて金にならない鉄は国内で消費される以外、誰も引き取ってくれんのだ。貯まっていく一方でな。同じ船に乗せるなら琥珀金の方が儲かるだろ?」

「それにしても、暖かいですね? 鉄の船だからもっと冷たいかと思ってた」

「船倉でお湯を沸かしてるんだ。その余熱で温めとる」

「なんでお湯を?」

「そりゃ、お前の姉さんに聞いてくれ。俺たちは図面通り船を造っただけだからな。とにかく、ボイラーで海水を温めてやりゃ、勝手に船が動いてくれるんだ。ただ、あんまり燃やすもんがねえんだわ。がははは」

 それってもしかして、異世界の『ポンポン船』?

 そんな仕組みでこのでかい船が動くのか? て言うか、魔石どんだけ使うことになるんだ? いや、薪でもいいのだろうが。

「どれくらい魔石使うの?」

「風がなかった場合を想定して取り付けたもんだが、船が寒いんだから、どうせ温めなきゃならんだろ? だったらついでに沸かしちまっても構わないわけだ。急いどることだしな」

 部屋を暖めるのと、水が沸騰するまで温度を上げるのとじゃ、消費量が違うだろうに。

「風呂にも入れるしな。がはははは」

 アバウトすぎる……


 それからサンセベロの領主の船と合同で、沈没した東の地を見て回ることになった。商船はこのままトゥーストゥルクに向かい、現状報告と救助要請をお願いすることになった。

 僕たちはこのままドワーフたちと共に島を一周し、状況を見てから救助に来た船で帰ることにする。何分でかい船なので、救助を行なうにも手が掛かりそうだからだ。

「食料どうしよう?」

 ロメオ君が言った。

「僕たちだけ食べるのはまずいよね」

「だよね」

 ジグロに何も聞かずに、船倉の一室を開けてくれるように頼んだ。

『楽園』にストックし続けた食料を吐き出すときが来た。主に菓子パンだが。

「この人数じゃ、焼け石に水だけどね」

 ぐう…… オクタヴィアの腹が鳴った。

 しょうがないな。甲板に出よう。

 誰にも見られないように景色を見る振りをしながら、クッキーを摘まんだ。

「そうだ! 釣りだ!」

「釣り竿は?」

「何かないかな?」

「何が釣れるんだろ? 寒い海だし…… 魔物が釣れたりしないよね?」

 食糧確保のため、釣り糸を垂れることになった。

 どうやら、脱出計画書には釣り竿の用意も含まれていたようで、船のなかに三十竿程細いのから太いのまで揃っていた。

「釣り竿があるのになんで食料備蓄をしない?」と聞いたら腐るからだそうだ。保存食もただではないし、管理もしなくてはいけない。自分たちドワーフには無理だと言われた。

 我が家では当たり前に使われていた保存庫や保存容器は本来高価な物だということを思い出した。オクタヴィアのクッキー缶でさえ、金貨が使われている。

 これだけの人数を賄うための量となると…… 確かにここのドワーフでは無理だ。


 僕も一本借りて、甲板から長い釣り糸を垂れたが何もつれなかった。

 ロメオ君はもう五匹目だというのに。

「面倒臭い」

 僕は雷撃を海に放った。

「……」

 小魚が一匹だけ浮いてきた。

「ちっちゃ!」

 オクタヴィアにクスッと笑われた。

 川ではよく釣れるのになぁ。どこか気が立っているのかも知れない。

「見えたぞ」

 きょうのために畑違いの水夫の仕事をしてきたドワーフのひとりが見張り台で声を上げた。

 中央断層があった辺りだそうだ。

 愕然とする冬景色が広がっていた。高い崖の壁がどこまでも続いていた。

 海の上に生きている人の姿はなさそうだったが、所々のこった大地の欠片や残骸の上に犬や鹿が取り残されている。

 ここまで悲惨な目に合うと、生きてる奴はなんでも救いたくなるもので、誰言うことなく救助活動が始まった。

 まあ、僕たちにお鉢が回ってくるんだが。

 このときばかりはオクタヴィアも大活躍である。

 なだめられた獣たちは大人しく、船倉の一室に収まった。

 馬車馬のために放り込んでおいた干し草も『楽園』に置き忘れていたので、敷き藁の代わりに取り出した。

 ロメオ君に変な顔をされた。

「整理整頓」

 オクタヴィアがロメオ君の言いたいことを代弁した。

 浸食は続いていた。

 見ていただけでも三度、崖が崩落して、大きな波飛沫を上げた。



「あッ!」

 まずい。

「どうしたの?」

「例のS級冒険者だ!」

 生きてやがった。しぶとい。

 魔法使いがいるからなんとかするとは思っていたけど。

 氷の上に掘っ立て小屋まで建てて、優雅に日向ぼっこしていた。

 パーティーメンバーだけでなく救出した人たちも少しいるようだった。子供たちの姿が見えた。

「顔を合わせるのは不味い」

「見られたんだ?」

「接近戦かまされた」

「ほんとに? へー」と言いながら、ロメオ君はこちらを見上げる冒険者を見下ろしていた。

「やっぱ、S級ってすごいんだね」

「こっちも本気じゃなかったけどね」

「だーれが本気じゃなかったって?」

「え?」

 振り返ると弓使いのお姉さんが甲板の上にいた。


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