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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(崩壊)10

「トビアはいるか?」

「はい、ここに」

「無事だったか?」

「はい。おかげさまで」

 僕たちはサンセベロ港のポータルの前にいた。

 警告に従い脱出してきた人たちと、ついさっき助けた人たちがいた。勝手に脱出した連中の行き先までは関知できないが、周囲をぐるりと領主の守備隊が取り囲んでいた。

「うまく行ったかい?」

 ロレダン村のあの店員がいた。

「S級がいたよ」

「魔物かい?」

「いや、冒険者」

「君はそれをやり過ごしてきたのかい?」

「本気じゃなかったみたいなので。たぶん生きたまま捕らえたかったんでしょう」

「本気じゃなかったのは君もだろ?」

 食えない男だ。

「俺も船を用意した。こう見えて伝手はあるんだ」

 寂れた村の商人に巨大な商業船を手配する力なんてないだろ、普通。

「それより、ほんとに大地の崩壊は起こるんだろうな?」

「ドワーフ連中は確信してるし、西の一角では現実にもう始まってる。中央の断層より西の町や村は今すぐにでも逃げなきゃ危ない状況だよ。断層がずれた段階で、地盤の弱い西半分は間違いなく海に沈む。強引な手だけど急いで追い出しにかからなきゃ。崩壊するより早く、多くの人口を抱える王都に重い腰を上げて貰わないといけないんだ」

 ドワーフが一人、ポータルから出てきた。

「大変だッ! 断層の崩壊が始まっちまった!」

 時間が止まった。

 それは予定より一日早い知らせだった。

 状況を知っている者たちは天を仰いだ。

 地盤がずれれば、その時点で西側のすべてのポータルの座標は一瞬にして狂うことになる。わずかな歪みなら修正も可能だろうが、安全装置が働いた段階で、軒並み使えなくなる。

 崩落を誘発したって、もう誰も脱出させてやることはできない。

 僕はポータルの元に走り、装置を作動させた。転移先リストを食い入るように見つめた。

 リストから町や村の名前が次々消えていく。

「あああ……」

 間に合わなかった……

「津波に注意しろ!」

「押し寄せてくるぞ!」

 港湾関係者が声高に叫んだ。

 停泊中の船が音を立てて軋んだ。

「船を固定しろ! このままじゃ、桟橋が潰される! 船も沈むぞ!」

 間に合うべくもなく、潮が見る見る引いていった。津波の兆候である。

「来るぞ!」

 船の腹が擦りそうな程水位は下がり、桟橋の土台の柱が手前から順番に露出していった。

「高い場所に逃げろ!」

「高台だ! 急げ!」

 港に集まったほかの町の住人たちは土地勘もなくオロオロするばかりだった。

 港湾関係者や守備隊が誘導するが、避難はままならなかった。

「やるしかないよね」

 ロメオ君が言った。

「そうだね」

「ナーナ」

「がんばる」

「ようし! 一世一代の大仕事だ! 災害認定でもなんでも来やがれ! ロメオ君! ヘモジ! オクタヴィア! あの防波堤に行くよ」

 僕はゲートを開いた。


 転移して防波堤の先に僕たちは降り立った。

「おお、凄いな、こりゃ! どんな魔法だい? 大陸じゃ、転移ゲートなしで移動できるのかい?」

 余計なのまで付いてきた。トビアも別にもう付き合わなくていいのに。

「トビア、お母さんたちはどうした?」

「ドワーフの船に乗せて貰ってるから、大丈夫だと思う」

「そうか」

 姉さんが設計した鉄の船か。時間があれば見たかったな。

 僕とロメオ君は万能薬をありったけ、リュックのなかから取りだして、ポケットのなかやポーチのなかに放り込んだ。

 そのうちの一本を僕はまず飲み干した。

 戦闘で空っ穴になった身体に染み渡る。

 僕はトレントの杖を取り出した。

 そして船を守るべく周囲の氷を固め始めた。

「なんだい、そりゃ? 変わった杖だな」

「トレントの杖だ」

 構っている暇はないので、言葉少なく答えた。

 トビアはヘモジに任せ、作業を続行した。

 オクタヴィアは僕のリュックのなかで待機中だ。

 僕たちは入り江の真ん中辺りまで凍らせると、氷の上を後退した。

 そして、全体を一気に凍らせた。

 ギューッ、牛の鳴き声のような音がして、氷が凝縮していく。

 大きな破裂音や鈍重な音をさせながら、外周はひび割れ、砕け、めくれ上がって、増水と共に乗り越えてくる海水と一緒に固まり、どんどん迫り上がっていく。

 急いで壁を作らないと。

 万能薬を一瓶、飲み干した。

 じわじわとこのまま水嵩が増すだけならまだいいが、大きな波が来たら、折角助かった人たちの脱出手段がなくなってしまう。

 なんとしても船を守らないと。

 僕は魔力を注ぎ込んだ。

 ロメオ君も負けじと氷の壁を積み上げていく。

 お互い万能薬の消費が進む。

 ヘモジはそんな僕たちを心配そうに見上げる。

 高波が氷壁を突破してこようがお構いなしに、乗り越えてくる海水ごとどんどん凍らせていった。

 壁が恐ろしい程の高さになっていく。決壊したらただでは済まない。

 水がどんどん流れ込んでくるがその分、足元の氷も分厚くなっていった。溜まりに溜まって、僕たちが立っている足下の高さは、でかい商業船の甲板並みの高さになっていた。

 だが、これ以上水位が高くなると、氷の浮力に持ちこたえられなくなる。外側は防波堤、両サイドは丘の大地に固定してある。氷は湾の底まで到達しているので、そっちにも打ち込んだが、これ以上の浮力には耐えられない。ロメオ君の方も限界に来ている。

 そうだ!

「氷の底を凍らせよう」

 氷が下から迫り上がってくれば、壁は勝手に高くなる。水位より高い位置に出た氷は重石になる。

 乗り越えてくる氷は無視して、僕は一気に氷の底から沸き上がろうとする水を凍らせた。

 丘に打ち付けた氷を砕いて、塊はどんどん上に伸びていく。効率的にもこっちの方が早い。

 ロメオ君も理解したようで、一気に壁を押し上げた。

 そして浮力の影響もなくなる程巨大な壁ができあがった。

「ミコーレの地下に作った壁よりでかいね」

 ロメオ君が笑った。

 余裕ができたようだ。一度凍ってしまえばこの気候なら溶けることはない。

 港の封鎖は完了した。

 巨大な氷の塊が入り江に収まり、海水の浸入を阻んだ。

 船のマストの見張り台にいる男が叫んだ。

「潮が引いていくぞ!」

 港から歓声が轟いた。

 港の施設は守られた。これで、島からの脱出手段は維持できた。

「安心はまだ早い。第二波が来るぞ」

 水夫が叫んだ。

 しばらく揺り戻しの波が続く。何度目かの波が一番高くなる可能性もある。まだ予断を許さない。

「お前ら化け物か?」

 店員が言った。

「ただの魔法使いですけど」

「ありえねぇ」

 万能薬を飲み干すと魔力が杖に吸い込まれていく。さすがに杖の備蓄も切れたようだ。

 小瓶二瓶飲み干してようやく収まった。

 どれだけ魔力を備蓄できるんだ、この杖は。


 結局、第一波以上に高い波は襲っては来なかった。崩落した方向と港が真逆に位置したため影響が少なかったらしい。

 だが、これは大きな誤算だった。

 海のことを何も知らないドワーフ故の誤算であった。

 当分は安全だと思われていた、東の大地も今回の津波で海岸線が大きく抉られることになったのだ。これによってドワーフが掘り進めてきた坑道にも影響が出始めている。ゲートから次から次に人が現れた。

 この港ももはや安全ではない。地下もドワーフの鉱区に水が入ってきたと知らせがあった。

 氷塊が港に陣取っていては船は出せない。

 僕とロメオ君は今度は氷を溶かす作業を開始した。が、ここで思い付いた。

 全員を船に乗せることはできない。だったら……

 以前、ナガレと一緒に海で漁をしたときのことを思いだした。

「氷で船を作ればいいんだ。助けが来るまでは浮いていられるだろう」

 僕とロメオ君は氷の壁を押し倒して、今度はそれで巨大な船を造った。

 でかすぎると防波堤を越えられないので、適当な大きさに砕いた。

 それでも一塊当たり、多層構造にして三百人ぐらいは乗せられるように工夫した。

 どんどん氷の船に避難民を乗せて沖合に流していった。

 すべての船がロープで連結されているので、遭難することはない。取り敢えず一番近い島まで辿り着ければそれでいい。仮に溶けても、また凍らせればいいだけだ。

 推進力は一切無いので帆船に引っ張って貰っているが、既に長い流氷の列ができあがっている。陸の崩落に巻き込まれないためにも、今はみんな辛抱のときである。


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