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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(S級冒険者)9

 今回の一連の崩落事件を人為的な行為と見なす者が現れたということだ。

 そりゃそうだろう。これまで四つの村や町が消滅したが、まるで計ったかのように予兆があり、大惨事であったにも関わらず、人的被害は皆無なのだから。

 奇跡もここまで続けば、疑うのが筋というものだろう。おまけに目立つドワーフを中心とした救出部隊が暗躍しているとなれば尚更だ。

「優秀な探知スキル持ちがいるみたいだ」

 町の出口から迷うことなく、一直線にこちらに向かってくる。

 でも手遅れだ。もう崩落は始まっている。

 町に戻られるとロメオ君たちの邪魔になる。足止めさせて貰おう。

 僕はウィスプになった気分で吹雪を起こした。そして何もかも凍らせた。

 さすがにS級。ビクともしない。

 結界を張る魔法使いもさすがと言ったところだ。が、そちらに魔力を回復させる手段がどれだけ残っているかな?

 人数的にも、実力的にも接近されてはこちらが不利。

 ロメオ君からの情報では敵は前衛二人、アサシン一人、魔法使いと回復役の典型的な五人パーティーだ。

 近づかれるまでに削げるものは削いでおかなければ。特に引き返す手段は奪っておかなければロメオ君たちが危なくなる。なかにも別働隊が潜んでいる可能性は否定できないが、そのときはヘモジとロメオ君がなんとかしてくれる。

 だがこのパーティーに戻られたら、ロメオ君たちが挟撃される。

 だからなんとしても彼らを足止めしなければ!


 極寒のなかでは結界による魔力消費が大きな負担になる。深い積雪のなかでは移動もままならないはずだ。間違いなく魔力に依存する戦闘が展開されるはずである。

 だとしたら最大の魔力タンク、魔法使いから潰してしまうに限る。魔力さえ消費させてしまえば、この寒さは僕の味方になる。

 まずは根比べである。ウィスプのように消費を極限まで抑えつつ、最大の効果を上げるブリザード攻撃。手持ちの魔法回復薬をすべて消費させてやる!

 ブリザードは敵を足止めし、こちらの姿を隠し、一方的に魔力消費を促した。

 先に干上がったのはS級冒険者の方であった。

 転移結晶を使われた。

 まずい! 撤収される!

 僕は雷を落とした。が、盾持ちに弾かれた。

 くそ! 装備付与だ!

 あの盾…… 加減してちゃ貫けない!

 ロメオ君たちの下には行かせない!

 僕はゲートを氷で覆った。そのためにこちらから距離を詰める結果になってしまった。

 魔法使いがこちら側の雪原の雪を一気に払う爆炎を落としてきた。

 計られた!

 前衛の剣士が雪が消えた地面を蹴って迫ってくる。

『ステップ』で一気に間合いを詰められた。

 僕のにわか『ステップ』とは跳躍距離も速さも段違いだ。

 剣士は剣を振り抜いた。

 僕が引き下がると予想していたのだろう。だが、僕は前に出た。

 そして結界で剣を受けると同時に衝撃波で吹き飛ばした。

 手応えがなかった。

 剣士は吹き飛ばされながらも、しっかり剣でガードしていた。

 取り敢えず仕切り直しである。

 ブリザードを再び起こし、身を隠すと雪の深い場所に移動した。距離を取り過ぎると転移されそうなので距離は開けられない。

 剣士は僕の結界を切り裂けなかったことが気にくわなかったようで、気合いを増した。

 ちゃんと切り裂いてますよ! でも結界は一枚じゃないんで。

 死角から矢が続け様に飛んできた!

 僕の結界がことごとく弾き返した。どれも抜けていれば命中している。

 全方位に展開させていなければ、気付かなかったところだ。

 さすがS級! 諦めが悪い。

 最後の一発が破裂した。

「魔法の矢だッ!」

 アサシンが隙を見て消えた。

 このままだと盾持ちにも接近される。

「トビア、みんなと先に行け。救出が終わったら合図するように言ってくれ」

「分かった」

 ポータルが安全だとは限らないので、僕はゲートの出口を町の近場に開いた。

 トビアは飛び込んだ。

 そのとき僕の結界が剥がされた。が、次の一枚に阻まれ、突っ込んできたアサシン系の男が恥ずかしいことになった。顔面を二枚目の障壁にぶつけたようだ。

 僕は久方振りに隠遁をかまして『雷神撃』を放った。

 当然当たるべくもないが、『装備破壊』のおまけが付いている。

 とにかく数を撃つ。

 スピードスターには分が悪い。積雪が足を取り、僕の味方をする。

 おまけに雪は電気を通す。

 地元の冒険者なら寒冷地対策用の付与を当然しているだろう。が、それが剥がれたらどうなる?

 こちらの『装備破壊』にアサシンはすぐに気付いて攻撃を手控えた。それは取りも直さず、破壊が成功したという証である。

 代わりに投げナイフを投げてきた。

 続け様に二枚、結界が剥がされた。

『結界砕き』の付与付きか!

 三枚目があることにアサシンは驚いている。

 アサシンの男の顔に霜が付き始めた。

 何が起こったのか、アサシンは慌てた。

 二度目の『装備破壊』が冷気対策を施していた装備を破壊したようだ。

 知ってるかな? 雪の塊だって武器になるんだよ。

 僕はアサシンを振り切るフリをしながら、『装備破壊』を載せた雪を蹴り上げていたのだ。

 何分『装備破壊』のレベルが低くてなかなか発動してくれなかったが、それが却って目眩ましになったようだ。

 アサシンは撤収を余儀なくされた。

 が、まだ終わらなかった。結界が薄くなったところに弓使いが大技を使ってきた。

 爆発が起こり、爆煙が周囲を覆った。

 またか! 視界を塞ぐつもりか?

 前衛の盾が一人、剣士が一人、一気に間合いを詰めてきた。

 二人がスキルを発動した。

 視界を塞がれてもしっかり見えている。

 向こうもそれは分かっているだろうが、こちらの結界が剥がれた今が畳み掛けるチャンスだと判断したのだろう。例え結界を復活させたとしてもそれで魔力は尽きると。

 弓使いが『結界砕き』を付与した矢を放ってきた。

 結界が一枚剥がされた。

 続いてようやく前線に到着した盾持ちがバッシュ系の攻撃を仕掛けてきた。

 僕は結界を一枚犠牲にして敢て受けきった。

 盾の後ろに弓使いが弓を構えて狙っている。よければ最後の結界が打ち砕かれる。剣士が飛び込んでくる絶妙なタイミングで!

 だが剣士が弓より先に結界を砕いた。

 アサシンは魔法使いが作った結界のなかで待機している。

 もうひとりは回復役だと思うが。

「どこにいった?」

『竜の目』で探索した。

 後ろ? 隠遁スキル持ちか!

 ランス! グングニルモドキ! 

 聖騎士崩れかッ!

 完全に間合いに入られた。

『スティンガー』だ!

 グングニルには『障壁貫通』が付いている。こいつのランスにも付いているのか?

『千変万化』と『ステップ』で凌いだ。

 お礼に『雷神撃』を放った。が、かろうじて避けられた。

 だったらと範囲を広げた衝撃波で吹き飛ばした。

 一息入れようとしたら、矢とでかい盾が飛んできた。

 盾持ちが盾投げるなよ!

 怖すぎる! S級!

 剣士がまた一気に間合いを詰めてきた。

 僕は雷撃を目の前に降らせた。

 剣士の動きが止まった。

 一瞬の隙だった。剣士の攻撃が決まると思っていた一行は反応が遅れた。

 がら空きだよ。

 僕はその場から消え弓持ちの前に姿を現わした。

 アサシンが唯一反応したが、距離がありすぎた。

 僕は弓持ちの弓を真っ二つに切り裂いた。

「きゃーッ、なんてことするのよ! これ高かったのにーッ」

 知ったことか!

 町の上空に合図の花火が上がった。

「ようやくか」

 僕は雪で壁を作った。

「依頼主はよく選ぶことだ」

 僕が捨て台詞を吐いて転移しようとしたら、魔法使いが雪壁を豪快に吹き飛ばした!

「こわッ」

 もうここまで回復していたのか。

 でも、もう終わりだ。

 こっちも魔力を使いすぎた。装備付与を新しくしていなかったら、先に枯渇してたところだ。

 地面が大きく揺れた。と同時に町の外壁が飲み込まれた。

 鐘楼の鐘がカンカン音をたてながら、奈落に飲み込まれていく。

 どうやら崩落のときが来たようだ。

 一行は撤収すべきか、戦闘を続行すべきか迷っている。

 だったら先に失礼しよう。

 お互い殺意はなかったってことで、引き分けだ。

 ポータルの座標がずれる前に逃げなよ。飛べなくなるから。

 僕は消えた。


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