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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(呼び水)8

「配置に就いた」

「村のなかは?」

「ほぼ無人だそうです。警告が効いたみたいですね。後は動けない年寄り連中と、警告を信じない連中だけだそうです」

「助けられそう?」

「なんとか」

 僕の隣には獣人の少年が立っていた。家族に薬を届けようとしていたあの少年だ。名をトビアと言う。母親と妹の咳はすぐに治ったらしい。今回の作戦に参加を決めた有志のひとりである。お礼をしたいと、彼が僕の連絡係を買って出てくれた。

 ドワーフたちは今回の作戦の前段階として、結構広範囲で呟いていたようだ。

 今、彼に村のなかに派遣された別働隊と連絡を取って貰っている。

 別働隊にはロメオ君とドワーフたちが当たっている。戦闘になる可能性も考えてヘモジを付けた。そして連絡と工作要員にオクタヴィアも。

 こちらの作戦実行前にロメオ君たち別働隊がまず村や、町の様子を確認する手筈になっていた。どんなにむかつく連中でも無益な殺生は避けたかったからだ。緊急事態に際し、勝手に居残った連中の命まで面倒を見る余裕はないが、それでも心変わりをするだけの時間を提供しようと僕たちはここにいるのだ。

「作戦開始していいって」

 トビア少年が言った。

「じゃ、始めるか」

 僕は積雪を溶かし、大地に直に手を触れ、村のはずれの地下を弄り、地盤を調べた。

「確かに空洞がある。これならいつ崩落しても不思議じゃないな」

 ドワーフたちが言っていた通りだった。

 僕は大地を支える一角を崩した。

 目の前の大地が音を立てて陥没した。

 少年は余りのことに目を丸くした。

 そのくせ「もう少し派手にやってくれだって」と僕に伝言を伝えた。

「いや、もう充分だ。あれは連鎖する。早く脱出させろ。逃げられなくなるぞ」

 トビア少年がオウム返しで、遠くにいる別の連絡員と言葉を交わし、頷いた。

 崩落は止まることなく、どんどん大きな亀裂を生んでいった。そしてその亀裂は村の外壁にまで到達した。

 村人が、門から堰を切ったように飛び出してきた。そして次々、ポータルを使って逃げ始めた。

 ロメオ君たちも出てきた。

 ドワーフたちは怪力を活かして、動けない人たちに肩を貸し、担架に乗せて次々脱出してきた。そしてポータルに消えていった。

「悪いが、村を破壊させて貰うよ」

 僕は村の真下に手を加えた。

 二つ目の陥没が起こった。村の中央に巨大な縦穴ができると、外壁にあった亀裂と繋がり、一気に村の半分を飲み込んだ。後は雪崩を打つように穴のなかにどんどんと周囲の地面が飲み込まれていった。おっと、僕たちも脱出しないと!



「町を破壊する?」

「そうだ。一刻の猶予もない。崩れやすい西側から破壊するんだ。中央の採掘現場からの連絡だと、既に水が吹き出したそうだ。採掘は中断され、魔法使いが投入されたらしい。水を凍らせて応急処置をしているそうだが、今更どうにもならんだろう」

 ジグロが言った。

「亀裂を修復して、坑道を塞げば問題ないんじゃ? 水が湧いたとなれば、中央の採掘計画自体が頓挫するだろうし。避難計画はその後で。さすがに今度は上の連中も言うことを聞くでしょうし」

「そうじゃないんじゃよ! 坑道に水が入ってこなければいいという問題じゃないんじゃ!」

 一番年長のドワーフに怒られた。

「でも時間は稼げます。町の破壊なんかしなくても、そっちを助ける方がよっぽど建設的じゃないですか」

「中身の詰まった石と空洞の開いた石、どちらが頑丈じゃと思う? しかも空洞の開いた方は一度亀裂が入った欠陥品じゃ。内側からどんなに補強しても、自然の猛威には逆らえん」

「僕たちなら」

「わしらですら門前払いじゃというのに、旅人がどうやって侵入するんじゃ? 殺されるのがオチじゃ。言っておくが、わしらが話題にしておるのは金の採掘現場じゃぞ?」

 ああ、そうだった。

「それだけじゃない。中央にはここからこう…… こういうふうに二つの地層が合わさってできた断層があるんだ。そして今回のことで固い地層のこの辺りから水が出たわけだが、それが意味するところはだ。いいかね? ここで水が出たと言うことは、水はもうこの断層を越えて、坑道のあるこの辺りまで達しているということなんだよ。こうなったらもう崩落するに任せるしかない。わしらも掘った穴を埋め戻してはいるが…… 広すぎて手が付けられないし、そろそろ手を引かねばならん。先に陥没させて穴を塞いでしまえればいいのだが、人族との取り決めで地上に影響を与える行為は禁じられている」

「そんなこと言ってる場合じゃ!」

「島の半分の崩落を止められたとして、そのときわしらはどうなる? 王たちは自分たちの責任を逃れるために、一連の事件の責任を全部こちらに押っ被せてくるに決まっておろうが!」

 棟梁が言った。

「遅いか早いかだけの差じゃ。どちらにしてもこの国は終わりじゃ。これ以上掘れる場所なんざ、この国にはもうないんじゃ。どんなにわめこうがな。今回の騒動も元を辿ればそれが原因じゃ。採掘に頼らない国家運営が必要なんじゃ。なのに奴らは未だに金が地面から無限に湧いてくると思っておる」

「少なくとも近日中に王都のあるこの辺りは、断層があるせいで大きな横滑りを起こすだろう」

「連絡員の情報では揺れの間隔が短くなってきているらしい」

「地震?」

「地上の連中もさすがに、異常に気付いただろう。早くて今夜、遅くても数日中にはこの島は真っ二つになる。そして半分が海に沈み、残りも後を追うように…… 地層が大きく動けば、ポータルの設定座標も狂って使えなくなる。大地が沈む頃には何もかもが手遅れになっていることだろう」

 

 まず、事前に警告が出された。それは既にドワーフたちの手で行なわれていた。

 警告は、文書と口頭で行なわれた。文書は対象となる村町の長宛に、口頭は獣人の耳に入るようになされた。

 警告は一貫して『明日、村(町)が水没する。国外に避難されたし。避難できない者はサンセベロの港まで来られたし』という内容だった。

 信じるか信じないかは五分五分だが、その手の噂は警告前から既にドワーフと、唯一ドワーフの言葉を信じたサンセベロの領主の配下によって流布されていた。

 この国の支配階級はとことん亜人たちを見下していたから、彼らの訴えに耳を傾けようとはしなかったが、奴隷たちはそうではなかった。奴隷たちの情報網は噂を裏打ちするだけの補完情報を既に手に入れ、ことが真実であることに辿り着いていた。警告したその日に僕たちが襲った町や村の亜人たちは脱出していた。取り残されたのは亜人に非協力的な人族だけだった。 取り残された連中もさすがに異常に気付き、取り敢えず村や町から離れる決意をする。それでも居残る連中の尻を僕が叩くという寸法だった。

 西から幾つもの町や村が消えれば、警告が嘘ではないと大都市は察知するだろう。

 サンセベロ港はもっとも東にある不凍港だ。沈むのは最後になるはずだ。

 つまり脱出までの時間ができるということだ。

 すべての町を破壊しなくてもいいのだ。

 大事なのは最初の呼び水だ。

 だが、頭の切れる奴はどこにでもいる。腐った連中のなかにもだ。



「S級冒険者がきます!」

 町中のロメオ君から、知らせが来た。


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