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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(ロレダン村)5

エルリンの杖で回収した一つをお持ち帰り二個目にする一文を追加しました。

前話の最後から二行目。11/24

「今度は僕の番だよ」

 ロメオ君が杖を構えた。

「ロメオ君」

「分かってる、借金取りに気を付けろ、だよね」

「核は眉間だよ」

 ロメオ君は頷いて、地面を蹴った。

 僕はヘモジとオクタヴィアを連れて後を追った。

 眼下に移動しているゴーレムを発見した。

 倒したゴーレムのテリトリーを補うかのように現場に向かっている。

 ロメオ君が近付くといきなり戦闘モードに移行した。

 ゴーレムはこちらを仲間を倒した敵だと即断したようだった。

 とは言え、射程外を飛んでいる僕たちを捕まえることはできないし、投げる岩も雪の遙か下だ。雪玉を投げるにも、玉を丸める前に破壊されては為す術がない。

 精々冷気を強めるのが関の山だった。が、ウィスプのあれに比べたら子供だましもいいところだった。猫の尻尾も凍らせられない。

 ロメオ君は一点に集中して攻撃を仕掛けた。


 ついさっき、ほんとについさっき、ロメオ君の杖に枝が生えてきた。

 先端の丸いウィスプのコアに巻き付いていた太い幹から細い枝が出てきて、コアを雁字搦めにした。太い幹は細くなり、コアは相変わらず赤色を帯びていた。柄は更に白く、石突きは先端部分が小さく、鋭くなっていた。

 一見エレガントに見えるが、火の魔法を使うと、先端の枝が燃え上がったかのように赤く輝くのである。

 最近、火属性ばかりだからだろうが、多才なロメオ君のことだ、この先どうなることやら。


 あっという間にロメオ君は核を破壊した。

 ゴーレムはピタリと動かなくなった。

「またうつぶせに倒れられたら困る!」

 ヘモジがミョルニルで顔面をぶっ叩いたら、首がもげて雪原を転がっていった。

「ああああッ!」

 僕たちは追い掛けたが、もげた頭は加速しながら坂を転がり落ちていく。

 海に面した崖っぷちギリギリで頭は止まった。

「危なかった。水没するところだった」

 僕は側に降下すると、自分の杖の先をゴーレムの額に付けて破壊しようと試みた。

 すると触れている箇所から、放射状に大きな亀裂が入った。

 ヘモジがそこに一撃を加えた。

「二つ目ゲット」

 砕かれた石片のなかから核が見つかった。

 振り返ると坂の上に首のない石像が立ち尽くしていた。

「風化するまであのままなのかな?」

 ロメオ君が言った。

 この調子でいこうと思ったのだが、さすがに冷えてきた。太陽は南中に位置しているというのに。


 僕たちは元の崖に戻って穴蔵に身を潜めた。

 地図を見ながら討伐した場所を記していった。四体分の丸を付けた。

「残り三体か。思ったより大変だね」

「倒すより、核を回収する方が大変だよ」

「迷宮に戻りたい」

「まったくだ」

「追跡者は?」

「いない、いない」

 オクタヴィアは火の魔石の前で溶けそうな程だらしなくくつろいでいる。

 雪山では熱を奪われるから、その分多めに食事を取らないといけないので、今、お餅を網に掛けて焼いている。

 ヘモジが金の器のなかに雪を放り込んで網に掛けた。焼けた餅をお湯に濡らして、きな粉をまぶすのだ。

「狩りが終ったらどうします?」

 ロメオ君が聞いてきた。

「追っ手のことを考えると、ロレダンの村に寄るべきかどうか」

「でもゴーレムの核、届けないと」

「そうなんだよなぁ」

「急いで届けて港に戻っても、船がなぁ……」

「宿も村で取るか、他の町で取るか考えないと」

「取り敢えず、盗人対策にアクセサリーは固定化の魔法でも掛けておくか。『楽園』に放り込めるものはそのとき放り込むことにして」

「ウナッ!」

 ヘモジが飛び跳ねた。

「火傷するなよ」

 ヘモジは雪の壁に手を突っ込んだ。

「お、膨らんでる、膨らんでる」

 お湯に潜らせ、きな粉をまぶして、皿に盛ってやると、みんな一斉に口のなかに放り込んだ。

「おいしい」

 ロメオ君が餅を伸ばしながら頬張った。

「懐かしい味」

 オクタヴィアがちびりちびりと頬張った。あっという間に粉まみれになっていた。

「ナーナ」

 ヘモジも満面の笑みを浮かべている。

 僕も一つ取ると、次を焼き始めた。


                                          

 三体狩るのは、難しくはなかったが、見つけるのに苦労した。ほとんどの時間を費やした。この季節の日の入りは長いと資料にあったが、空にはもう星が瞬いていた。

 結局、野宿することになった。

 崖の上に本格的に陣を張った。とは言え、結界を張っただけだが。

 床に『楽園』に放り込んでいた安い毛皮を敷き詰め、その上にコタツを置いた。壁には簡易ストーブ。魔石をくべずとも、お茶をするのにポットを沸かしただけで部屋のなかは充分暖まった。

 コタツに全員寝転がってお休みである。

 

 翌朝、冷え込んできて目が覚めた。

 ストーブの火の魔石が切れていた。

 全員を起こすと、出発の準備をさせた。

 食事は野菜スティックと、チーズを挟んだパンと、ゆで卵と紅茶だ。

 昨日とは打って変わっていい天気だ。随分先まで望めた。一気に麓まで飛べそうである。


 転移を繰り返し、一時間程滑って、ようやく村に到着した。

 別に寄らずとも門番に証拠を預け、言付ければ、それで済んだのだが、僕たちはここまで来て素通りもないだろうと、村のなかを一巡りしてから帰ることにした。

 人頭税は召喚獣にも、飼い猫にも掛からないので、ふたり分で済んだ。

 ロレダンの村は、丘を丸々削った巨大洞窟のなかにあった。入口付近はゴーレムの襲来を受けたのであろう、まだ補強した柱や石壁が真新しかった。

 村は暖を取るために魔石以外にも薪を焚いているのだろう、天井や壁が煤だらけで真っ黒だった。天井には屋根の架かった大きな穴が開いていて、そこが空気の吐き出し口になっているようだった。

 当然の如く建物も煤だらけだった。

「泊まらなくて正解だったね」

「肺を悪くしそうだ」

 突然、目の前に獣人の子供が飛び込んできた。

 一回転して倒れた。

 ピノたちと年の頃は変わらなかった。

「大丈夫かい?」

 僕たちは助け起こそうとした。こんなに寒いのにシャツ一枚だけだなんて。いくら獣人でも寒かろう。身体まで煤まみれになっていた。

 少年は僕たちの顔を見ると、怯えて走り去っていった。

「ナーナ」

 少年が何やら落としていった。ヘモジが拾い上げた物を僕たちは見下ろした。

 僕は物を認識スキルに掛けた。薬瓶のようだが、

「水?」

 僕たちは顔を見合わせた。

「はははははっ」

 笑い声が聞こえた。

「あのガキ、また騙されやがったぜ」

「いい加減に気付けっての。自分たちの給金じゃ、薬なんざ買えないんだってな」

「てめえもひどいよな、ただでさえなけなしの金を子供から騙し取るんだからな」

「奴隷の分際で、俺たちの前に姿を出すのが間違いなんだよ。奴らは狭い路地で凍えてるのが似合いなんだ。村のなかで暖が取れるだけでも礼を言って貰わなきゃな」

「てめえ、ほんとに最低だな」

 笑いながら三人組が僕たちの前を通り過ぎた。

 忘れていた。ここがそういう場所だということを。

 ふざけやがって!

「駄目だよ! エルネストさん、騒ぎを起こしちゃ」

「だって、ロメオ君!」

「分かっていたことじゃないか。それより。あの子を見つけよう。薬が必要ってことは病人がいるってことだよ」

「ナーナ」

「あいつらに鼠をけしかけるのは後にする」

 いいアイデアだな。でも今は少年を追わないと。

 すると薬を落としたことに気付いた少年が戻ってきた。

「警戒されてるな」

「行ってくる」

「頼んだ」

 オクタヴィアを伝令に出した。

 少年は何ごとかと不思議そうにオクタヴィアを見つめた。

 少年が飛び上がって驚いた。

「しゃべる猫はさぞ珍しかろう」

「尻尾が二本ある段階で普通じゃないと気付くと思うけど」

「あ、戻ってきた」

「人族は怖いって」

 オクタヴィアが言った。


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