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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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ユニコーン・シティー7

「そっち行ったぞ!」

 オズローの声が森の奥から聞こえた。

 パンパンと銃声がなった。キャイン、餓狼の鳴き声が闇のなかから聞こえた。

『魔力探知』全開で戦況を見ている。

 逃がしたのは何匹だ?

『牙狼、レベル十七、オス』

 僕は剣を振った。振った軌跡に牙狼が飛び込んできて絶命した。

『一撃必殺』である。

 一匹を囮に三匹が僕の横を通過した。フィデリオを抱えたエミリーの下に向かっている。

 バシュ、一匹の狼が弾かれた球のように、草の上を跳ね、あらぬ方向に転がっていった。

 キャイン、僕の作った氷の(アイスウォール)に一匹が突っ込む。

 最後の一匹がエミリーを狙う。がアンジェラさんのライフルの銃口がすでに狙いを定めている。

 バシュ、吠える間もなく狼は絶命した。

「敵は?」

「もういないのです」

 リオナが戻ってきた。

「やっぱり銃がないと心許ないな」

 僕はアンジェラさんに取り上げられた銃を見つめながら言った。

「お姉さんみたいに豪快にやっちゃいなさいよ。魔法使いなんて浪費の典型でしょ。ちまちまやってたら死ぬわよ」

「すげえ、あんたたち、あれだけいた狼を瞬殺かよ」

 死んだ狼を両手に元凶が戻ってきた。

「トラが突っ込んでいかなきゃ、エルリンの魔法で一網打尽だったのです」

「だからトラじゃねぇって言ってんだろ」

「血の臭いをさせて戻ってくるな。さっさと皮を剥いだら地面に埋めろ! 今が魔獣たちの時間だということを忘れるな」

 冒険者モードのアンジェラさんにオズローが叱られた。


 休憩所の門前に着くとすぐ、僕たちを狙う十匹程度の餓狼の群れが現れた。

 予定では一匹残らず凍らせて絞める予定だったのだが、オズローが待ちきれずに例の調子で群れに突っ込んだ。

 餓狼はあっという間に散り散りになった。

 オズローの初撃とリオナの咄嗟の反撃で半数は沈めたが、残りが追い立てられて、こちらに向かってやってくることになったのだ。

 逃げるついでにエミリーと抱えている赤子をさらう気だったのだろうが、運がなかった。


 オズローはアンジェラさんとおまけその一にこっぴどく叱られた。「ひとりの身勝手が部隊を滅ぼす」だとか「誰もお前と組まなくなる」とか辛辣な言葉が続いた。

 さすがに同情する気にはなれなかったが、同時に、誰か教える人はいなかったのかともいぶかしんだ。

 親父さんに学ぶ時間はなかったのか? 否、亡くなるまで親父さんのいたこの世界に入る気などさらさらなかったのかも知れない。

 さすがに空気が険悪になったのか、普段泣かないフィデリオが泣いた。

 結局、オズローへの折檻はそこでお流れになった。

「悪かった」

 戻ってきたオズローは小さな声で僕に謝ってきた。

 悪い人じゃないんだけどな。

「元気出すのです。これからご飯なのです! 食べれば悩みは解決なのです」

 リオナは完全にオズローを弟分として見ている。

 確かに新入りかも知れないが、いいのかそれで?


 無人の外壁だけの休息所の扉を閉めると結界が作動した。

 これで朝まで安全だ。念のためにとった撃退行動が、とんだことになってしまった。

 休憩所には井戸とかまど、木のテーブルと椅子はあったが、物置小屋だけで屋根と寝床はなかった。

 すでに空には一番星が輝き、太陽は森の彼方に落ちようとしていた。

 僕は光の魔石に魔力を注いで、馬車の荷台と中央の柱の燭台の皿に石を置いた。

 みんなが食事の用意をしている間、僕とオズローは四人用のテントを張り、毛皮を敷き詰めた。

 食事はいつもと同じ、パンとサラダとスープと肉だ。

 肉は串に刺してローストした塊を思い思いの大きさにカットして食べる趣向にしたようだ。

 火を入れたかまどに深い鍋を逆さにかぶせて、そこにパン生地を貼り付けていくと、大きなお皿サイズの薄いパンができあがる。パン生地にはチーズとハーブが練り込んであるので、これだけでも十分な食事になった。

 僕は何枚か薄くスライスした肉を野菜と一緒に、二つ折りにしたパンに挟んで食べた。うまかった。

 エミリーも同じ方法で食べた。

 アンジェラさんは肉は摘む程度でサラダをメインに食べていた。

 オズローは怒られた手前、余り手を出さなかったが、それでも僕と同じ量は食べた。

 リオナは目の前にある肉を征服せずにはおれないのか、皿に山盛り取ってきては頬張った。「野菜も食べなさい」と言われてもお構いなしである。

 お茶を飲み一服すると、みんなは早めに寝床に入った。

 オズローだけは休むことなく、離れた奥の部屋でひたすら剣を振っていた。自分の失態が、頭にこびり付いているのだろう。

 僕は剣を持って、オズローの隣に行くと、何も言わず、我が家直伝の剣の型をやって見せた。

 我流で今日までやってきたオズローには面白かったのだろう、いつしか食い入るように見つめていた。

 やがて僕と同じ振りを見よう見まねでし始めた。

 僕たちは無言だった。

 僕はひたすら同じ型を繰り返した。オズローが覚えたら、次の型に移行する。それの繰り返しだ。

 久しぶりに目一杯、剣を振った。清々しい気分だ。

 でも疲れが残っては本末転倒。五つ目の型が終わったとき、僕たちは一回だけ最初から通して型を振り、そして切り上げた。

 オズローは脳天気な笑顔を取り戻していた。

 僕たちは井戸で身体を拭き、着替えを済ませると、僕は荷台に、彼は地面にマントを広げて、深い眠りに就いた。



 翌朝、昨日残ったロースト肉をリオナと争いながら彼はすべてを平らげた。

 そして元気に愛馬に跨がると、先陣を切って進んだ。

 僕とアンジェラさんは御者台に乗り後に続いた。

「おやまあ、何かいいことでもあったのかね」

 僕の顔を見てアンジェラさんがにやりと笑った。

「何もありませんよ」

 僕は焦りながら答えた。

「うちの子もあんたらみたいになるのかねぇ」

 考え深げに言った。

 馬車を休憩所から出すと、僕は休憩所の扉を閉めるために御者台を降りた。鍵はないので外側から閂を掛ける。

「嫌ですか?」

 僕は荷台に戻りながら尋ねた。

 するとアンジェラさんは笑った。

「待ち遠しいに決まってるじゃないか」

 そう言ってエミリーに抱かれて、図太く寝ている息子に目をやった。


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