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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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北方事変(着港)2

 船の一日は興味深く過ぎていった。

 見たことのないロープの結び目一つ、積み込まれている道具一つ、どれを取っても面白かった。沈没を回避するため、仕切りが施された船体構造、そこに納められた大量の樽。

 鉄製のフレームや(ビーム)を見ながら、「飛空艇を巨大化させるとしたら、この辺はミスリルじゃないとね」とか、「海に浮かべようと思ったら、ハニカム構造をうまく使わないと」とか、ロメオ君とふたり、船内を散策しながら会話に花を咲かせた。

 一方、オクタヴィアとヘモジは船員とあっという間に仲良くなっていた。

 元々猫は船の守り神的な存在だったから船夫も験を担いでオクタヴィアを優しく扱った。しかもしゃべるものだから、船夫も楽しくてたまらない。

「階段の裏、腐ってた。もうすぐ床抜ける」

 酒を振る舞われて気をよくしたオクタヴィアは人の視線が届かないような箇所の不具合を教えてやったりしていた。

「こりゃ、危ねぇ! 樽の重みで凹んだ箇所に雨水が溜まってたんだな」

「おい、急いで修理道具持って来い!」てな感じだった。

 ヘモジも猫の同伴者としておこぼれに預かっていた。こちらも身体が小さい分、オクタヴィアの指摘した狭い場所の修理などに重宝されていた。

「ナーナ」

「わりいな、ちっこいの、手伝って貰っちまって。昼飯にはふかふかのマッシュポテトサービスするからな」

「ナーナ!」

 体よく使われていたが、ふたりはそれでもなかなか楽しい船上ライフを楽しんでいた。初日は、だ。

 二日目になると状況は一変した。

 一気に冷え込んできたのである。薄着で頑張っていた船夫たちも今は毛皮のコートを着込んで、強い酒を煽っていた。

 僕たちも部屋のなかに籠もって暖を取っていた。

 寒いと言うからコタツを取り出したのだ。

 オクタヴィアとヘモジがコタツのなかでまどろんでいると、船夫に見つかって「これはなんだ?」と騒ぎになった。

 どこから出したと言われなかったのはロメオ君の風体が魔法使いのそれだったからだろうが、余りの快適さが災いして、船夫にあっという間に噂が広まってしまったのだった。

「火の魔石だけで?」

「こりゃ、効率的だ。小さな魔石でも、この広い船倉で充分暖を取れる」

「こりゃ、売り物か?」とあっという間に情報が拡散した。

 早速、工夫が真似をして船にあるテーブルの脚を切り落として、上に布を被せた。

「やっぱり厚手の生地がよさそうだな」

 そう言ってどこからか綿を持ってきて二枚の布の間に挟んで、あっという間に布団を作り上げてしまった。

「こりゃ、いいや」と入れ替わり立ち替わり船夫がやって来ては足を突っ込んでいく。

 そして三日目。

「港が見えたぞー」という声で目が覚めた。

 完全防寒を決め込んで甲板に出ると、真っ白な雪煙のなかに小さくそれっぽい物が見えた。

 僕たちは望遠鏡を取り出した。港には大きな船が一隻止まっていた。磯の方には一本マストの小舟が何隻もあった。何か漁をしているようだ。

 ヘモジとオクタヴィアは望遠鏡を僕とロメオ君から受け取ると、ふたり揃って手摺りの上で景色をじーっと眺めていた。

 寒くないのか?

 オクタヴィアはどこにも尻尾が触れないように根元に力を入れていた。変なところで曲がった針金のようだった。

 肉眼でも港が大きく見え始めると、甲板に現れた船夫たちで慌ただしくなった。

 総出でマストを動かす作業が始まった。

 僕たちは邪魔にならないように船室に戻った。


 しばらくして部屋の扉がノックされた。

「ポルティゴ港に到着しました」

 若い見習が知らせに来た。

 僕たちは言われるまま甲板に出た。

 トゥーストゥルク程ではないが、大型船を四隻停泊できるだけの大きな港だった。ただ、建物の屋根はどれも急で、低かった。

「ありゃ、二階の屋根だ。一階部分は雪に埋まってるんだ」と言われたときには仰天した。

 まだ冬じゃないのに?

 今年最初の大雪が数日前に降ったらしい。

「雪掻きは?」と尋ねたら「そんな無駄なことする奴はこの国にはいない。雪に潰されるような家に住む方が悪い」と逆に言われた。

 その割りには結界の類いはないみたいだった。やはり、台所事情は余りよくないのかもしれない。魔石をケチってるようだ。

 一緒に乗ってきた船夫に帰りは三日後だと教えられた。

 吹雪いているが、天候は悪くないらしく、積み荷を積んだら予定通り出航できるだろうとのことだった。

「帰りには冒険話を聞かせてくれよ」と一緒にタラップを下りながら催促された。

 地面に着いた途端に身体がふらついた。

 揺れにすっかり慣れた身体が、止まっている地面に慣れなければならなくなった。

 三半規管の発達した猫と何も考えていないヘモジは気にする様子もなかった。

 寒すぎて地面に下りることを拒絶して、僕とロメオ君の肩の上で変わらず揺れていたせいかも知れないが。

「一気に最北端の――」

「ロレダンの村」

「そう、そこまで行ってしまおうか?」

「それはよした方がいいですよ」

 ポータルの前で入国のチェックをしている検閲官に言われた。

「北端には何用で?」

「ゴーレムを狩りたくて」

「なんと!」

 周りにいた他の検閲官も驚いた。

 そして笑みを浮かべた。

「ギルドに依頼でも受けましたか?」

 そう聞かれたので「いいえ、彼が今ゴーレムの研究をしているので、野生のゴーレムを狩りにきたんです」と答えた。

「こりゃ、今年はいいことがありそうだな」

 そう言ってチェックもそこそこに検閲官は僕たちを通した。

「普段は、もう少し寒くなってから領主が金を出して、ゴーレム狩りに冒険者を雇うんだ。でないとさっき言ってたロレダンの村が毎年のように被害に遭うからな。領主もほとほと手を焼いているんだが、何をやっても次の年には湧きやがるんだから、始末に負えんのだ。なんでそんな場所に村をと思うだろうが、あそこにはこの国でも有数の鉱脈が眠ってるからな。王や領主も手放すわけにはいかんのだ」

「それで何体ぐらい狩る予定なんだね?」

 他の検閲官が話し掛けてきた。

「依頼ではいつも何体ぐらい狩ってるんですか?」

 逆にロメオ君が聞き返した。

「確か五体ぐらいだったよな?」

 その辺はあやふやなんだ。

「じゃ、それくらい狩っておこうか?」

「すぐ見つかればね」とロメオ君と話した。

「高い山がある! ロレダンから真っ直ぐ北に行った岬のところだ。まだ海は凍っていないと思うから行き過ぎることはないと思うぞ。奴らはその山の中腹にいることが多いんだ。昔は山頂に灯台もあったんだが、今は完全な廃墟になってる。なるべく多めに狩って貰えると有り難い」

「面倒でなかったら破壊したゴーレムの心臓を倒した証拠に村の守備隊に届けてくれないか? そうすれば村の連中も領主も安堵するだろうから」

 その心臓を獲りに来たんですけどね。まあ、必要なのは一個だけだし。

 僕たちは代金を払いポータルを潜ると一気にロレダンに飛んだ。

「そう言えば国境から一気に転移できたね」

 ロメオ君が言った。

「海があるから奇襲はあまり考えてないんじゃないかな?」

 ポータルを出ると目の前に洞窟の入口があった。

「もしかして村って、洞窟のなかにあるの?」

 こりゃ、面白い! クヌムの村、様々である。

 このまま狩り場に行くか、一旦村に入って落ち着くか考えた。

「そう言えば、さっきの人、村には行かない方がいいとか言ってなかった?」

「そう言えば…… 理由を聞きそびれたね」

「どうする?」

「どうしようか?」

「でも、心臓届けろって言ってた」

 オクタヴィアが小声で囁やいた。寒くて口を開くのも億劫らしい。

「尻尾、凍る。若様、ピンチ」

 ピンチはお前だろ、しょうがないな。

 もう少し本場の寒さを体感したかったのだが、猫が凍死すると言うので結界を発動させ、暖かい空気をまとうことにした。

「ほえー、極楽、極楽」

 二本の尻尾がだらりと垂れ下がった。

 ロメオ君もしょうがないなという顔をした。

「オクタヴィアの言う通り、どの道、心臓を届けないといけないし、人頭税の類いもただではないだろうから、寄るのは帰りにしようか?」

 僕たちはこのまま北を目指すことにした。

 太陽が薄らとでも出てなかったら、方角を見失いそうだった。


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