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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編・再突入)19

 翌日、地下四十二階層に再び突入した。

 さあ、クエストのやり直しか、途中からの再開か?

 入口から出るとそこは前回同様、夕暮れ迫る領主館の前だった。

 僕たちは全員耳を澄ませた。

「中にレイスがいるのです」

 リオナがすぐ様、察知した。でも戦闘している様子はなかった。

「アレッタ、いないのです」

 よし、幸先いいぞ。僕たちは館の裏手の勝手口に回った。

 地面には無数の轍の跡が残っていた。

 どうか建物のなかに入れますように。また調度品が湧いていますように!

 僕は勝手口のノブに手を掛けた。鍵が掛かっている。

 結界も作動しているようだ。

 どうやら、途中からの再開で間違いないようだ。

 先日貰った鍵をポケットから取り出すと、鍵穴に刺し込んだ。すると結界の妙な圧力が消えた。

 僕たちは扉を開けて、なかに入って明かりを灯した。

「結界がないから、レイスが来るかも知れないぞ」

 これが返答だと言わんばかりに、ロザリアは聖なる光を天井付近に放った。

 薄暗い室内が光と影のコントラストの世界に変わった。

「何もないの」

 アイシャさんの言うとおり、館のなかは以前僕たちが回収したときのままになっていた。

 淡い期待は消えた。

「ここにはもう用はなさそうじゃ。出るぞ」

 アイシャさんに続いて、僕たちは館を後にした。

 結界を作動させて、それから進む方角を確認した。

「轍が伸びている先の林道がどうやら脱出ルートみたいだ」

 ロメオ君が言った。

「また闇夜に森を通過するのか」


 轍を追い掛けること十分。レイスとの接触はなかった。

 が、突然、リオナが立ち止まった。オクタヴィアも僕の頭に手を置いて身を起こして遠くの闇を見つめた。

 森のなかに淡い光の筋が見えた。

「来た」

「レイスなのです」

 ふたりが小声で言った。

「待って!」

 ロザリアが僕たちの前進を止めた。

 ロザリアは召喚呪文を唱えていた。

 これは…… 久しぶりのベンガルとアムールか!

 幻獣召喚だ。

 二匹の虎は以前よりまた大きくなっていた。

 何も言わずとも二匹の幻獣は敵たるアンデットを捕捉した。

「きょうはお願いね」

 ロザリアはそう言うと二匹の虎を森に放った。

「きょうはアタッカーで行かせて貰いますから」

「どういう気まぐれじゃ?」

「わたしも杖を使いこなそうかなと思って」

 そう言って、僕に「出して頂戴な」と手を出した。

 僕の『楽園』のなかには使う使わないに関わらず、予備の武装などが収納されている。勿論、事前に「持って行って」と頼まれた物だけだが、リオナの双剣なんかも今回、『霞の剣』を装備しているので『楽園』のなかだ。

 今回はそのなかにロザリアの杖も含まれていたわけだ。

 まさかこのタイミングで使うとは思わなかったけれど。

 朝のミーティングで「杖の魔力補充のタイムラグが危険だ」とロメオ君に説明するついでに、みんなにも周知したばかりだったから。

「グングニルの恩恵がない分は多少マイナスだけど、それ以上のものが手に入るなら。試す価値はあるでしょ?」

「ロメオ君に触発された?」

「あんな連射魔法見せられたら、自分もって思うでしょ?」

「それでエルリンは死にかけたです」

「持ち主が普通じゃないから、杖も普通じゃないだけです。駄目なら諦めるし。レイスが団体で現れないならやらせて貰います。聖魔法の真価はアンデット戦でこそ発揮できるのですから」

 こりゃ、今日の出番はないかもな。

「分かった。結界は僕が。ただなかに入られたときを警戒して」

 全員が頷いて、ロザリアに頑張れとエールを送った。

 ロザリアと言えば、普段目立たないが、ユニークスキル『幻獣使い』持ちだ。教皇の血筋として、相応の血が流れている。

 二匹の虎がレイスと接敵する。

 幻獣とレイスの戦いなんてそうそう見れるものじゃない。どういう戦いになるのだろう?  ヘモジたち召喚獣たちとの違いを見られるのか?

 ベンガルが猛烈な勢いでレイスに襲いかかった。レイスは姿を消そうとするが、鋭い前脚の爪がレイスを容赦なく引き裂いた。

「凄い……」

 引き裂いたところから浄化が始まり、あっという間にレイスは昇天した。

 言葉もなかった。

 レイスなど物ともしなかった。

「魔力は平気か?」

 ロザリアに聞き返した。

「問題ないみたい」

 そう言った途端、来たようだ。

「うわっ。今吸われた」

「大丈夫か?」

「大丈夫。大した消費じゃなかったみたい」

 ベンガルとアムールを先頭に僕たちは進んだ。

「攻撃は最大の防御というのはこのことだね」

 ロメオ君も今のところ出番なしだ。

 ベンガルたちのおかげで、こちらは大分楽になった。攻撃を取り敢えず丸投げできたので、その分周りに目を向けることができた。

 轍はまだまだ続いている。

 ロメオ君が地図とにらめっこをしながら、位置の特定に苦労している。なにしろ周りは闇と樹木と轍の付いた道だけで、目標になる物が何もない。微妙な道の曲がり具合を地図と照らし合わせながら調べるわけだが、元の地図だって同じ状況で記されてきたもので、明るいところで空から確認したとか、しっかりとした測量を行なって調べ上げたものではない。せめて川が流れていたり、遠景に山並みだとかが見えていたら。リオナとオクタヴィアも索敵より現在位置の把握に全力を注いでいる。

 休憩しようか。

 そう言い掛けたとき、二匹の虎が走り出した。

 僕たちは臨戦態勢を取った。そのとき遠くで人の声がした。

 まさか、ベンガルたちが人を襲ったのかと慌てた。急いで駆けつけると、そこには一昨日別れた使用人たちと口から泡を吹いている馬と脱輪した馬車があった。

 馬がパニックを起こして道を外れたようだった。荷台に割れ物がないことを祈ろう。

 騒動を引き起こしたレイスは既に幻獣の餌食になって姿が消えていた。

「ああ、これは! 助かりました。先刻の冒険者様たちでしたか」

「生き残ったのは三人か?」

「いえ、馬車を捨てて逃げだした者がほとんどですから」

 リオナとオクタヴィアが闇に目をこらした。

「誰もいないのです」

「血の臭いだけ」

「そんなッ!」

 丁度よいということになって、この場で休憩を取りつつ、馬を落ち着かせて、脱輪した馬車を修理してやった。

「クエスト続いてるのです」

 リオナが呟いた。

「まだ何があるってんだ? もう事件は解決しただろう?」

 僕たちは馬車を警護しながら、先を進んだ。

 ところが、轍の跡が続いていた道が突然なくなった。

「ええ? どういうこと?」

 完全に地図情報にない状況に追い込まれた。

 なんと、道が土砂に埋もれて塞がれてしまっていたのだ。

 僕たちが立っている場所は峠であり、見渡す先には下りの勾配が広がっていた。勾配を抑えようと蛇行する道が果てしなく伸びていた。

 そして勾配の先には湖があり、人家の明かりが見えていた。

「あそこが領主様の別荘がある湖です。頑張りましょう。あと少しです」

 使用人に励まされた。が、道は埋まっている。

「道は間違ってなかったと思う」

 ロメオ君もリオナもオクタヴィアも頷いた。

「クエストか…… まだ何かあるって言うのか?」

 もうクエストは二の次でいいから、今日のところは脱出部屋に到達したい。でないと、もう一回、館の前からスタートしなければならない。

 この鬱蒼とした森を夜にまた抜けるなんてお断りである。

「地図から察するに、出口のある場所もあっちじゃな」

 行き先は同じか。

 となれば、急いだ方がよかろう。敵には余り出くわさなかったが、もう既に数時間分歩いている。昼の定食が恋しくなる時間である。

 僕たちは魔法で土砂を退けて、馬車の通れる道を作った。

「助かります」

「ありがとうございます」

 礼ばかり言われた。

「さあ、あと少しだ」

 月明かりが斜面を照らしてくれるせいで、行き先の目処だけはなんとか付いた。湖にある大きな一軒の別荘だ。

 後はこの蛇行する坂道を下るだけだ。

 たまにポワッと青白く光るものが見えた。恐らくレイスだろう。

 リオナの腹時計がなり出す前に、行ってみようか!


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