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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編・オクタヴィアの転がる家 )18

 杖のことをもっと知る必要があると感じた僕は制作者を尋ねようと思った。が、本人は相変わらず忙しく、不在であることが想像できた。今や僕の別荘の主は姉さんである。

 かと言って、姉さん以外から情報を得られるとも思えず、やはり『楽園』に潜ることにした。魔力の大量消費で倒れた後では気が引けるのだが、他に状況を打開する方法が見つからなかった。向こうにもあるかどうか分からないが。

 レストランの二階で食事を済ませると、人気のない場所まで行き『楽園』に突入した。


「ウィスプの核に関する情報」

 僕はすぐに条件付けをした。すると一冊だけ本が見つかった。


『魔法使いの夕べ、三月号』


 魔法に関する業界情報冊子だった。若干古い物で、発行元は『魔法の塔』になっていた。当時銀貨一枚で売られていたらしい。

 そのなかに『ウィスプの行動原理についての考察』という数頁のレポートが載っていた。

 著者の名前を見て驚いた。姉さんだった。発行年月日を見て、尚更驚いた。姉さんが十四歳のときの物であった。

「どんだけ天才なんだよ」

 僕は姉さんのレポートを読んだ。

 読んで驚いたのはデータの緻密さだった。検証作業に生きたウィスプを数匹利用したとあった。若いウィスプは周囲に被害を与えないから構わなかったのだろうか? アシャン老辺りが持っていたとしても不思議はない。

 姉さんの持論によると、一見意思を持って動いているように見えるウィスプも、実は厳格なアルゴリズムで動いているだけのゴーレムのようなものだという。勿論人工物ではないのだが、同じ条件下ではひたすら同じ行動を繰り返すらしい。

 ただ、唯一ゴーレムと違う点は魔力消費の最適化を繰り返すことだった。繰り返しながら常に魔力を消費しない方向に調節していくのである。

 これらの行動原理は自動的に魔法陣の最適化をしてくれる装置のようだと姉さんは断言した。姉さんはこの特性を利用することにより、より無駄のない魔法陣、術式の開発が可能になり得ると結論づけた。

 それに対する評価は「個人の努力を蔑ろにするものだ」というものと「新たな魔導への大いなる一歩である」と言うものとに二分されていた。割かれたページ数から予測するに余り目立った評価はされなかったようである。

 発行元か、姉さんかは知らないが、あえて肝心なことを伏せていると、記事を読んで僕は感じた。

 姉さんがここで本当に言いたかったことは実に物騒なことであった。それはより魔力消費の大きな魔法陣を組める可能性を示していたからだ。消費が減った分、当然、威力や効果を上げられる。そう言うことである。

 二つの評価の内、後者こそが的を射た評価ということになる。

 でも分かったのはこれだけだ。

 トレントの原木の影響もあるだろうが、あそこまでじゃじゃ馬である理由の説明にはなっていなかった。

 ロメオ君も連射し続けると一気に来るかも知れないから、注意しておいた方がいいだろう。明日会ったら言っておこう。


 家に戻ると買い物に出ていたヘモジとオクタヴィアが居間ではしゃいでいた。

「若様、これ、これ!」

「ナーナ」

『クッションふかふか?』

「いい匂い」

「卵だ」

 それはクッションでできた卵の家だった。ふたりが通れる程度の穴が一個開いてるだけの不安定な入れ物だった。なかに入って自分の重みで沈み込ませて安定させる代物だ。

 これなら、エミリーでも持てるし掃除は楽だ。

 オクタヴィアがなかに入って、鼠が回し車を回すように壁を押して転がしている。どっちが床で天井か分からない。

「ナーナ」

 ヘモジがいたずらで外から追い打ちを掛けるように転がしたら、なかでオクタヴィアがこらえきれずに転がった。

「うぎゃー」

 クッションの家と一緒に回転し始めた。

 ヘモジはケタケタ笑いながらクッションの卵の家を転がす。

 調子に乗ってたら今度はヘモジが回転に巻き込まれて、卵の家に一本背負いを食らったように大きく前転して、転がる家の下敷きになった。

 卵の家は食堂の壁に当たって止まった。

 家のなかからオクタヴィアが猛烈な勢いで飛び出してきた。さすがに怒ったらしく、ヘモジに襲いかかった。が、目が回っているせいで、足元もおぼつかない。でかい毛玉が蛇行しながらなんとかバランスを取ろうと加速する。挙げ句、床に爪が立たずにつるりと転がって、起き上がり掛けたヘモジに突っ込んだ。

 ヘモジは居間のソファーに頭突きをかましたまま、オクタヴィアは廊下に腹ばいになったまま動かなくなった。

「生きてるか?」

 オクタヴィアが尻尾の一本を振った。

 ドラゴン相手に殴り合うヘモジを頭突き一発でのすとは最強の猫だな。

「何やってんだい、あんたたちは」

 アンジェラさんがボロ雑巾を拾うようにオクタヴィアを拾い上げた。

「散らかすんじゃないよ。困った子たちだね」

 もう片手でクッション卵の家を拾い上げた。そして居間の一角に卵の家を置くと、ソファーの上にオクタヴィアを置いた。

「ほら、召喚獣が気絶してるんじゃないよ。おやつにするのかい、しないのかい?」

 おやつと聞いたとたんにヘモジは目覚めた。そして首をコキコキ鳴らした。

「ナー」

「お前たちの遊びは命がけだな」

 僕はふたりに万能薬を数滴垂らした。お守り作動してないだろうな? いざってときに作動しないと困るぞ。

 ふたりはフラフラしながらソファーのテーブルに着いて、クッキーが運ばれてくるのを待った。

「死んだ」

「ナーナ」

 もう、仲よしに戻ったようだ。早速おやつを堪能し始めた。

「アイシャさんは?」

「ハサウェイ・シンクレアの新作書き始めた。レイスに襲われた村を訪れた冒険者の話を物語にするって、ペンと紙を大量購入してた」

「へー」

「ナーナ」

 え? 最後に冒険者みんな死ぬの?

「ひどい話だ」

「ナーナ」

 ヘモジも頷いた。ついでに横にコキッと首を鳴らした。

 召喚し直してやろうか?

 それからふたりは日の当たるソファーの上で眠り始めた。

 

 明日は再びレイス戦だ。オクタヴィアには過酷な状況が続くけど、頑張ろうな。

 リオナが帰ってくると、ふたりはあっという間に叩き起こされた。

「これなんですか?」

「オクタヴィアの転がる家」

 猫が自慢する。

 いや、転がるは余計だと思うんだけど。

 オクタヴィアがなかに入って、頭を穴から出した。


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