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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編)15

「あ、階層攻略してなかった……」

「あ!」

「ナーナ!」

「忘れてた!」

 僕たちは我が家の転移部屋を出たところで固まった。

「荷物は一旦、地下訓練場に吐き出そうか」

 僕たちはゾロゾロと中庭の廊下を抜けて道場の地下に向かった。

 道場ではゼンキチ爺さんの門下生たちが頑張っていた。

 僕たちは挨拶だけして地下に降り、地下訓練場の扉の鍵を開けた。

 ここは魔法専用の訓練場だから、僕たち以外が訪れることは余りない。

 床は傷付けたくないので、まず回収品から絨毯とカーテンを取り出した。そしてその上に回収品を並べることにした。

「絨毯とカーテンまで回収できたんだ」

 ロメオ君が言った。

 お? そう言えば、真っ先に消えそうな物が……

「ナーナ」

「早く出して」

 ヘモジとオクタヴィアが僕の前に立ち塞がった。自分たちが回収した小物を入れた袋を、早く出せと急かしてくる。

僕は回収袋を取りだしてやった。

 ふたりは袋を引き摺って部屋の隅に持っていった。

「あーこら、絨毯が!」

 ロメオ君が絨毯ごと引き摺っていくヘモジをたしなめた。

「折角敷いたのに」

 僕は袋を回収し直して、ヘモジたちが置きたい場所に袋を運んでやった。

 こっちはふたりの好きにさせるとして、僕たちも回収品を出して並べていった。

「ちょっとこれって……」

 ロメオ君も絶句する。

 それもそのはず、回収品のほぼ全てが残っていたからだ。

「すごいな」

 本棚のなかの本が欠けることなく、収まっていた。

 ロメオ君も僕も本を引き抜くと、表紙を開いた。

「うわっ、古っ!」

「古代語だ!」

 僕たちは本を閉じた。

「こんなに一杯あるのに、まさか全部古代語か?」

「クエストの手紙は読めたのにッ!」

 僕たちふたりは発狂した。念のために他の棚も調べた。

 残念ながら全部古代語だった。

「町の図書館の蔵書を充実させられると思ったのに……」

「アイシャさんが読めるかも知れないから、どうするかはアイシャさんに決めて貰おう」

「そうだね」

 僕は本命がはずれだったので、がっかりしながら他の調度品や彫像などを並べていった。

 ああ、欠けてる…… 乱暴に扱ったせいで石の彫像がいくつも割れてしまった。

「この机いいな」

 ロメオ君が大きめのライティングビューローを気に入ったようだった。

「お洒落だね。これ用の椅子が、確か、どこかにあるはず……」

「若様、これ欲しい!」

 いつの間にか、自分たちの作業を終えたオクタヴィアたちも物色していた。

 オクタヴィアが気に入ったのは四本足の四角い陳列棚に納められたネックレスだった。

「これが欲しいのか?」

 アイシャさんの胸元をすべて隠せるくらい大きなネックレスだった。

「ベッドにする」

「え? あ、欲しいのは陳列ケース?」

 宝物庫のお宝と一緒に放り込んだ物だ。

 確かにオクタヴィアとヘモジが寝床にするのにちょうどいい大きさだ。

「冬も寒くない」

「冬はコタツだろ?」

 ロメオ君に突っ込まれた。

「じゃ、この上にコタツ置く」

 ガラスケースはいらないようだが、それじゃ、これにする意味がない。サイドボードの上の方がよさそうだが、どちらにしても寝床として居間の一角に置くのは却下だろうな。どう見ても見窄らしい。後で飼い主が有無を言わせず説得するだろ。取り敢えずはキープしておいてやるけど。僕の部屋なら置いてやるんだけどな。

 それぞれが唾を付けた物を僕は再び『楽園』に放り込んで、部屋の隅に並べ直す。

 そして普段、回収袋や獲物に貼る名札に『予約済み』と書いて貼り付けた。

「みんな早く帰ってこないかな」

 使う物と売る物分けないと鑑定頼めないからな。

「取り敢えず、後はみんなが来てからだな」

 差し詰め家具屋の倉庫といった感じになった。いっそこのままここで大売り出しでもしたらどうだろう?


 リオナたちも、一時間ほどして帰ってきた。どうやらリオナたちも回収品が気になったようで、ショッピングを中断して戻ってきたらしい。

「ほとんど残ってるのです……」

「凄いわね……」

「お釣りがきたな」

「家具屋ができそうね」

 女性陣が物色を始めた。

「アンジェラとエミリーとサエキも呼んでくるのです」

 こうなるともう男たちの忍耐力はもたない。その場を任せて、僕たちは地上に出た。

 ロメオ君が武装を解いてくると言うので、一旦分かれた。

 僕も装備を降ろしに母屋に戻った。

 廊下でリオナに背中を押されるアンジェラさんたちとすれ違った。


 やることのなくなった僕は、居間のテーブルで忘れないうちに書類にクエストの概要をしたためた。フロアを攻略しないと提出できないので、あくまで覚え書きだ。

 それにしても途中退場は不味かったかな。四十二階層に戻ったら、またアレッタ戦からなのだろうか? それとも物色が終ったところから再開できるのだろうか?

 まいったな、こりゃ。


 ロメオ君がお母さんの焼いたマドレーヌを持ってきてくれた。

 僕とロメオ君はお茶を楽しみながら、そのことについても話し合った。悩んでも仕方ないという結論は最初に出ていたのだが、もし、アレッタ戦からであれ、どうであれ、館の鍵は持ってるのだからもう一度、屋敷のなかを物色してみようということになった。

 ロメオ君は自宅のギルド事務所にフルプレートの鎧を飾りたいらしい。

「あの馬の甲冑もいいよね」

「そうだ! 馬車の車輿! あれ、修理して乗れるようにしようかな?」

「足回り大丈夫かな?」

「出してみようか?」

 僕たちは庭に出て、車輿を取り出した。二輪の二人用馬車だ。

「家で使う?」

「うーん。うちには豪華すぎかな。これじゃ汚せないし。移動なら荷馬車で間に合ってるし、小型飛空艇もあるから」

 ランプなどの金細工、革張りの座面や背もたれ、ピカピカの本体、確かに泥だらけの冒険者が乗るには勿体ない代物だった。

「お城で使って貰おうか? ドナテッラ様の出勤用にでもして貰おう」

「ゲートで出勤してるんじゃなかった?」

「そうだった」

「出先で馬の面倒とか見ないといけないから、うちの連中もあんまり使わないんだよね」

「売るしかないね。格好いいんだけどさ」


 僕たちは車輿を収納するとまた道場の地下に向かった。

「そろそろけりが付いてる頃だろう」

 訓練場に戻ると大変なことになっていた。

「おお、戻ったか」

「サリーさん?」

「なんでここに?」

 練習場には他にも会ったことのない多くの人たちが押しかけていた。

「戻ってきたのです」

 リオナの傍らにはヴァレンティーナ様もいた。

「随分とまた変わった物を持ち帰ってきたみたいね」

「ちょっと、リオナ!」

「リオナが呼んだのではないのです! 粗方見繕ったので、ギルドに残りの鑑定をお願いしたのです。そしたらこうなったのです」

「この書籍群は、近代稀に見る発掘ですね。古代語の研究が大幅に進みますよ」

 魔法の塔の職員だった。

「この古い鎧も迷宮の発掘品だったとしても、価値のあるものですよ」

「そうなの?」

「できれば、この彫像も傷付けないでいただきたかった。これは失われた『ヘンセンの十二体の石像』です。文献のなかにしか残っていなかった遺物ですよ。レプリカでも博物館行きの代物です」

「この家具は当方ですべて買い上げたいのですがよろしいでしょうか? この時代のアンティークはなかなか手に入りません。しかも状態がどれも最高だ」

「洋服ダンスのなかの衣装はこちらでお引き受けいたします」

「武具の方もですね――」

 とんでもないことになっていた。

 ただのアンティークだと思った物が、目が飛び出るような値段で取引されていた。

 すぐに僕たちの手に余る物だと分かったらしく、『銀団』の窓口が取り仕切ってくれたらしい。

「あなたたちのおかげで、この町は潤うばかりね」

「納税よろしくね」と言われた気がした。

「それで具体的な話を聞かせてくれるかしら?」

 冒険者ギルドに報告する前に、ヴァレンティーナ様たち『銀団』一行と、商人たちに入手に関する情報を提供することになった。

「まだギルドにも認定されてないんですからね」と断った上で僕たちは話し始めた。


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