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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編)14

「もうこれ一個でいいの?」

 オクタヴィアがネックレスの匂いを嗅いだ。

 これで付与装備を二本の尻尾の先まで飾る必要はなくなったが、何分猫には大き過ぎた。このままでは目立ちすぎてネックレス目的で誘拐されそうである。

「コアの石はこれだけじゃ。あとは魔力補充用の物じゃし、我らには万能薬があるからの。二個ほど残して、紐の長さを調整してやろう」

 中央の大きな石に術式が施されているようで、アイシャさんは周りの石を抜いて、猫の首に結びなおした。魔力の消費が増えるので、二本の尻尾に嵌めさせていた金輪を外させた。後で効果が被る部分を削った石を作り直さないといけない。


「それにしても、これだけやって、猫の首輪一個だけとはね」

 ナガレが言った。

「そうとも限らぬぞ」

 振り返るとそこには領主のリベッティが立っていた。

「生きてたのです」とリオナが呟いた。

「この子の名はアレッタと申すか?」と問われた。

 リベッティの手には例の老人の手紙が握られていた。

「なんと詫びてよいか…… アントネッラになんと言って謝れば…… 残酷な死に目に会わせただけでなく、妹の命まで…… わたしが至らぬばかりにこのようなことに……」

「妹?」

「ふたりは幼い頃に父親を亡くしてな。妹は幼いときに里子に出されたと聞いた。もしやと思うたが、ほんに姉によう似ておる」

 領主は膝を突いた。

「この館は封鎖する。一旦、我らもこの地を離れて、体勢を整えねばならぬ。レイスを駆除し、村人をしっかり葬ってやるためにも出直さねばならぬ。通りがかりの冒険者よ、世話になった。残された者の生活がある故、金子は渡せんが、館に残した物は好きにしてくれてよい。これが鍵だ。ただし早くいたせよ。もうじき夜がくる。レイスたちの時間だ」

 僕たちは館の鍵を手に入れた。

 見上げると鬱蒼とした森のなかに赤みを帯びた空があった。

「確かに時間がないな」

 でも、もう一度ここのレイスが復活するのだろうか? アレッタも湧くのだろうか?


 しばらく領主の側にいたが進展がなさそうだったので、僕たちは館の宝あさりに向かった。

 兵士や使用人たちが建物を封鎖するために、館の窓や出入り口を塞ぐ作業をしていた。

 僕たちは作業している横を抜けて、台所から建物に入った。

 建物は小さいながらも、室内は年月を感じさせる重厚な品々で溢れていた。

 磨き上げられた彫像や、大きなシャンデリア、書籍がぎっしり詰まった本棚や、大理石のテーブル、黒檀の光沢のある家具、絨毯に、カーテン、どれも一朝一夕に揃えられる物ではない。重くて持ち出せそうにない物ばかりが残っていた。

「銀の食器とか燭台とか、金杯とか全部持ち出された後なのです」

「なんにもなーい。お皿もなーい」

 オクタヴィアが言った。

 いつの間に運んだのやら、値打ちのある小物は粗方、運び尽くされた後らしい。

「エルリンがいなかったら涙目なのです」

 確かにリオナの言う通り、このままでは運び出せる物にも限りがある。

 だがこの館の調度品のレベルなら、それでも結構な値が付くはずだ。

 ヘモジはせっせと小物を無差別に回収袋に入れていく。オクタヴィアとのお小遣いにするため頑張っている。どこまでがギミックか知れないから、徒労に終る可能性もあるのだが。

 僕もこうして『認識』スキルを働かせながら、運べそうな物を吟味している。

「でも、もう余り時間がない」

 トンカチの音が絶えない窓の外はもうすぐ夕暮れだ。

 武器庫には古い物だろう骨董品が満載だった。ただ、この領地の家紋入りだから売るのは難しそうだ。

「これって骨董的価値はないのよね?」

 ナガレが言った。

「なんとかいう王の時代の物だと言っても、迷宮が作り出したものじゃ、レプリカ扱いが精々だよ」とロメオ君が答えた。

「何かおかしな魔法が建物に掛かってるわね? 品定めができないわ」とロザリアが言った。

「それって外から探知されないように、探知障害用の結界か何かが建物に施されてるってこと?」

「我が家もそうなのです」

 まあ、宝物庫とか倉庫に仕掛けるかも知れないけど、建物全体に仕掛けるというのは余り聞かないな。

 すると外から声が聞こえた。

「旅のお方! お急ぎください。もう日が暮れます故。我らはもう出立いたします。勝手口を開けておきますので、そちらから出てくださいませ。鍵は掛けずとも、扉を閉めれば結界が作動します故、施錠は不要にございます。では、どうかご武運を」

 馬車が動き出す音がした。

 急に外が暗くなった気がした。

「吟味している時間はないの。エルネスト! 面倒じゃ、片っ端から放り込め!」

「え?」

「それしかないのです。選別は後の楽しみにするのです」

「勝手口、今閉めちゃ駄目かな? そうすれば安心かも」

「中に誰かがいては発動せんじゃろ?」

「そうなの?」

「泥棒除けなんだからそういうものよ」

 ロザリアが言った。

「それじゃ、急ぐしかないな」

 ほとんどギミックな気もするが。貰える物があるなら頂きたい。調度品はどれも僕の嗜好に合ってるしな。

 せめて命がけで働いた分の報酬は頂きたい。

 それから僕は一部屋ずつ訪れてはある物すべてを回収していった。本棚を中身丸ごと、シャンデリアも丸ごと、でかい馬用の鎧、馬車の車輿なんかも関係なく放り込んでいった。

 万能薬を啜りながら何十室もある部屋の中身を丸ごとさらった。

「レイスが湧いたのです!」

 リオナが叫んだ。

 窓の外に一瞬白い物が覗いた。

「エルネスト! 宝物庫じゃ。そこを最後にして撤収するぞ!」

 みんなが急いで部屋に集まった。

 宝物庫には何も残っていないだろうと思っていたら、重すぎて持ち出せなかったのか宝箱が幾つもそのままだったり、宝剣や、貴重な武具など陳列棚に収まったままだったりした。

 僕は陳列棚ごと、収容棚ごと回収した。

 これが本物だったら…… 

 僕が回収している間、ロザリアは結界を張り、リオナは廊下を見張り、ロメオ君たちは窓の外を見張った。

 アイシャさんが脱出用の転移結晶を握りしめる。

「終った!」

 僕の合図と共にゲートが開かれた。

 僕たちは急いで脱出した。

 外に出ると、昼を過ぎた辺りだった。大勢の冒険者たちが午後の部に突入していくところだった。

「終ったーっ!」

 僕は伸びをした。

 他の全員も「うーん」と伸びをした。

「お昼にするか?」

「きょうは大盛りなのです」

「ナーナ」

 ヘモジも大盛りサラダ?

「ホタテ、ホタテ!」

 オクタヴィア、偏食で死ぬぞ。

 食堂のいつもの席に着くと、レイス対策用のアイテムを外し、標準装備に戻した。

 外した物は僕がまとめて預かって、我が家の宝物庫に戻しておく。

 オクタヴィアの目立つ装備も、ネックレス以外は取り敢えず預かった。ネックレスはオクタヴィアのサイズに合うようにアイシャさんが自分で加工し直すようだ。

 代わりに、省いたネックレスの欠片を渡された。これだけでは商品にならないので後で加工し直して転売することにする。


 食後は自由行動に移行して、僕とロメオ君と、おまけのヘモジとオクタヴィアはギルドの窓口に報告に向かおうと思った。でもマリアさんは今週夜勤だし、こちらの成果がどれぐらいになるかもまだ分からない状況なので立ち寄るのはやめて帰宅した。


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