エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編)12
重厚な中門が数人の側近の兵に開けられるのが見下ろせた。
「あなたの息子が事故に遭ったのは偶然ではありません。使用人を使って散歩のコースを変えさせ、罠を張った森に導いた者がいます」
「今更何を言うか! 罠はサミエルの物だった! 奴の責任だ!」
「狩猟小屋から盗みだした者がこの場に来ております。隊長、あなたのよく知る人物です。あなたの甥の雑用係ですよ!」
「ふざけるなッ! 適当なことを申すな! 奴はもうこの村にはいない!」
「知っています。彼は隣町のあなたの別荘で優雅にやっていましたからね。つい先日までは」
「なんだと?」
「口封じに随分大金を渡したようですね。でも今の彼は一兵卒に過ぎない」
アレッタは一体のレイスを指差した。
「彼は幽鬼の姿となってここにいる! 貴方の命令に従ったばかりに、このような醜い姿になってしまったことを呪いながらね」
「なっ! なんだと?」
生前を知る兵士も領主も目を丸くした。
「他にも大勢いますよ。あなたのかつての同僚たちがすべて証言してくれました。猟師の訴えを退け、足蹴にし、追い返した門番。猟師をロープに吊し、女子供を容赦なく闇討ちした実行犯。身内でありながら猟師家族の居場所を密告した者たち…… は連れてこれませんでしたが」
こちらをちらりと見た。
「ありもしないことを村中に吹聴した饒舌な者たち。そして、それを面白半分に信じた者たち」
漂うレイスたちを紹介するようにアレッタは腕をそよがせた。
「あなたはなんの罪もない猟師一家を殺害するよう命じた! それだけではない! 国王に嘘の密書を届けて、主である領主を罠に嵌めた。そして主を極悪人に仕立て上げ、火刑台送りにしようとした」
「何をしている! 攻撃せぬか!」
指揮官の男は近くにいた兵士の弓をぶんどり矢をアレッタに向けて放った。
が、レイスが盾になって庇った。そしてケタケタと朽ちた顎で笑った。
兵士たちは動かなかった。いや、大儀をなくした戦いに身を投じることができなくなった。
「あの日…… アントネッラが休暇を取るようにわたしに進言してきた。『最近、根を詰め過ぎだ』と。わたしは息子を亡くしてからずっと働き詰めだった。普段余計なことを口にしないアントネッラの言葉がそのときは妙に嬉しくて、まるで死んだ息子に言われているようで、わたしはあの子の提案にのることにした。あの子の勧めるとおり、郊外の別荘で休みを貰うことにした。でも帰ったときにはもう…… あの子が身代わりになったことを知ったときには、もう何もかも手遅れだった……」
「そう仕向けたのもその男です。アントネッラに情報を流し、あなたを館から遠ざけるように焚き付けた」
「なぜそのような? わたしを殺したかったのであろう?」
「元々、王都と密約があったのです。王の側近との間に、次期領主の座を自分にするという。でも、先方はそんな約束、はなから守る気などなかった。むしろ証人に生きていて貰っては困る。その男は用が済んだら自分も始末されると知った。だから一計を案じた。そして領主を生かしておくことを思い付いた。賠償金をせしめることまでは考えてはいなかったでしょうが、そのおかげで計画を進めていた側近は閑職に追いやられ、彼も先日、こちらの仲間入りを――」
突然、アレッタは口を噤んだ。そして血を吐いた。
胸元に矢が刺さっていた。
「すべて、その女のでまかせだッ! 何をしている早くレイスを殲滅せよ!」
冷気が急に増して、周囲を霜が覆い始めた。
「隊長を拘束しろッ!」
領主がアレッタの元に駆けつけようとしたところを側近に止められ、中庭に引き戻されていった。
アレッタが地面に倒れ込んだ。
その胸にはあのネックレスが輝いていた。
彼女の肉の身体の上に倒れたはずのアレッタが漂っていた。
「はなからこれが狙いだったのか!」
僕は呟いた。
空が割れんばかりの黄色い声が辺りに響き渡った。僕たちは耳を塞いだ!
一瞬で石の壁も床も何もかもが凍りついた。
レイスが殺戮を再開した。
「逃げろ! 退却だ!」
誰が言ったか分からないが、兵士たちは隊長を置いて、逃げ出した。
当然だ。こんな訳の分からないことで、領主の意向すら働いていない戦いに命を捧げる者などいやしない。
凍りついた石の階段から何人もの兵士たちが滑り落ちた。ひとりが落ちる度に周りを巻き込んだ。
そこへレイスが襲いかかる。仲間のことなど構っていられないと、襲われた仲間を横目に我先に逃げようとする。
レイスがいよいよ階段を上がって城壁の上まで到達した。
「ここにいては危ない!」
僕たちも撤収して、老婆が眠っている中庭まで退却した。
「うぐぁあ」
濁声の叫び声が上がった。
城壁から隊長が中庭に落ちるのがちらっと見えた。
兵士たちの逃走に拍車が掛かった。領主の姿もいつの間にか消えていた。
「どうするですか?」
リオナが僕を見上げた。ヘモジもオクタヴィアも、ナガレもロザリアもロメオ君もアイシャさんも僕を見つめた。
ただのクエストだ。ここで打ち切って、アレッタを救う方向でもう一度やり直すこともできるはずだ。確信はないが、今ならクエストを放棄するだけで、再チャレンジが可能だろう。次の機会があれば、僕たちならあの矢を防ぐことができるだろう。
でも、それでいいのか?
リオナやヘモジやオクタヴィアの真剣な眼差しは…… これも嘘にしてしまうのか?
「乗りかかった船だ。レイスを殲滅する! 話は後回しだ!」
みんなが大きく頷いた。
リオナが中門目掛けて『眩しい未来を貴方に!』を投げ付けた。
目映い光が庭に侵入したレイスたちを照らし出した。
既に実体化していたレイスたちは光に飲み込まれ、消滅した。
「やったのです!」
直撃をかわしたレイスは後退した。
「行こう!」
僕たちは中門を潜り、アレッタ・レイスに再び対峙した。
残っている他のレイスの数はわずかに数体だけ。
アイシャさんは袋のなかの銀の粉を全部、撒き散らして風魔法で煽った。庭全体にキラキラ光る銀の粉が撒かれた。
実体化したレイスに向かってリオナとヘモジは回復薬の小瓶を投げつけた。ロメオ君とナガレ、アイシャさんは魔法でとどめを刺していった。
レイスが一体、また一体と昇天していく。
ロメオ君が防壁の上に残っていたレイスに魔法を撃ち込んだ。
三連射であっという間に昇天させた。
「おおっ!」
みんな感心した。
僕は計画通り、アレッタ・レイスを遠くに押しとどめた。
一時はどうなるかと心配したが予定通りいきそうだ。
そして、あれだけいたレイスはついにアレッタだけになった。




