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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編)11

 絶叫が飛び交うなか金属同士がぶつかり合うような派手な音はまるでなかった。聞こえてくるのは切羽詰まった声と、レイス特有の甲高い叫び声、魔法の爆裂音だけである。ただ叫んで矢を射ているだけの、鎧が擦れる音がするだけの物足りない戦場だった。

 僕たちは既に開いている領主館の外門を通過すると、鍵の掛かっていない勝手口を潜った。

「レイスはいないのです」

 分厚い石造りの廊下を過ぎて、台所を抜け中庭に達すると、光が溢れてきた。

「増援を! 増援はまだか!」

 兵士たちの叫ぶ声が聞こえた。

 中庭では守備隊とレイスが激しい戦闘を繰り広げていた。二十体ほどのレイスに兵士が百人掛かりである。うち満足に動ける兵士は三十程度だ。

 兵士たちは中庭で蠢くレイスに向けて、城壁の上から矢の雨を降らせていた。

 銀の矢がレイスにとどめを刺した、と思われた。次の瞬間、うめき声とともに階段の先にいた兵士が倒れた。『生命吸収』で復活したレイスが何ごともなかったように死んだ兵士を見下ろした。が、今度こそ銀の矢の集中攻撃を浴びてレイスは霧になって消滅した。

 主観だが、矢が尽きる方が早いと感じた。

 どちらにせよ、ここを通り抜けないと主戦場の前庭には行けない。でもこのままだとレイスだけでなく、銀の矢にも射貫かれかねない。

 そのとき僕たちはレイスに混じって戦う老婆の姿を見つけた。

「どっちに味方するですか!」

 リオナが聞いてきた。

「どっちって……」

 どっちが悪党なのか分からない! 勿論レイスは駆除しなければいけないのだが……

 僕たちが手をこまねいていたら、レイスの方が先に行動を起こした。

 レイスが叫びながら近付いてくる。

 しかも、既にレイスは銀の矢を浴びて瀕死の重傷だ。

「まずい!」

 一斉攻撃で跡形もなく吹き飛ばした。

 ロザリアが中庭を照らすように『聖なる光』を放った。

 ものすごい悲鳴が響き渡った。

 あれほどいたレイスが撤収を余儀なくされた。

 老婆が中庭にひとり取り残された。

 僕たちは話を聞くため老婆に近づこうとした。

 だが、次の瞬間、大量の矢が降ってきて老婆を串刺しにした。

「ああ……!」

 僕たちは立ち尽くした。

「増援か? 助かった。敵はまだ前庭にいる! 急げ!」

 戦っていた守備兵たちはゾロゾロと足早に壁の向こうに消えていった。

 中庭にいるのは僕たちだけになった。

 兵士の姿が消えると僕たちは急いで老婆に近づき、回復薬を投与しようとしたが、既に息はなかった。

 矢をへし折り、抱き起こした老婆は両手で何かを必死に守っていた。

 アイシャさんは老婆の両手をどけて、懐に収められている物をまさぐった。

 出てきたのは竜の髭で丁寧に束ねられた分厚い手紙の束だった。

 宛名を見るとどれも同一人物から送られてきた手紙のようだった。

 一通、なかを確認した。

 それは離れて暮らす母を思い、息子家族が近況を綴った手紙だった。老婆にとって何より大切な宝物であることが察せられた。

 だが、一通だけ様相の違う物が含まれていた。

 アイシャさんはそれだけを抜き取ると他の束を老婆の胸に戻した。

 なかを確かめるとそれは息子からの最後の手紙であった。

 

 自分は領主の息子に何もしていないことが連綿と書き連ねられていた。

 仕掛けは自分の物だが、断じて自分が仕掛けたものではないと、野犬を駆除していた館の使用人に狩猟小屋の鍵を渡しただけだとあった。

 自分がスケープゴートにされ、家族が村でつまはじきにされていることが記されていた。誰とも遊んで貰えない子供たちが不憫だともあった。

「猟師はこの呪術師の息子だったようじゃな……」


『明日、領主に真実を訴えに行こうと思うが、館の使用人たちが結託していれば、わたしが門を通されることはないだろう。最悪、命の保証もないが、領主様夫妻には並々ならぬご恩がある。真実を伝えねばならない。そこで、都合のいい話だが母さんに頼みがある。もしものときはエレインと子供たちを頼みたい。エレインには真実を記した手紙を持たせた。領主が駄目なら、国王陛下におすがりする以外にない。明日、エレインたちを都に旅立たせる。手紙の方が後になるかもしれないが、妻と子供たちをよろしく頼みます。無事戻ることができたらまた手紙を出します。それではまた――』


 手紙はそこで終わっていたが、別の手紙が出てきた。女性の手による物だった。

『今、村はずれの親戚の家でこの手紙を書いています。わたしの従姉妹の家ですからご安心を。まず大事なことを伝えねばなりません。気を落とさずに聞いて下さい。今この家のご主人に夫が、サミエルが亡くなったと聞かされました。遺体の確認を村長さんたちと一緒にしたそうです。間違いないそうです。それと館の者たちが私たちを探しているそうです。遺体の引き渡しのためでしょうか? それとも直訴状の件がばれたのでしょうか? 夫には申し訳ないのですが、このままそちらに向かいます。子供たちだけでもなんとか都に届けられればいいのですが。子供たちには夫のことは伏せてあります。ふたりとも今はこの家の娘さんと楽しそうにはしゃいでいます。この家の娘さんはイルダちゃんと言うのですが、お義母様と同じ名前ですね。気さくなとても可愛らしい子です。なぜわたしたちの家族だけがこんな目に遭わなければならないのでしょうか? 子供たちには済まないけれど、夜が明ける前に旅立ちます。お母様、どうか無事を祈って――』


「イルダの家とも関係があったようじゃの……」

「恨まれる理由はなさそうだったけど」

 最後の手紙も老婆の胸に戻した。

「悪いのが使用人だと言うことは分かったのです」

「領主は善人で取り巻きが悪人だったってことかしら?」

「こうなると何もかも疑いたくなるな」

「ここにいても埒があかん。先に進むぞ!」


 中門は閉ざされていたので、僕たちも壁を越えて、兵士たちが消えた先に向かった。

 城壁に上がる階段を駆け上がり、半周ほど回り込んだところで、主戦場を見下ろす場所に出た。

 足元では新たな戦闘が繰り広げられていた。表門は既に破壊され、庭にはレイスの大群が押し寄せていた。

 中庭にいた兵士たちが城壁から降りることも叶わず、庭に降りる階段の途中でレイスと対峙していた。

 こちらも膠着状態だが、幸いなことにレイスたちは守備隊の攻撃で実体化を余儀なくされていた。

 こちらの手間は大分は省けると言うものだが、渋滞に巻き込まれて僕たちは動けなかった。

 正直、どちらに与すればいいのか分からなくなっていたので、丁度よかった。

 ただ、守備隊は完全に敵の術中にはまっていた。

 レイスは瀕死に陥ると『生命吸収』を仕掛けて、守備隊をひとり巻き込んで、再生していく。 銀の矢も残り少なくなり、魔法使いも既に打ち止め。隠れて回復に務めている。

 レイスに攻撃を与えないことが最大の防御になりつつあった。

 ここで、僕たちが介入すれば、レイスの殲滅は叶うだろうが……

「出てきなさい! リベッティ!」

 場違いな女性の明るい声がレイスのなかから轟いた。

 レイスになってないアレッタだった。

「あなたの息子を殺した真犯人の名を教えましょう!」

 兵士たちの手が止まった。

「何をしている! 手を休めるな!」

 いつぞや山のなかであった横暴な態度の男が叫んだ。どうやらあの男が指揮官らしい。

 だが、レイスの攻撃がやんだ以上、弓を射かける兵士はいなかった。

「いいだろう。話してみよ」

 領主が僕たちの後方から姿を見せた。


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