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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編・丸投げ)8

「あれはアレッタではないのです。イルダなのです!」

 リオナは誇らしそうに胸を張った。

 僕もロメオ君も我がことのように喜んだ。

「どういうこと?」

 ロザリアが言った。

 皆がゾロゾロと集まりだした。


 僕たちは外に出ると、転落した娘の遺体の傍らに立った。

 野外にある分、遺体も衣装も痛みが激しかった。が、リオナは言った。

「この衣装なのです」

「衣装?」

 遺体の着ている今にも土に還りそうなボロボロになった黒いドレスを指差した。

「これはアレッタの服ではないのです。上から見ると黒いからメイド服だと錯覚したです。これは喪服なのです」

「村中でレイス事件が起きてたんですよ。アレッタの身内が被害に遭ってないとは言い切れないでしょ?」

 ロザリアが返した。

「昨日の話を聞いた限りじゃ、土地は広いけど窮屈そうな村だもんね。全員親戚でも驚かないわよ」

 ナガレが言った。

「奉公したてのメイドがこんな立派な喪服は着ないと言ってるのです」

 再び遺体の着ている衣装に視線が注がれた。

「確かに襟元の刺繍は手が込んでるわね」

 痛みの少ない箇所を見ながらロザリアが言った。

「袖のひらひらも使用人が着るには邪魔よね」

 ナガレも追随した。

 オクタヴィアが二階から屋根伝いに降りてきた。

 突然音がしてビクリとなった。黒いから見えなかった。

「これ、あった」

 いつの間に消えたのかと思ったら、くわえてきた黒い布を僕の手のなかに落とした。

 そしてオクタヴィアが見上げる視線を追い掛けると、二階の窓にヘモジがいた。

「ナーナ」とヘモジの声が聞こえた。

 何か落としたいらしい。

 ロメオ君が駆け寄り、落下に備えた。

 ヘモジは「ナー」と言いながら黒いものを落とした。

 丸まっていたそれは空中ではだけた。すぐ服だと分かった。

 ロメオ君が全身を使って受け止めた。頭に布が被さった。

「衣装箪笥に入ってた」

 女性陣が検分するとオクタヴィアがくわえてきた物は喪服用の黒いベールでヘモジが落とした物は喪服の外套だと分かった。どちらも、白骨が着ている衣装と合わせた物だった。

「決まりじゃな」

 アイシャさんが言った。オクタヴィアが自慢げだ。

 僕はヘモジを再召喚して手元に呼び寄せた。

 衣装はこの家の娘のものだ。

 答えを知っている僕とロメオ君にはどうでもいいプロセスなのだが、リオナたちは結果に大いに満足していた。

 ただ、アイシャさんだけは眉をひそめた。

「やはりアイシャさんは気付いたか」と、僕とロメオ君は苦笑いした。

 そうなのだ。ただ呪われ、命を失っただけなら、ここに死体があるわけがないのだ。今頃、二階のベッドに喪服を着た白骨が転がっていなければおかしいのである。つまり犯人は故意に結果を早めたのである。追っ手が来ていたのかもしれない。早くレイス化させたい理由があったのかもしれないが、少なくとも死者に鞭打つ行為であったことは間違いのない事実だった。


 さて、これでほぼ実行犯はネックレスを持ち込んだアレッタ本人だと特定できたわけだが、そこからどうストーリーを組み立てるかが見物である。

「もういいのです」

 リオナが言った。

「そうね。これ以上は殿方に任せましょうか」

「さあ、教えて頂戴! どうしてふたりには犯人が分かったの? この事件の真相は?」

 三人が推理を丸投げした。

 僕とロメオ君は開いた口が塞がらなかった。

 犯人が分かったら、あとはもうどうでもいいのか?

 動機や、実行に及んだプロセスとか、自分たちで解き明かしたいとは思わないのか? 

 僕とロメオ君は顔を見合わせた。


 室内に戻って、手狭なダイニングに明かりを灯した。

 そして、ロメオ君は『エルーダ迷宮洞窟マップ・下巻』を取り出し、テーブルに答えの記された頁を開いて置いた。

 地下四十二階層の攻略マップとその情報である。

「そもそもの疑問は、オクタヴィアがなぜ呪われたのかということだよ」

 ロメオ君が言った。

「そりゃ、ネックレスがカースアイテムだったからでしょ?」

 ロザリアが答えた。

「呪いが残ってるってことは、呪われた人物の呪いは解けていないってことだよ」

 皆が順番に覗いていく。

「あのふたりの話がもし本当なら、イルダの呪いが解けた段階で、金庫のなかのネックレスの呪いも解けていなければおかしいんだ。当然、オクタヴィアが呪われることはなかった」

「あ!」

 ロザリアが声を発した。

「でもオクタヴィアは呪われた。ということはイルダは呪われたままだということになる」

「だとしたら、どこかにイルダの遺体が転がっているはずなんだ。そうなると当然、イルダを名乗る彼女が誰なのかと言う疑問にぶち当たる。残った登場人物は?」

「『アレッタ・レイス…… 仲間を召喚する最強のレイス』……」

 ナガレがマップ情報の該当箇所を読み上げた。

「敵ボスだったです!」

 階層に登場する魔物の名前が並んでいるなかで、別枠を設けられてまで解説されている魔物の名が、階層のボスキャラ『アレッタ・レイス』であった。

 窓から落ちた彼女がレイス化して次のマップまで生き延びたとも考えられるのだが、事件の主犯と見なした場合、この事件は案外スッキリするのである。

 イルダの家を訪れ、彼女にネックレスをあてがったアレッタは、目的を邪魔する両親を刺殺した。そしてイルダを放置したままその場を立ち去った。

 領主はネックレスを追い掛け、人を差し向けたが時既に遅く、レイスになったイルダに逆に襲われてしまった。その数が三人だったのか、帰ってこない連中の様子を見に来たメイドが三人目だったのかは分からない。

「じゃあ、私たちが老婆の所で会っていたのはイルダではなく、アレッタだったの?」

「そういうことになるね」

「人間だったのです」

「だから自分ではネックレスの回収に向かえなかったのだろ?」

 アイシャさんが言った。

「目標の人物に呪いが掛かった段階で、普段なら証拠を回収していたんだろう。でも今回は手違いが起きてしまった」

 僕は言った。

「証拠のネックレスを両親が隠してしまったんだ。そのうちイルダはレイスになって起き出して、領主の追っ手もやってきた。それでとうとう取りに戻れなくなってしまったわけだね」

 ロメオ君が見てきたように補足した。

「じゃあ、家を見張っていたというのは?」

「冒険者に持ち帰らせるためじゃないよ。持ち帰った冒険者からネックレスを騙し取るためさ」

「なぜ、両親はネックレスを隠したんでしょう? それに解呪方法を両親が知っていたのはなぜ?」

「既知の呪術師がいたと言ってたろ? これだけ事件が広がれば、娘のために対策の一つも講じるのが親というものさ。案外、その呪術師のアドバイスがあったから、証拠のネックレスを隠したのかもしれない。アレッタが本来レイスに任せるところを自分で刺殺したのは、両親がネックレスの隠し場所を吐かなかったせいかも知れない」

「わたしたちまんまと使われたのね」

 ロザリアが言った。

「そういうことになるな。ネックレスを持ち帰らなかったのは失敗だった」

「案外、最初から持ち帰れなかったのかも知れないよ。ギミック扱いだったかも」

「それってあんまりよね」

 ナガレが天を仰いだ。

 実際ほぼ手ぶらだった。

「何もかもあのふたりの言ったことはデタラメだったわけね?」

 ロザリアが本の次のページを覗いてまた戻した。

「ネックレスに呪いを仕掛けていたのもあの老婆だろう。恐らく領主が雇った呪術師というのも彼女なんじゃないか?」

「じゃあ、ふたりが犯人?」

「次の階層に行けばいろいろ分かるとは思うけど、そう考えれば納得できるだろ? 自分の掛けた呪いを自分で解いて、領主に取り入り、その一方でネックレスを使ってアレッタに事件を起こさせる」

「目的は?」

「さあ、そこまでは。次の階に行けば教えて貰えるんじゃないかな?」

「四つの遺体はどうなったですか? 残りの遺体はどこに行ったですか?」

「さあね。野犬に食われていなければ、恐らく敷地内にあるんじゃないか? レイスは一種の地縛霊だ。死んだ場所からはあまり離れられないものだからね」

「見つけるなら、今から探してもいいが」

「もうお昼なのです」

 ん? そう言えばそんな時間か?

 本をしまうと僕たちは脱出用の転移結晶で外に出た。

「ところで領主はどうなったですか?」

 食堂に向かう道すがらリオナが尋ねてきた。

「カラクリに気付いて、動いていたんだろ? 領主の責務として」

 一連の事件の矛先は村と領主に向かっていることは明らかだ。わざわざふたりが話をでっち上げ、領主に責任を負わせようとしたのがいい証拠である。主犯に仕立て上げたい理由がふたりにはあるのだろう。

「答えは明日。次の階層でだな」


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