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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編・再調査)7

「疑問はいくつもある。両親は誰に殺されたのか? レイスになったのは誰と誰なのか? そもそも最初にレイスになったのは? 領主は何を意図してカースアイテムをアレッタに運ばせたのか? 呪いのネックレスは当時どういう状況に置かれていたのか? 呪いが解かれたとするならなら、それはもうただのネックレスのはずだ。メイドは実在したのか? そもそも老婆の話をどこまで信じていいのか? イルダの話は?」

『異世界召喚物語』の世界ならここは大きな黒板に事件関係者の精巧な似顔絵である写真とやらを貼り出して講釈を垂れるところだろう。

 人間関係をつまびらかにし、動機を探り、時系列に沿って詳細を検討する。

 そして何より証拠集めだが……

 やはり『現場百遍』だろうか。正直、今更あそこに戻りたくはないのだが……

「一番ネックになっているのはやはり両親の死因だろう。それによって訳が分からなくなっているのだから。そこで確認だ。僕たちが見たとき、両親は?」

「刺されて殺されてたです」

「『生命吸収』でなかったと言えるか?」

「え?」

 みんなの食事をする手が止まった。

「レイスの特徴と言えば長い爪だ。みんな、無意識にその爪で殺したかどうかを判断してるんじゃないか? もし『生命吸収』で殺されたとしたら、遺体を発見したとき、僕たちに判別できたか? 」

「厳密に調べたわけでは…… それに刺し傷がありましたから」

 ロザリアが答えた。

「こう考えるのはどうだろう? 両親はレイスに襲われた。でもレイスになることを拒んだ両親は、自ら死を選んで互いに剣を突き立てた」

「えーっ? またこんがらがるのです」

 リオナが耳を塞いだ。

「ナーナ……」

 持論を新たに構築するため、皆黙り込んだ。

「面白がっておるな」

 アイシャさんが言った。

「冒険者が犯人を知ったからってどうなるんです? 感謝状一つ貰えるわけじゃないんですよ? 本当の事件ならともかく。素直にストーリーを追い掛けてればいいんじゃないですか?」

「身も蓋もない奴じゃの」

「だって答え知ってるし」

 全員が固まった。

「ロメオ君に教えて貰って、犯人は分かってるんだよね。逆算するとストーリーも見えてくる――」

「誰が犯人じゃ!」

 アイシャさんが飛び付いた。

「駄目なのです!」

 リオナが耳を塞いだ。

「犯人はリオナたちが見つけるのです!」

 コップが倒れて、ジュースがこぼれた。

「そうよ! 言ったら殺すわよ!」

 ナガレがテーブルに思い切り身を乗り出した。

 なんだよ、ナガレ…… 興味なさそうな振りをして結構本気じゃないか?

「ナーナ」

 ヘモジも? なんだって? しゃべるな? 名探偵ヘモジが推理する?

「知っていても言ってはいけないのです! ミステリーは最大の娯楽なのです!」

「じゃ、僕は蚊帳の外ということで」

 僕は食事に集中することにした。

 服の裾が引っ張られた。

「ヒント欲しいって」

 オクタヴィアがテーブルの下から現れて、僕にささやいた。

 アイシャさんまで……

「次のフロアを攻略するときに嫌でも分かるよ。犯人の名前が次の階のマップ情報に書いてあるからね。本はロメオ君に預けてあるから。答えを知りたい人はロメオ君を訪ねるように」

「そう言うヒントじゃない」

 オクタヴィアに冷静に突っ込まれた。

「決めたのです! 明日もあの家に行くのです! 現場に戻れば何かが見つかるのです!」

「えーっ!」

 食事の席が騒然となった。

 どのみちロメオ君と未到達エリアの件で、エルーダに行かなければならなかったので、一箇所だけならと、全員揃って向かうことになった。

 結局、女性陣は随分長く、長湯してもなお、犯人当てに興じていた。

 久しぶりにオクタヴィアが茹で蛸のようにのぼせて、廊下の床に貼り付いていた。

 きょうは踏んだり蹴ったりだったな。

 ヘモジが団扇を持って救助に向かうべく横を通り過ぎた。

 実際、この推理ゲームを長く続けるわけにはいかなかった。

 明後日には次のフロア攻略が待っているからだ。

 因みに次のマップは、領主の館のあるエリアである。つまりもう少しレイスに付き合うことになるわけだ。

 そうだ、光の魔石の鏃のでか目の奴を用意しておこう。

 レイスの本拠地だったりすると大変なことになるからな。



 翌日、僕たちはギルド事務所に顔を出す前に、あの鬱蒼とした黒い森を訪れた。

 相変わらず気味の悪い真っ赤な夕焼けが出迎えた。

「暗くなる前に行こう」

 どんなに早足で歩いたところで、現場に着くときには夜なのだが。どうにも急ぎたくなる雰囲気がこの森にはあった。

 例の水のない谷間に辿り着いた。

「敵は四体、間違いないのです」

「ない、なーい」

 オクタヴィアもリオナの言葉を裏付けた。

「じゃあ、行くぞ」

 僕は対岸に光の魔石で作った『眩しい未来を貴方に!(仮)』の小型版を放り投げた。ベヒモス戦で使ったあれのミニチュアだ。

 落下地点で石は破裂し、目映い光が一面を照らした。

 レイスは逃げだし、光から距離を置いた。

「今だ!」

 その間に僕たちはゲートを潜り、対岸に上陸した。

「いつの間に」

 リオナが感心した。僕はリオナにスリング用の鏃を幾つか手渡した。

 さあ、戦闘開始である。

 しかし光が強すぎたのか、レイスは一向に近づいてこなかった。

 僕たちは一方的に攻撃を開始した。

「今日も家の裏手に一体いるのです」

 リオナの言うとおり、一体のレイスが家の裏手を警邏していた。

 今回はロザリアが葬った。


 僕たちは家のなかに踏み込んだ。

「さあ、現場を検証しましょう」

 ロザリアが『聖なる光』を明かり代わりに打ち上げた。

 そして前日同様、金庫のある部屋に向かい、金庫を開けた。

 するとまた、ネックレスを初めとする宝飾品と、大量の手紙が出てきた。

 因みに昨日集めた手紙は迷宮を出ると消えてしまっていた。どちらにしてもマップに既出なので、なくても困らない。

 ネックレスは間違いなく、今日も呪われていた。今回はしっかりチェックした。

 オクタヴィアは遠巻きに眺めるだけで、近付かなかった。あんまり注意されるものだから、僕の肩の上に乗って離れなくなった。


 そして僕たちは殺人現場である二階へと向かった。

 部屋中を丹念にチェックして回った。

 特に物取りが入って荒らした形跡はなかった。

 アイシャさんが両親の遺体のチェックを行なった。

「間違いない…… 死因は刃物によるものだ」

 しばらくしてアイシャさんが言った。

「『生命吸収』は?」

 リオナたち女性陣が集まった。

「その形跡はないの。『生命吸収』で死んだのなら、水分がまず失われるというからの。この飛沫血痕を見る限り、血が固まり始めていた形跡はないの」

 それから僕たちは屋根裏部屋を探した。

 階段隣りの小さな空き部屋から天井裏に上がれる階段を見つけた。

 床板には新雪のように埃が被っていて、誰かがいたような形跡はなかった。

 リオナたちはすっかり首を傾げてしまった。

 なんとなく真相を知っている僕とロメオ君は二階の娘が転落した窓の側に立って、成り行きを見守っていた。

 そこへリオナがやって来て、僕たちふたりをじっと見つめた。

 ヒントが欲しいのなら言えばいいのに。

 タイムリミットは明日の朝、振り子列車で次の階の攻略の打ち合わせするときまでだ。

 リオナが僕とロメオ君の間に割り込んで、窓の下を覗き込んだ。

 じーっと、下を覗き込んだまま動かない。まるで獲物を狙うハンターのようだ。

「あーッ!」

 リオナが叫んだ!

「どうなってるですか?」

 いきなり質問をぶつけてきた。

 僕とロメオ君は笑った。

 ようやく事件の真相に近づいたようだ。

「大きな前進だね」

 ロメオ君が言った。

「大変なのです! 分かったのです!」

 ロザリアやナガレがリオナの大声を聞きつけて、僕たちのいる部屋に集まってきた。

「どうしたの?」

「証拠でも見つけた?」

「見つけたのです! あれなのです! あれが証拠なのです!」

 リオナが指差したものは窓から落ちて息絶えた娘の遺体だった。

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