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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編・高い山)4

 僕たちは暗闇のなか、細い小径をひたすら進んだ。

 休憩も取らずに『朝露の葉』のある場所を目指した。

 その甲斐あって、数度の戦闘の後、無事目的地らしい場所に辿り着くことができた。

 背の高い木に囲まれた小さな花畑だった。

 そこに目的の花はあった。

 ご丁寧にお持ち帰り用の小瓶が腐ったテーブルの周りに散乱していた。

 どうやら、蜂蜜を集めて、この場所で瓶詰めにしていたようだ。

 花畑の隅を流れる小川のなかに、蜂の巣を作らせるための巣枠が朽ちて倒れていた。

 僕たちは小瓶を小川で洗い、浄化して、そこに『朝露の葉』らしきものを放り込んだ。

「これでいいのか?」

 日記を見る限り、葉の形状もやり方も合っている。

 僕たちは、ようやくその場で休憩を取った。

 万能薬がなければ、レイス相手にここまでの連戦は不可能だった。ロザリアは明らかに飲みすぎていた。やはり、例の光の結晶の鏃をストックしておく方がいいかもしれない。そうすれば結界に辿り着く敵の数も大幅に減るだろう。せめて銃が役に立てば、距離的には助かるのだが、如何せん威力がありすぎて腐肉を貫通してしまう。

 時間的に、外はもう昼時のはずであった。

 なんで暗がりのなかで食べなければいけないのだろう。正直、気も休まらないし、喉も通らない。家に帰ればもう一度夕食が待っていると思うとさらに気が重くなった。

 さすがに他のパーティーが通る様子もない。

 元凶のオクタヴィアの小さな口に『朝露の葉』を煎じた物を垂らしてやるもやはり効果はなかった。

 僕たちはお茶と焚火で身体を温め、小腹にパンの欠片を放り込むと早々に立ち上がった。

 さあ、後半戦だ。

 見上げる先に真っ黒な陰山がそびえていた。月明かりに照らされた勾配はどこまでも続いていた。レイスより、この果てしない斜面の方が問題だ。夜中に進むべき地形ではない。落ちたら最後、あの世行きだ。

「転移しよう」

 暗いので充分足元に気を付けなくては。

 まずロザリアに、山に向かって明かりを放って貰う。

 僕は望遠鏡で適当な足場を探す。マップも合わせて、数度確認して転移ポイントを定める。

 中腹の山道に決めた。しっかりした石積みの足場がある。

 まず僕だけが飛び、周囲を確認することにした。


 馬車が落ちないように岩でこしらえた低い柵まであった。補強もしっかりしてある。

 安全を確認すると僕は改めてゲートを開いた。


 僕たちはほとんどの道程を飛び越えた。

 急に地平線が白みだした。

「しまった。こんなことなら目的地の『高き山』に着いてから食事にすればよかった!」

 残りの行程はもう目と鼻の先だ。

 恐らく到着する頃に合わせて、朝日が昇るのだろう。

 オクタヴィア、もうすぐだ。待っていろ!

 僕たちは整地された山道を踏みしめながら頂上を目指した。

 レイスはいなかったが、野生の熊に襲われた。熊肉は余り好きじゃない。崖から転がり落ちてしまったので、回収せずに先を急いだ。


 頂上には小さな祠があった。祠の前にちょうど人を横たえるのによさそうな大岩が置かれていた。

 アイシャさんはそっとオクタヴィアを横たえた。

 オクタヴィアは暢気そうに寝ている。

 朝日が地平線から昇ってきた。影が伸びてきて、闇が払われた。

『朝露の葉』が入っていた小瓶にいつの間にか液体が溜まっていた。

「これを垂らせばいいのか?」

 オクタヴィアの口に垂らしてやった。すると尻尾がぶらんと動いた。そして大きな目がぱちりと開いた。

「なんか眠くなった」

 そう言って何ごともなくむっくと起き上がった。

「この馬鹿者! 呪われたアイテムなど身に着けおって! エルフの従者失格じゃ!」

 アイシャさんが珍しく、声を荒げた。そして駄目な従者を抱き上げた。

「こ、ここどこ? どうしたのご主人?」

「ナナ、ナナナナ。ナーナ!」

 ヘモジが捲し立てる。

「呪われてた?」

 今一分かっていないオクタヴィア相手に、ナガレが説明に加わった。

 主人を怒らせた理由を知って耳を垂らした。

「ごめんなさい。ご主人……」

 アイシャさんは何も言わなかった。

 問題解決だ。そう気を緩めようとしたときだった。

「それを渡して貰おう!」

 突然、声を掛けられた。

 見下ろすとすぐそこに鎧を着た兵士の一団が道を塞ぐように立っていた。

「まさか、自力で呪いを解く者がいようとは……」

 兵隊の列から中年の女が現れた。若作りが却って醜く見える類いの女だった。

 身なりはいい。でも、こんな場所にスカート姿とは。神輿にでも乗ってきたのか?

 僕たちの探知にも引っ掛からずに現れたところを見ると、彼らはイベント要員だろう。

 どうやら、クエストは終ってはいないようだ。

「そのネックレスを渡せ! それはこちらのリベッティ様の持ち物だ」

 横柄な態度で兵士のひとりが言った。

「知らんな。これは我らがたった今呪いを解いた物じゃ。くれてやる理由はない。むしろ呪いのアイテムの所有者ならば、詫びて貰わねばなるまいの? いや、そもそもなぜあの場所にこれが隠されていたのか。どう見てもお前たちの家ではあるまい? さあ、申し開きをしてみよ!」

 兵隊たちが腰の剣に手を伸ばした。

「貴様ぁあ、領主の命令が聞けぬと申すかァ!」

 一触即発になったそのとき、突然、転移ゲートが開いた。

「旅の御方! こちらに! 早くッ!」

 アイシャさんは目眩ましを放った。

 その隙に僕たちはゲートに飛び込んだ。

「待て! 貴様らぁ!」


 僕たちは見慣れぬ民家の一室に出た。

「倒しちゃった方が後腐れなかったんじゃ」

 ロメオ君の言葉に僕は頭を抱えた。

「深みに嵌まっていく……」

 僕たちを助けた女性は部屋の真ん中にある囲炉裏に薪を足した。

 部屋のなかは既に暖かかった。

 別の誰かがいるようだった。

「お客人を連れてきたわ」

「面倒掛けたね。イルダ」

 部屋の奥から別の女性が現れた。

 老婆であったが、身なりが普通ではなかった。獣の皮をチョッキ代わりにして、猿か何かの小さな髑髏を連ねた物をネックレス代わりにしていた。

 珍しい呪術師の類いだった。

「冒険者だね? この森の異常に気付いた者が依頼でも出したのかね?」

「いや、ただの通りすがりじゃ。たまたまレイスの巣になっていた家でこれを見つけてな。うちの馬鹿な猫が首に提げおった」

 オクタヴィアが恐縮して丸くなった。

「元々猫とはそう言うものだ。尻尾が二本あれば尚更だ。かっかっかっ」

 そう言って老婆は笑った。

 僕たちに火の側に来て、当たれと言った。

 暖かいお茶とオクタヴィアにはミルクが運ばれてきた。

「どこから話そうかね」

 黙って解放して欲しい。

 助けて貰った手前、そう言うわけにもいかないが。

 内容だけでも聞いておきたいという、いつもの好奇心が沸き上がってくる。

 オクタヴィアばかりを責められない。

「そのネックレスはあの女領主の言う通り、あの女の持ち物だ。ただし、呪いを掛けたのもあの女の仕業だがな」

「呪いを解かれて、内心さぞ怒っているでしょうね」

 イルダさんが言った。

「話が見えん」

 アイシャさんはずっと高飛車に出ている。余程腹に据えかねているらしい。

「この森の住人はあの女のせいで皆レイスになってしまった。生き残っているのはもはや、奴らとこの娘と事情を知ってしまったわしだけだ」

「なぜ逃げださん?」

「このままにしておけと言うの?」

 イルダさんが口を挟んだ。

「まあ、待ちなさい。この方たちは事情を知らんのだから。まずは腹ごしらえでもして、それからにしなさい」

 さっき食べたばかりなんだけどな。

 食事はともかく、話はこうだ。


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