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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十二章 星月夜に流れ星
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エルーダ迷宮征服中(レイス討伐編・呪われたオクタヴィア)3

「オクタヴィアは?」

 アイシャさんが駆け寄り調べた。そして魔法を幾つか掛けた。

「大丈夫。取り敢えず命に別状はないようじゃ」

 ロザリアが知ってる限りの解呪呪文を施したが、ネックレスが効果をすべて打ち消した。

「ネックレスを壊したら?」

 僕は言った。

「駄目じゃ、却って解呪を困難にさせることもある」

 どうやら鑑定前のアイテムだというのにオクタヴィアが調子に乗って装着してしまったようだ。こちらも全員手紙に目を奪われ、鑑定を後回しにしてしまった。

 解呪方法とか、何かヒントがあるんじゃないか?

 僕たちは未読の手紙を漁った。

 さすがに都合よくは出てこなかった。

 何か情報はないかと二階に上った。

 探知スキル持ちの一角が崩れると行動範囲が極端に狭まった。

 その分リオナの精神的な負担は大きくなりそうだった。

 早く状況を打開する(すべ)を見つけるか、教会に連れていかないと。

 この家の捜索だけ済んだら、一旦脱出しようということになった。

「修道院に連れていってやるからな。辛抱しろよ」

 だが、この家の住人の日記が二階の一室から見つかった。

 そこには解呪の方法が書かれていた。

『高き山に登りて、朝露を垂らせ、さすれば呪いは解け、美しき首輪は汝の物になるだろう』という情報を呪術師からこの家の家族が買ったというくだりを見つけた。

 目的の場所を示した地図も出てきた。『朝露の葉』と『高き山』の所在が記されていた。

「どうします?」

 オクタヴィアは主に抱かれて眠っている。

「修道院では治らぬかも知れぬ」

 アイシャさんが呟いた。

 僕たちは押し黙った。

「これはクエストじゃ。これが真の呪いなら、ロザリアの魔法も万能薬も効いておるじゃろう。もっと苦しんでおるはずじゃし、障害の進行ももっと早かろうて……」

「てことは?」

「クリアせねば、こいつはこのまま眠り続けるやも知れぬ」

「案外、外に出たら治るかも」

「あれほどクエストの予兆には気を付けるようにと……」

 また巻き込まれてしまったようだ。さすがに今回は不可抗力だが、この場所に来たことがそもそも軽はずみだった。どうせレイス戦で失敗して脱出するならどこでも同じだと高を括っていた。まさかレイス戦以外に落とし穴があろうとは。

「ちょっと」

 ロザリアが遠慮がちに声を掛けてきた。隣りの部屋からだった。

 どういうことだ、これ?

 日記から判断するとこの家の夫婦の寝室だろう。

 白骨化した遺体が並んでいた。

「これは…… 刃物によるものだ」

 頸部に刃物による損傷があった。もう片方の遺体も胸部を一刺しだった。

 日記の内容からするとこの家の娘がネックレスの呪いに掛かった後、娘の両親がなんとかお金を工面して、先の情報を手に入れたらしい。だが…… 娘の呪いが解かれたかは記されていなかった。

「あれ、見るです!」

 リオナが窓の下に視線を向けた。

 白骨化した遺体が転がっていた。

「娘か? それとも巻き込まれた誰かか?」

 窓から落ちたのは明らかだった。

 レイスは四人いた。そうなると後一体分の死体がどこかにある……

「こんな場所で、昼食を夜食として食うのはごめんじゃぞ」

「そうですね」

「『朝露の葉』は『高き山』に行く途中で回収できます」

 ロメオ君が言った。

 探偵ごっこをしている場合ではない。

 ここから行くのも出直すのも距離的に余り変わらなかったので、一旦外に出ることにした。

 もしかするとオクタヴィアの容態がリセットされるかもしれない。

「行きましょう」

 ロザリアが脱出用の転移結晶を使った。


 外に出てもオクタヴィアの容態は変わることがなかった。

 門番詰め所のメアリーさんにも見せたが、障害の類いではなく、ただ寝ているだけのようだと言われた。体力が落ちてくれば別だが、現状での回復は無意味だろうと言われた。一応解決策を調べてくれるそうなのでそちらは任せて、僕たちは解決策が示されている迷宮に戻ることにした。

「リオナ、負担が増えるけど少しの間、頼むぞ」

「へっちゃらなのです」

「ヘモジもそう落ち込むな」

「ナーナ」

「平常心だ。僕たちに何かあったら、目覚めたとき一番悲しむのはオクタヴィアだ。大丈夫。時間はある」

 どうすればこうも完璧に眠らせられるのか。心当たりはあった。そう、アイシャさんも同じことを考えているようだった。そうである。アイシャさんがかつて迷宮に閉じ込められている間、使っていた方法だ。時間を操っているのだ。恐らくオクタヴィアだけが違う時間のなかにいるのだ。だからこちらからのアクセスに反応しないのだ。どんな強力な魔法も時が過ぎれば無効になる。時々迷宮はとんでもないことをする。勿論確証のある話ではないが。


 こういうときに限って、敵とやたらと遭遇するものである。一種の法則のようであるが、このマップに限っては確約されたものだった。

 苛立ちが募る。

 目的地までいくつかの家屋敷を通過しなければならなかった。ところがレイスは点在する家々を中心に活動しているので、家屋敷の前を通り過ぎると必然的に絡まれることになっていたのである。

 逆に言うと家屋敷が遠ければ遭遇する確率は低くなるわけだ。

 僕たちは今、最短距離を行こうと決めて突き進んでいる。

「多いのです。…… 八体いるのです。近いのは二体なのです」

 ベヒモス戦で投下した光の結晶でもあれば一撃で終るのだが。

 まず射程まで近づいて、遠くからリオナとアイシャさんが弓を射た。

 弓は見事に弧を描いて二体のレイスの腐肉に突き刺さった。

 レイスは狂ったように叫んだ。まるで怒った猿のように見境がない。

 姿を消せなくなったところにナガレとロメオ君が魔法を放つ。

 仕留めきれなくても、消えなければ追撃のチャンスはある。雷撃でも弱い火の玉でも一旦燃え上がれば楽勝だった。

 目の前で二体のレイスが虚空に散った。

 これで終ってくれれば楽なのだが。

 入れ替わるように叫び声を聞いた連中が押し寄せてきた。森の茂みなど気にすることなく、滑るように真っ直ぐ迫ってくる。

 さすがにこうなるともう矢を射ている場合ではない。リオナとアイシャさんは急いでロザリアの結界のなかに戻って来た。

 警戒して頻繁に姿を消すようになった敵に、ロメオ君とナガレの魔法も当たりづらくなった。

 周囲の木々が凍り始める。

 闇のなかでピキピキと氷の割れる音がする。

 敵がいよいよこちらの射程圏内に収まってきたので、僕は『聖なる光・改』を放った。

 目映い光の圧力を前に、現世に姿を留めていたレイスたちは風に吹かれた薄布のように消し飛んだ。

 たまたま姿を消していて運よく一撃を免れた奴らも、姿を現わした途端、残光を浴びて、燃え上がった。生き残った数体は慌てて再び闇のなかに姿を消した。

 そして起死回生とばかりに『生命吸収』を仕掛けようと僕たちの目の前に飛び込んできた!

「ギィヤアアアアァア!」

 ロザリアの聖結界に阻まれて、そのまま光の粒になって虚空に消えた。

 急に静かになった。

 生き残りがいないか、しばらく息を潜めて、様子をうかがった。元々生きてはいないのだが……

「いないみたいなのです」

 何ごともなく、冷気が晴れていった。

 どうやら殲滅したようだ。

 何か落としてくれれば数の確認のしようもあるのだが、徹底して何も落としやがらない。

 その分、家屋敷を漁れば、値打ち物が出てくるのだろうが、今、それをするのはお預けだ。


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