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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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ユニコーン・シティー4

 安普請だった砦は石積みの堅剛なものに変わっていた。

 馬車を中庭まで移動すると、僕たちは順に車から降りた。

 リオナとエミリーは馬のハーネスを外して厩舎に運ぶ。

 僕とアンジェラさんのところに書類を持った若い兵士がやって来て言った。

「素泊まりは無料だ。宿舎を使うならベッド一つ二千ルプリからだ。食事がいるなら、ひとり八百ルプリ。寝台込みだと五百だ。詳しいことは奥の担当に聞いてくれ。干し草は厩舎でな。バケツ一杯で三百ルプリだ」

 僕たちは一部屋を五千ルプリで借りた。ベッドはちょうど四つ。食事は朝と昼の分も含めて四人分十二人前を頼んだ。干し草は朝夕の二食分で、締めて一万一千六百ルプリだ。

 この先休憩所はあるが、三日先の駐屯地までは無人である。蓄えは多い方がいい。

 砦の一階がすべて宿になっていた。食堂は兵士たちと共同で時間帯をずらして利用することになっているらしい。十人ほどが座れる長テーブルが二列に三つずつ並んでいる。窓はなく、光の魔石が輝いている。僕は迷宮のなかにいるような錯覚を覚えた。扉の先から地下蟹でも出てきそうな雰囲気だった。

 出された食事はうまかった。この辺りで獲れたイノシシの肉だと言っていたがソースが絶品だった。

 砦のシェフは何年も王都で修行したという、恰幅のいい小男で気さくな人物だった。将来、新都に店を持つのが夢だと熱く語っていた。僕たちはそのときには是非伺うからと約束を交わした。

 溶けたチーズをのせたパンもまたおいしかった。肉に辟易としていたリオナは特に喜んだ。

 チーズは馬車の荷台に横たわっている保管庫のなかにもホールごと一つ入っているが、これからはパンにチーズも定番になりそうだ。

 とても五百ルプリで食える料理ではなかったのでみんな喜んだ。

 彼の店はきっと繁盛すると、みんなが確信した。リオナ曰く、「おっさんの腸詰め級」のおいしさだそうだ。

 砦には確認しただけで二十人ほどの兵が詰めていた。誰もが真新しい鎧を着ていた。すべてが領主の配給だと聞いて、ヴァレンティーナ様の財布の中身が心配になった。

 また万能薬でも寄付しようかな。


 夜になると周囲の防壁の上に七、八人ほどが見張りに残るのみとなった。

 女性陣が着替える間、追い出された僕はひとり荷台に寝そべり、『魔力探知』で周囲を索敵した。

 相変わらず森のなかは星空に負けないほどの煌めきに満ちていた。

「問題なし」

 砦の障壁を破れるほどの魔物はいなかった。と思いきや、すぐ防壁の外近くにいた。

 僕は防壁の上に続く階段を登り、外を見下ろした。

「おい! 坊主。勝手に上がってくるな!」

 遠光器の明かりを突きつけられ、見張りの兵士に怒られた。

「魔物がいるんですよ!」

「ああん? どこだ?」

 僕は指指した。

 兵士は遠光器をかざして探した。

「どこだ?」

「いえ、『魔力探知』ではそこに……」

 壁のすぐ向こうを指したが、何もいなかった。

「おい、いい加減なことを言うなよ!」

闇蠍(ダークスコーピオン)じゃよ」

 若い兵が怒るのを年配の兵士が止めた。

「隊長!」

「何やらおると思ったら蠍じゃったか。ようわかったの、お客人」

「あの…… 闇蠍というのは一体?」

 僕と若い兵はハモって尋ねた。

「この森に昔からおるやつじゃよ。ユニコーンの天敵と言われておる魔物でな。闇属性の結界を張っておる。見ての通り、目に映らんやっかいなやつじゃ。結界に触れると毒や状態異常になるしの。挙げ句、尾の毒針は即死級の毒ときたもんじゃ。質が悪いにもほどがある」

「ユニコーンの天敵って?」

「ユニコーンだけを捕食対象にしておるんじゃ、珍しいじゃろ? 角があればあの程度の魔物、ユニコーンはものともせんのじゃがな、角のない幼いユニコーンでは毒を中和することができずに、餌食になることが多い」

「人は襲わないんですか?」

 若い兵士が闇が蠢くのを見ながら尋ねた。

「知らずに近づいて毒を貰ってくる者もおるが、死んだという話は余り聞かんな」

 僕は『認識』スキルを発動した。

『闇蠍、レベル二十七、オス』

 素の状態でならユニコーンの圧勝だな。『草風』でも十分やれるはずだ。

 でも……

 そのとき、さらなる影が遙か遠くから近づいてくるのがわかった。

「何か来る?」

 僕は身を乗り出した。

 それは一騎の騎馬だった。

「まずい、知らせないと」

 若い兵士が遠光器を掲げて危険を知らせようとすると隊長が「やめておけ」と制止した。

「それより、最上級の毒消しを用意しておきなさい」

 と言った。若い兵士は下に降りて薬を探しに行った。

 僕は視線を戻して接近してくる騎士と闇蠍を交互に見た?

「なんで止めないんですか?」

 僕が訪ねると隊長は口角を上げて、自分の腰に剣があることを確認した。

「ありゃ、獣人の戦士じゃよ。蠍ごときに負けはせんよ」

 そう言いながら何かあったらと、さりげなく鎧のチェックしている。

 僕も自分の格好を見た。

「まあ、見とれ。面白いもんが見れるぞ」

 騎乗したその人物は闇蠍めがけて突っ込んでくると、直前で馬から飛び降り、その勢いのまま闇蠍に襲いかかった。

「うおおりゃあああああァ」

 大男だった。その身の丈ほどもある長剣でいきなり闇蠍の結界に殴りかかった。

「あいつは何してるんだ?」

 若い兵士が叫んだ。薬を持ってきたようだ。

「あの結界、あれで破壊できるんですか?」

 僕も思わず尋ねた。

「あの結界は闇属性じゃが、同時に通常結界でもある。物理攻撃も防ぐからの。子供とはいえユニコーンでも餌食になる代物だ。容易くはないぞ」

 結界を持った魔物とは戦ったことないからな。ラヴァルみたいなもんかな。なら戦いようはあるけど…… 毒針は怖いな。

「もしあいつを狩りたいなら、『結界砕き』や『結界防御』など有効なスキルを入手するか、僧兵に手伝ってもらうのが一番じゃ。強力な光属性の装備を揃えるという手もあるが、光の属性の装備は法外じゃからの」

「あれは?」

 スキル持ちにも僧兵にも見えないんですけど。

 僕は戦闘中の獣人の大男を指さした。

「力業かの……」

 隊長も答えに詰まっていた。

「とうおおおりゃあああああ」

 大男の一撃がまた結界に弾かれる。

「まだまだぁああッ、おおりゃぁあああァ!」

 豪快だ。見ていて清々しい。

「んだこりゃぁあああァ、どっせえぇえええいーッ!」

 若い兵も隊長すらも呆気にとられている。

 まさに力業の見本だった。

「もういっちょーうッ! うぉおりゃあああああァ!」

 大丈夫かな、あの人。


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