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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)75

 火後月、末日。

 早朝、エルーダ迷宮へは定員オーバーのため振り子列車では行かずに、ポータルで移動した。

 列車の移動時間分を使って、食堂で打ち合わせを行なった。

 ミートパイを頬張りながら、お茶を飲み、楽しい朝の作戦会議である。

「攻略は地下十七階にしようと思う」

「香木フロアなのです!」

 リオナが椅子の上で飛び跳ねた。

「敵の数と、強さを考えるとこの辺りが妥当だと判断した。今回、香木はおまけだ。あくまで戦闘を最優先させる。ただし、最下層の木材置き場の香木は見繕って回収する。開かずの扉の攻略は『最深部の鍵』が出たら行なうものとして、王様部屋は無視することにする」

『クイーンジャイアント レベル五十』のいる部屋は宝の山なので運がよければ回収する。

 王様部屋くらいなら、ワイバーンの巣の宝箱を開けた方が回収と転売の苦労はないので、その場合、香木を多めに回収することで、今日のところは帳尻を合わせることにする。


 早速、僕たちは迷宮のゲートを目指した。

 リオナとピノ以外、全員杖装備という変わった出で立ちで、いつにも増して周囲の興味を引いた。僕なんかドラゴン装備に杖だから、目立つことこの上ない。

 物理攻撃の通じない敵と戦うんだな、ぐらいに思ってくれたら幸いだ。

 ゲートを潜る前に全員装備の最終確認を行なった。お守り、薬、脱出用の転移結晶、非常食の確認をした。

 オクタヴィアとヘモジはそれに加えて、僕のリュックのなかのクッキー缶と、鞄のなかの金貨一枚の確認も行なった。金貨は迷子になったときの家までの路銀である。

 それと今回はチョビとイチゴにも前線に出て貰う。

『頑張りますよ。ご主人。任せてください』

『頑張ります』

 とは言え、入口付近ででかくすると敵と間違われそうなので、他のパーティーがいなくなってから大きくすることにした。


「よし、半周先の分岐ポイントまでチョビとイチゴを先頭に一気に殲滅するぞ」

『行きましょう、イチゴちゃん。遂にわたしたちの実力を見せるときがきたのです』

『うん、頑張ろうね。チョビちゃん』

 アースジャイアントと戦いやすいサイズに召喚し直してやると、ふたりは突撃を開始した。でかいからすぐに敵に発見された。

 敵が威嚇のために咆哮を上げるも、物ともせずふたりは突き進む。

 僕たちはその後ろに黙って付いていく。

「敵を散らすよ」

 パスカル君がチームに指示を出す。

 チョビが鋏を振った。

 棍棒が転がった。

 巨人が一撃を受け止めようとして潰された。

 イチゴも一撃を加えた。

 アースジャイアントはふたりの足元を狙って散開するが、後ろに回り込ませまいとパスカル君たちが攻撃を加える。

 チョビたちは棍棒による攻撃を物ともしなかった。

 鋏を振り回すだけで敵は一方的に沈黙していった。

「圧倒的だ……」

 芝居がかった台詞をファイアーマンが吐いた。

 圧死なので、欠損なしの完璧な状態での魔石が手に入った。だが土の魔石(中)にしかならなかった。姉さんたちと来たとき同様、無視することに決めた。

 棍棒一本が香木だった場合の報酬を考えれば無視していいレベルだった。


「ここからは計画通り、班を二つに分ける。僕と、パスカル君のチームは例の宝箱がある、左側から攻めていく。残りは右側からだ。先に最深部に取り付いた班から掃討を開始するように。それとここからしばらく山道が狭くなるのでチョビたちには一旦小さくなって貰うことにする」

 人型の優位性を思い知らされる。本来のサイズだったら、ヘモジもナガレも今のレベルでは迷宮内で使い道がなくなっていたはずだ。

「行き止まりだ」

 全員が崖の先で立ち往生した。

 オクタヴィアが僕の肩の上で周囲警戒を行なっている。隣がチョビでやりづらそうにしていた。

 僕も向こう側の進行状況を望遠鏡で確認した。

 ちょうど倒し終って、『スイッチ』を踏むところだった。

「気を付けろ! 動くぞ」

 しばらくすると目の前の崩落した山道が繋がった。

「おーっ!」

 パスカル君たちが感嘆の声を上げた。

「みんな急いで渡る。向こう待ってる!」

 全員が急いで山道を渡りきった。

 すると足場が元に戻っていった。

 向こうの班が『スイッチ』から降りて、移動を開始したのだ。

「あれに乗る!」

 オクタヴィアが渡った先にある『スイッチ』に乗るようにみんなに指示を出した。

 チョビは肩から飛び降りて踏み石の上に飛び乗った。

 でも今のチョビでは軽すぎて動かなかった。

 僕は『スイッチ』の踏み石に乗った。ゴゴゴッと音を立てながら沈み込んだ。

 望遠鏡で向こう側を確認する。

 向こうの仲間を落としたら大変だと、責任重大だとチョビは勘定に入っていないにも関わらず、真剣に踏み石を踏みしめていた。

「渡り切ったって」

 オクタヴィアが合図をくれた。こっちも見えているが、僕はチョビを抱えて踏み台から降りた。

「次に行くぞ」

「敵、発見!」

「攻撃開始!」

 パスカル君たちの攻撃が放たれた。僕は接近を牽制しつつ、とどめはパスカル君たちに任せた。

 あっという間に三体を倒した。

 次の足場は既に架かっていたので僕たちは先を急いだ。

 僕たちはその先にある広い洞窟のなかに踏み入った。ここから先は巨人の巣だ。

 各個撃破しながら前進する。

「宝箱発見!」

 オクタヴィアが尻尾を立てた。

 でもまず周囲の殲滅が先だ。

 杖が足を引っ張った。発動は遅れるし、命中精度も悪かった。敵が多いと負担も大きくなってくる。

 僕は魔法をばらまいて牽制する。普段なら結界で押し返すところだが、今回は杖を成長させることも勘定のうちなので、結界は最小限に留めている。

 そろそろファイアーマン辺りが業を煮やす頃だ。

 魔法を爆発させた。

 当たらなきゃ、そうするしかないな。

 一通り倒すと、僕は宝箱に向かった。念のためにみんなを遠ざけておく。

「鍵が出ますように」

 そうそう出るものではないのだが。

「ああッ!」

 僕が声を上げる前にオクタヴィアが宝箱のなかに飛び込んだ!

「出たーっ!」

 古ぼけた鍵を高々と抱え上げた。

 パスカル君たちも覗きにやって来たが、大きな宝箱のなかに鍵一つだけの状況でなぜこうまではしゃいでいるのか、事前に教えられていてもまだ分かっていなかった。

 総額金貨十六万枚、税引き後一人頭一万六千枚の前回の偉業についてはまだサプライズにと明かさずにいたのだ。ドラゴン丸ごと何匹買えるかなというレベルだが、それを知るのはオクタヴィアのみ。普段、お金のことなど歯牙にも掛けないオクタヴィアでも冒険者として心躍る瞬間なのである。

 今頃、あちらでも大騒ぎしていることだろう。リオナが嬉々として報告しているに違いない。

 早く合流しよう。みんなの喜ぶ顔が見たい。

「行くぞ」

 僕たちは最深部の合流ポイントまで着実に歩を進めた。

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