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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)74

 騒ぎは早々に収まった。

 結界は中和用の魔力が切れただけで、補充したらすぐ再起動したらしい。

 元々姉さんが造った物だし、問題はすぐに解決した。領主の怒りは別として。

「この際、魔石の代わりにウィスプの核を採用した方がいいかもしれない」

 耳のいい連中の話では早速、姉さんはシステムの改造に取り掛かってしまったらしい。

 ほとぼりが冷めるまで、体よく逃げたわけである。

 アイシャさんもいつの間にか書庫の鍵部屋に避難していた。

 主役が皆、留守にしている間も、祭りは滞りなく続いた。

 目の前で繰り広げられた奇想天外な出来事がいい酒の肴になっていた。

 リオナが幹事を引き継ぎ、どんどん膨れあがる客に対応していった。事件の顛末を聞きに自重していた町の人たちが押し寄せてきたのである。話したくて仕方がない兵士たちは来客を快く迎え入れた。

「相変わらず、馬鹿だよな。うちの相談役は」

「あれを平気で受けきる弟もぶっ飛んでるぜ。おりゃ、死んだと思ったぜ」

「ああ、ギルドの小倅もよく防ぎきったもんだ」

「それにしたって障壁を破壊する攻撃を盾で弾いちまうなんてな」

「そもそも中級魔法って話だったんじゃなかったのか?」

「まったく、あの姉弟は何してんだか」

「領主様も白髪が増えるぜ」

「若様が来るまで一緒に馬鹿やってたのは姫様だけどな」

「ちげえねえ」

 笑いが溢れた。

 もはや盾のことなどそっちのけである。

「でも、やっと僕たちの夏休みが来たって感じだな」

 パスカル君がそんな景色を眺めながらダンテ君に話し掛けていた。

 ダンテ君たち、初参加組はもう目が点になっていた。

 確かに術式は彼らも知るところの中級の術式だった。でも目の前に広がる焼け野原と、その中央で腕組みしてる領主の姿は現実だった。

 イメージ発動型の優位性は既に理解していた彼らでも、ここまで際限がないとは思っていなかったらしい。

「いいですか、くれぐれも言っておきますが、これは盾の限界を実証したものです。あの盾が魔法の盾だということを忘れないでください。魔力主体の装備だということを肝に銘じておいてください。誰でもあんな強力な魔法が防げるとは思わないように。装備する者は万能薬と交換用の魔石の携帯を忘れないよう、心がけてください。それだけでもドラゴンの最初の一撃は防ぐことができます」

 エンリエッタさんは大事な補足説明を真面目に行なっていた。

 僕はヴァレンティーナ様に見つからないように遠巻きに近付いて人垣の隙間からそれを眺めた。

「軽いが故に強度を心配する者もいるでしょうが、通常の状態でも実戦に耐えうる強度は充分保たれているので安心するように」

 エンリエッタさんは言わなければいけないことを一通り説明し終えると、椅子に座わり喉を潤した。

「ナーナ」

 ヘモジが遊ばれていた。

「この小っこいのであれを防いだのか?」

「ナーナ」

「ちょっと見せてみな」てことで酔っ払いたちに盾を取り上げられてしまった。

「ナーナ!」

「ほんとに軽いな」

「確かに、これじゃ前線の連中が不安になるのも分かるな」

 持ち逃げされるんじゃないかとヘモジはテーブルの上でソワソワしていた。


「兄ちゃん、こっち」

 ピノが呼ぶ。

「どうした?」

 森に入ると十頭ほどのユニコーンの子供たちが待ち構えていた。

「燃えたから心配してる」

「ああ、ただの誤爆だから大丈夫だ。姉さんが馬鹿やったんだ。驚かせて悪かったな」

『じゃあ、緑にしていい?』

 子供たちは地肌が露出した荒れ地を見つめた。

「助かるよ」

『やった! 元通りにする!』

獣人の子供たちと一緒に駆け出した。さすがのヴァレンティーナ様も怒るわけにもいかなくて、その場をユニコーンたちに譲った。

 今度はユニコーンの子供たちによる大地の再生の儀式を見ることになった。

 ただ楽しそうに跳ねてるだけなのに段々と抉れた地面が緑色に変わっていく。

 観客たちは不思議そうにその光景を眺めた。

「無理しちゃ駄目だよ」

『分かってる』

 獣人の子供たちもユニコーンの子供に無理をさせないように気を使う。

 見る見るうちに草原が再生していった。

 再生すると子供たちは緑の上にしゃがみ込んだ。そして獣人の子供たちが持ってきたポポラの実やカロータを一緒になって美味しそうに食べ始めた。

「これはご褒美なのです」

 いつの間にかリオナとヘモジ、オクタヴィアが岩塩を持ってきた。

 ユニコーンの子供たちが飛び跳ねて喜んだ。

 人族の子供たちがユニコーンでも食べられそうなパンやジュースの樽を抱えて合流する。

 三者が仲良く食べ始める。

 会場は暖かい空気に包まれた。

 兵士たちは守りがいのある町に来れたことに感謝した。

 口々に「一周年おめでとうございます。殿下」「スプレコーンに幸あれ」とヴァレンティーナ様に祝辞を述べた。

 ヴァレンティーナ様の牙が抜けた頃合いを見計らって、姉さんは戻ってきた。

「いやー、結界というのは内側からの攻撃には脆いものだな。はっはっはっ」と。

 確かに内側からの攻撃には脆いと言われるが、この町の規模の結界障壁を一撃で破壊した話は聞いたことがない。

「すまん、やり過ぎた」

 領主に頭を下げた。

「いつも弟になんて言ってるか覚えてる?」

「姉を敬え」

「違うでしょ! 『自重しろ』よ!」

 兵士たちは姉さんたちを見て笑った。そして子供たちも。

「兵たちもいい休息になったようじゃな」

 ゼンキチ爺さんが傍らに立った。

「そうですか?」

「世界中探してもあんなに生き生きとした目をした兵隊はおらんよ」

「町が明るくて助かります」

「自分たちが命を賭けて守るべきものを再確認できただけでも、今日の慰労会は成功じゃ。後はたらふく、飲み食いして、命の洗濯をさせてやりゃええ」

 気が付いたときにはいつもの肉祭りになっていた。人族の家族連れも大勢やって来た。

「これって、日常的にやってるんですか?」

 フランチェスカが僕たちを呼びに来た。

 人出が多くなってきたので、テーブルを確保したらしい。

「ほぼ毎月やってるかな」

「信じられない…… うちで同じことしたら破綻してるわ」

「ドラゴンの肉は自前だからね」

「え? あの、振る舞われてるお肉って……」

「あれ? 知らなかった? パスカル君たち言わなかった?」

 フランチェスカは仲間の元に戻った。そして確認を取ると言葉を失った。ドラゴンの肉をただで振る舞うとは思っていなかったらしい。冗談だと思っていたらしい。


 慰労会はそんなフランチェスカの驚きを余所に二日間続いた。

 さすがに二日目のプレゼンテーションでは姉さんは外され、代わりに姉弟子のドナテッラ様が参加した。

 周囲の者たちは驚いた。同じレストランで働いていた主婦たちも言葉を失った。まさか姉さんの姉貴分だったとは。

 魔力の量こそ常識の範疇だったが、威力は一門に例外なく、非常識なものだった。

 その関係でロッタとカーターも参加してくれた。会うのは久しぶりだ。


 結果、部隊へのプレゼンはうまくいったようだった。新型の盾は無事、旧型と置き換えられたのである。

 そして、パスカル君たちの夏休みも終わりを迎えた。

「今回の演習参加の報酬だ」

 姉さんはパスカル君たちに揃いの杖を贈った。

「授業で使うには強力過ぎるが、今回の記念だ。実地訓練のときにでも使ってくれ。中央の石にはウィスプの核をはめ込んである。勿論生きてはいないので安心するように。ただ、いずれそれらの杖はお前たちの嗜好に合わせて変化していくはずだ。攻撃的な者にはより攻撃的に、守備的な者には守備的に特化するだろう。それぞれの属性、利用する術に合せて、最適な形態を取るようになるだろう。育て方によっては最強の杖になるはずだ」

 僕も一本ぐらい魔法使いらしく持っておけと言われて頂いた。

 ロメオ君とロザリア、アイシャさんにも贈られた。デザインはすべて一緒。それぞれの変化を楽しむ物らしい。

 リオナとピノには短剣の形で送られた。魔力調整もされていないものだった。それも含めて短剣の方が使用者にあわせて最適化するのだそうだ。最初の数回はめまいを起こすかもしれないと忠告を受けたが、その通りになった。だがやがて、めまいを起こすことはなくなった。

 何がどう変化したのかは『認識計』で計るしかないが、リオナの解体用のナイフが霞むほどの切れ味を発揮したことだけは事実であった。

 リオナは解体用のナイフをワカバの母に贈った。

 夏休み最終日、僕たちはこれらの装備で迷宮に挑むことにした。


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