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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)71

「そうだな。明日は肉祭りだから、帰るとするか?」

「え?」

 そうなの?

「お前、うちの隊員に奢ると言ったろ?」

「言いましたっけ?」

「怪我しなかったら、どうとか。違うのか?」

「ああ、なんか言ったような……」

『後でステーキ奢るから、誰も怪我しないでくれよ』

 呟いただけなんだが……  耳のいい連中だな。

「ずっと働き詰めだったからな。祭りも見られなかったし、まあ、よくしてやってくれ」

「そうだよな。みんなお祭り返上だったんだよな」

「姉さんは?」

「わたしは湖の状況を確認してからだな」

「じゃ、祭りからあぶれた連中限定でやろうか。楽士たちはもう帰っちゃったかな?」

「早く帰ろう!」

 ピノ…… 現金な奴だな……

「祭りは明日なのです」

「じゃあ、今晩は前夜祭」

「いつも通りな」

「ナーナ」

 こら、呆れ顔するな。

 オクタヴィアがリュックに戻った。

「船を工房に入れるのは明日でいいか」

「いいんじゃない。工房の人たちも休みたいだろうしさ」

 ロメオ君が言った。

「よーし、終った。報酬は等分だから、みんな期待して待っていろよ」

 とんでもないことになるからな。

「来た道を戻るぞ」

「はーい」

 僕たちは来た道を引き返した。

「蠍たち、まだ同胞の亡骸を回収してないな」

「わたしたちがいる間は警戒心は解かないでしょ」

 ファイアーマンとフランチェスカが辺りを見回した。

 ゲート部屋まで来ると扉の施錠と結界の確認をして、姉さんの開けたゲートに飛び込んだ。



「終ったな……」

 ドラゴン狩りはおまけとしても、マリアベーラ様の結婚式は終った。

 全員部屋に戻り、夕飯までの時間を勝手に過ごすことにした。

 正直張り詰めていた気が一気に切れた。

 見える景色まで暢気に見える。

 外はまだ夕暮れにはまだ早かった。市場の方ではきのうの祭りの余韻をかって賑やかだった。

「兄ちゃん!」

 珍しくピノが三階の僕の部屋の扉を叩いた。

「どうした?」

 今はパスカル君たちの部屋になっているそこに装備を外して身軽になったピノが現れた。

「楽士いたよ。酒場に逗留してるんだって」

「そうか!」

 獣人たちの情報伝達速度の速さには相変わらず感心してしまう。

「酒場に誰かいるか?」

「まだ酒場は開いてないよ」

「書き入れ時だろ?」

「だから酒樽が空になっちゃったの」

「それじゃ、楽士を借り受けるのは気が引けるな」

「俺、ちょっと行って相談してくる!」

 ピノが駆けてった。

 階段を使わず、リオナの庭の外側のガラスを拭くための足場を伝って、二階まで下りると、リオナの木の家に続くアーチを渡ってわざわざ木を伝って降りて行った。

「思い切り遠回りだろうに」

「凄いですね。あの歳で」

「軽装の方がいいんじゃないか?」

「あのドラゴン装備は重装のカテゴリーには入らないですよ」

 パスカル君とファイアーマン、ダンテ君が思い思いのことを言った。

「無理はして欲しくないんだけどな」

「エルネストさんが言っても説得力ないですけどね」

「装備だけならいくらでも揃えてやれるけど、経験だけはな…… あいつは前ばかりだからな」 経験積む前にしくじって欲しくないんだよな。

 姉さんたちが僕やリオナに最高の装備を揃えたときもこんな気持ちだったのかな。でもあいつの場合、却ってそれで無茶しそうで怖いわ。

「みんなは装備足りてるのか?」

「前回の稼ぎで結構いい物買ったつもりなんだけど」

「俺なんて、学費抜いたら指輪一個だぜ」

 ファイアーマンはそう言いながらも炎属性増加付与の指輪をちらつかせた。

「確かひとり金貨二百枚ぐらいだったか?」

「ええ? そんなに!」

 驚いたのはダンテ君だ。

「そうだぞ。一日の稼ぎがひとり金貨二百枚だぜ。総額で二千枚ぐらいだったんだ」

「冒険者ってそんなに儲かるの?」

「いや、宝箱開けたからな。あの宝箱は最高の『鍵開け』スキル持ってても失敗するレベルだからね。普通は手を出さない代物らしい」

「でも開けたんでしょ?」

「奥の手があってね。でも、宝箱開けなくても、今回はドラゴン二匹だからな。いくらになるかな。姉さんが一括で買い上げてくれればいいけど」

「買い上げてくれないとどうなるんですか?」

「商会にばら売り、あ、税金もあるからその分は売らない方がいいかな」

「で、どの位になりますか?」

「さあ? 僕も分からないんだ。全部姉さん任せだから」

「えーっ?」

「姉さんのバックには魔法の塔があるから、買い手に事欠かないらしいよ」

「なんか心配になってきた」

「だったら、装備にして貰うといいよ。手元に残す分だけ取ったら、残りの金で装備でも選んでもらうといいよ」

「うちの領地、お金で困ってないかな?」

「聞いてみろよ」

「何か目安ありません?」

「うーん、いつも食べてるハンバーグサンドが金貨一枚でも安いらしいってことぐらいかな?」

「参考にならねー」

「まあな。少なくとも前回の十倍ぐらいはあるんじゃないかな?」

「想像できないよ」

「でも、希少本一冊で消し飛ぶ値段でもあるよ」

 僕は言った。

 すると全員が愕然となって僕を見た。

「みんなが読んでたのは大体百枚ぐらいの本だ」

 全員が書庫の方を見た。

「あの奥の鍵の掛かった部屋にある本は?」

「半分は値段付かないんじゃないかな? ま、魔法使いの本当の力は、当人のスキルや素質というより、生まれた家の持っている情報量だと思うよ。ファイアーマンの家の炎の上級魔法の本がいい例だよ。ああいう物の積み重ねが大魔導士を生む基礎になるんだ」

「ヴィオネッティーって騎士の家系だろ?」

「特異体質だけどね。でもうちは母が魔法使いの家系だからね」

「お母さんはアシャン老様のお弟子さんなんですよね?」

「おかげであの鍵のある部屋の向こうにはいろいろあるぞ。因みにあの城には姉さんの姉弟子もいるぞ」

「うはっ」

 ファイアーマンが膝から崩れる振りをする。

「そしてその末端に君たちがいるわけだ」

「え?」

「弟子になるってことは、系譜も受け継ぐってことだ。いずれあの鍵の先にも入れるようになるかもね。でも、あそこにあるのはどちらかというと僕とアイシャさんの蔵書だからな。姉さんの蔵書は領主館の方だから」

「じゃあ、俺も読んでもいいのか?」

「ほとんどエルフ語だけどな。うち半分は古代エルフ語だ」

「うがっ!」

 今度はほんとに膝から崩れた。

「ま、不本意かもしれないけど、世間様ではファイアーマンも含めて、あの『ヴァンデルフの魔女』の弟子になってるから、覚悟するんだね。取り敢えず、夏休み最大の難関が去ったわけだし、今夜は精々喜びを噛みしめてくれ」

「おーっ!」

「ほんとに分かってんのか? ドラゴンを倒したんだぞ」

「え?」

「あっ!」

「エルネストさんが凄かったから忘れてた」

「おめでとう。そういうことだ、明日は思い切り食って騒ぐといい。夏休みは姉さんも僕も余り一緒にいられなかったしな」

 ピノが帰ってきた。ピノは両手で丸を書いた。

「どうやら楽士が捕まったらしい」


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