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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)70

 煙が晴れた先にはあるべき首がなかった。ドラゴンは逃げる暇もなく、ブレスを吐くこともなくこと切れていた。

 長い沈黙があった。

 沈黙に耐えかねて壁に引っ掛かっていたドラゴンの胴体が床に崩れた。

 僕たちのパーティーは互いに顔を見合わせた。

 そしてパスカル君たちの方に目を向けた。

「やった……」

「やったーっ! ドラゴンを倒したぞーっ!」

「倒したーッ!」

「やりました!」

「やったのね……」

「やったわ、姉さん!」

「やったね。ヴェロニカ」

 パスカル君たちは抱き合って喜んだ。初々しいことこの上ない。

「肉なのです!」

「おーっ!」

 早速、リオナは解体用のナイフを構えた。ピノも追随する気満々だった。

 でもその前に、僕たちはピノの肩に手を置いた。

「なんだよ、俺もドラゴン解体したい!」

「ドラゴン討伐おめでとう。きっと最年少記録だよ」

 ロメオ君が言った。

 ドラゴンを舐めるなと身を以て教えるはずだったのに…… 

「リオナの記録が抜かれたのです」

「ありがとう。ロメオさん。兄ちゃん、みんな!」

 ピノは満面の笑みを浮かべた。

 照れ隠しに、リオナと一緒に解体に向かった。

 盛り上がっている向こうの班からも姉さんが出てきて、獲物の転送準備を始めた。

 僕たちは亡骸の周りに集まった。

「結構あっさり倒れたな」

「これだけ魔法使いがいれば、当然だ」

 斯く言う姉さんも魔力が減っていた。土魔法でフェイクが逃げられないように抑え付けていたのだ。

 帰ろうとすると、姉さんが僕たちをさらに奥へと案内した。

「ドラゴンが集めたお宝でも?」

「いいから来い」

 ドラゴンが通ってきた洞穴だけに天井がやたらと高かった。そして現れた巣は、サラマンダーの洞窟で見た物より輪を掛けて大きかった。

 そして巣の向こうに見えた景色は・……


 地下の大空洞だった。

 ドラゴンが悠然と空を飛んでいる。

 天井には地面があり、大きな穴が開いていた。その先には青い空が広がっていた。

 天井から差し込む光に向かって、巨大な空洞のなかの巨木たちが、先を争うように枝の葉を伸ばしていた。

「何これ?」

 ビアンカが光の差す大空洞を見上げた。

「凄い……」

 パスカル君が周囲をぐるり見回した。

「これってドラゴンの巣窟じゃないのか?」

 ファイアーマンは優雅に飛び回るドラゴンを目で追った。

「こんな場所……どうやって」

「まさか、こんな場所があるとはわたしも思わなかった」

「こんなにいて、よく里に下りてこなかったな。普通にナスカ終ってるだろ?」

「あれのせいじゃな」

 アイシャさんが指差したのは地獄門だった。ナガレ曰く、正式名称はレウコフィラ。巨大なワームのような根っこが頭の上に開いた空洞の周りに頭を覗かせていた。それは半径千メルテにも及ぶ超巨大生物だった。八本から十六本のワームのような根っこを操り捕食する、巨大過ぎる植物の化け物だった。

「地獄門ってワームじゃなかったんですか?」

 フランチェスカが驚いた。

「ワームだと思っていたのは根っこの先端。本体はこの下の地面のどこかにあるはずだよ」

 ロメオ君が説明した。

「去年、正体が分かったです。ナガレは物知りだったです」

 パスカル君たちは全員、自然の猛威に絶句した。いや、僕たちにか?

『魔獣図鑑』の情報が後手を踏むとは思っていなかったようだ。

 今年出る改訂版には正しい情報が載ることだろう。そして世界は驚愕する。全長二千メルテの魔物に。

「つまりここは地獄門の餌場というわけ?」

 パスカル君が姉さんに尋ねた。

「まあ、そういうことだ。幸い生命反応は小さい。ここを作った主はもう生きてはいないんだろう。恐らく、あの根っこの先にいる本体が代替わりした一体だ」

「でも、長い年月掛けて培われた呪縛だけは残っている」

「あの光の先に進めば災厄が待っていると、ドラゴンは擦り込まれておるのじゃろう」

「おかげで僕たちの世界は助かっているわけだ」

「この空洞は地獄門が作ったものなのね」

 ビアンカはしみじみと周囲を眺めた。

「こんなにきれいなのに……」

 確かに幻想的な景色だった。地下空洞には無数の光の柱が注ぎ込んで闇を照らしていた。鳥の群れがここが地の底だとも知らずに飛んでいる。

「あの大きさの本体では、精々捕食しても年に数匹だ」

「減りそうにないね」

「そこで新たな主が一人前になるまで、我々が手を貸してやることにした」

「はあ?」

「ヴァレンティーナとも協議した結果、こっちのドラゴンも月一で一体ずつ減らすことになった」

「じゃ、今月分は終わりだ」

「そこまで厳密な話じゃない。殲滅できれば、餌のなくなった地獄門も葬り去れるわけだからな。だが、問題は市場だ。市場が飽和してドラゴンの部位が値下がるのは『紋章団』としては避けたいんだ」

「でもそうなるよ。アースドラゴンだっているんだから」

「まったく、ドラゴンなんて一生に一度会えるかどうか、などと誰が言ったのじゃろうな?」

「北の町に住んでいればまず会うことはなかろう?」

「わたしだってもう何十匹も相手にしてきた。そんな言葉は平和呆けした妄言だとしか思えんがな」

 なんだが、巨大な魔力が近付いてくるんだが……

「来るぞ! なかに退避しろ!」

 ナガレが落雷を落とした。

 ドラゴンは見事に攻撃を結界で弾いて見せたが、ナガレのブリューナクの落雷は五本だ。つまり今の奴は無防備だ。五枚の結界障壁は剥がれているはずだ。例え数枚残っていても。

 僕は『魔弾』を撃ち込んだ。

「ギィヤァアアアァア」

  叫びながら巣に飛び込んできて、壁に激突した。

 ブレスを吐くべく喉袋を膨らませた。が、巨大化したヘモジが一撃を加えた。

「ナーナ」

「あー、びっくりした」

「ナーナナー」

 再召喚したヘモジがポージングをする。

「あーもう、わたしの二撃目で沈めるつもりだったのに!」

「近すぎたのです。二撃目を待っていたら、ナガレはスルメになっていたのです」

「わたしは水竜よ! イカと一緒にしないでよ! それよりさっさと魔力回復しなさいよ」

「まだ一発しか撃ってないのです」

「五発よ! 結界を破壊するのに少し本気、出したのよ!」

「少し?」

「うるさいわね。早くしなさいよ!」

 まったくこの主従は何やってんだか。

「ナーナ」

 こっちは満足したようだ。オクタヴィアから褒美にクッキーを貰っている。

「三人で仕留めた……」

「いや、ふたり召喚獣だし」

 パスカル君たちが驚いている。

「姉さんこれどうする? 解体屋に回して在庫貯めておく?」

「やっと少し減らしたのに、また増えるですか?」

「大丈夫だ。備蓄倉庫を今改造してるところだからな。年間十体なら備蓄できる予定だ。だがこれで王国旗艦の建造ができるぞ」

「おーっ!」

 みんな感嘆した。

「お前の船よりやっぱりでかい船がいいそうだ」

 あの親父め…… 結局でかいのが欲しくなったか。

「肺を三つ付けた船にするらしい」

「重くなるだけなのに」

「そこは火力で補うんだろうな。新型銃もあることだし」

「さすがにミスリル船にはせんのじゃろ?」

 アイシャさんが尋ねた。

「そもそもミスリルが手に入らんだろう」

「じゃあ、積載量的には余り変わらないのかな?」

「いや、表面積がでかければ『浮遊魔法陣』を多く貼れるからな」

「魔力消費次第だが、より多くの物を収納できる可能性はある」

「それより、回収済ませて帰りません?」

 フランチェスカが言った。


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