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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)69

「用意、撃てーッ」

 一斉に火の球が放たれた。虫は燃やすに限る。

 蠍は次々吹き飛んでいく。

 ロメオ君が手を出すこともない。攻撃のタイミングをずらしながら、隙を生まないようにうまく連戦している。

 言われなくてもここまでできるようになったのは大きな成果だ。それぞれ、発動までのタイミングには違いがある。それらを互いに分かっての調整だ。

 さすがにすり抜けてくる連中が増えてきた。死骸が盾となり、その隙間を抜けてくるのだ。

 抜けてきた相手はピノとリオナが狙撃する。

 僕の結界まで到達する者は今のところいない。

 死骸の山で洞窟が塞がれていく。

 こいつら、回収できる部位があるのか?

 ヘモジはちょこまかと動いて固まった死骸をぶん殴って視界を広げていく。すると待ってましたとばかりに、蠍がまたワラワラと。

「撃てーっ!」

 あっという間に殲滅した。

 三度目の波に対応したところで奴らは逃げ出した。

 オクタヴィアがリュックのなかから顔を出した。

「何かの役に立つ?」

 亡骸を見下ろしながら聞いてきた。

「うーん。毒もないみたいだし、食ってみるか?」

「いらない」

 そう言ってまたリュックのなかに消えた。

「あれ、あのままでいいんですか?」

 パスカル君が姉さんに尋ねている。 

「いや、ドラゴンを退治した後に大々的に掃除する。その前に粗方お仲間が持っていくがな。取り敢えずドラゴンが先だ」

 姉さんの後にみんな続いた。

 やはり移動距離はサラマンダーの洞窟とほぼ同じだった。

「この先はもう『魔法探知』は察知される」

 一度どこまで通用するか試したい気もするんだが。思い切り絞ったら探知されないんじゃないかな。

 一旦ここで休憩を入れた。

「あの…… 私たち自身は察知されないんですか?」

「もちろんテリトリーに入ればされるが、仮に見つかっても蠍と区別はできんだろ」

「じゃが、魔法を使えば、一発で警戒される」

 アイシャさんはスープを温めようとしていたファイアーマンの頭を鷲掴みにした。

「蠍、また来ませんかね?」

 パスカル君が尋ねた。

「そのときは装備任せの肉弾戦だな」

「ヘモジとナガレもこの先で一旦退避して貰うぞ。戦闘が始まったらまた呼んでやる」

「ナーナ」

「しょうがないわね。はい、これ」

「ん? いつぞやののぞき見水晶か?」

「変な名前付けないでよね。取り敢えず、見てるからね」

「了解」

 ふたりは食事を済ませると自主的に消えた。


 しばらく行くと、壁にマーキングがしてあった。

「さ、ここからいよいよ本番だ」

「奴のテリトリーってわけか」

 ファイアーマンが緊張をほぐそうと首を回した。

「ブレスが届くぞ。気を抜くな」

「ほんとに?」

「いるのです。でも寝てるのです」

「ここからは魔力解禁だが、その前に逃げられないように罠に嵌めないとな」

「エルネスト、囮は、ヘモジにやって貰う」

「ここって間口広くない? 入って来れちゃうんじゃないの?」

「前回の罠洞窟の反省を踏まえて大きくしたんだ。そこまでは入って来られるが、転進したり、翼を広げることはできない。尻尾も飛んでこないしな」

「首が引っかかって抜けなくなるのとどっちがいいんだろうな? 的は大きくなるけど」

「思いっきりやることだ。少々のことでは商品に傷は付かんからな。それに今回は常設の壁もある。耐火装備を万全にしていれば焼かれることはない。ただ、魔力残量は気にしろよ」

 既に炎耐性のアクセサリーで全員身を固めている。

 それから、段取りの説明。フォーメーションの確認が行なわれた。

 ただ、ここで僕とヘモジの攻撃は禁止された。『ドラゴンを殺せし者』の称号効果で簡単に結界を破壊してしまっては、本当のドラゴンの力が推し量れないからだ。

 姉さんの話を聞いて、今頃あっちで項垂れていることだろう。

「――以上。これより作戦を開始する!」


 ヘモジを召喚した。

「ナーナナー」

 いつものポージングで颯爽と現れた。かと思ったら、やはり拗ねていた。

「ナーナ」

 ガチンコでやりたい気持ちは分かるよ。ファイアードラゴンと戦ったときのお前は格好よかった。

「でも駄目」

「ナー」

 膝から崩れ落ちた。

「遊んでないで早く行け!」

 姉さんに怒られた。

 何度も振り返りながら、ヘモジはドラゴンを釣りに行った。

 そして猛烈な魔力が壁の向こうで爆発した。

 ヘモジが全速力で戻ってきた。

「ブレス来るぞ!」

 全員、常設の壁の後ろに隠れた。本日の盾当番はロメオ君と姉さんである。ロメオ君はうちのチームとピノをガードしている。姉さんはパスカル君たち学生担当だ。さすがにファイアーマンを盾にしておくのは不安だったようだ。一度ブレスで魔力がどれだけ減衰するか知っておくのもいい経験だったのだが、さすがに魔力の総量が心許ない。

 まあ、何もしない姉さんが持っているのがいいだろう。

 最初のブレスは、遠すぎたようで、余り威力のあるものではなかった。目の前の岩肌が一瞬真っ赤になったけれど。

「近付いてくるわよ」

 ナガレも戻ってきたようだ。リオナは早速召喚カードの魔力の補充をしている。

「なんか引き返そうとしてない?」

 ロメオ君が言った。

「ナーナ」

「しょうがないわね。ちょっと怒らせて来なさいよ」

 ナガレがヘモジをたきつける。

「ナーナ」

「怒らせるだけだぞ」

 ヘモジは再び跳ねていった。

 ズンッと洞窟が揺れた。ぱらぱらと小石が降ってきた。

 ヘモジは角まで戻ってくると、立ち止まって様子を見た。

「ギャアアァアアア」と空気が振動するほど強烈な雄叫びがしたかと思うと、ヘモジの立っていた場所にブレスの炎が直撃した。ヘモジを追い掛けるように炎も壁に沿って曲がってきた。

 ヘモジが僕の結界のなかに滑り込んだ。

「ナーナ」

 楽しそうである。

「来るぞ!」

 ヘモジの一撃が余程腹に据えかねたのか、今度は岩肌を削る勢いでドラゴンがやって来た。

 既に洞窟内の温度は一気に上がっているが、結界内は春の草原のように涼しかった。

 余りの大きさに、パスカル君たちは驚愕して固まった。ドラゴンのなかでも小ぶりなフェイクでさえもその大きさと威圧感は圧倒的だった。全身から煙が上がるほどドラゴンの熱はこちらを萎縮させた。

 姉さんが叫んだ!

「攻撃開始ッ! 全力でやらんと結界は抜けんぞ!」

「おーっ!」

 気合いを入れ直したようだ。

「兄ちゃん、俺もやっていいのか?」

 ピノが顔を出す。

 ついでにオクタヴィアもリュックから出てきて僕の肩に乗る。

「どんどんやれ。全弾ぶち込んでやれ」

 僕はピノに言った。

 今のピノに障壁を破るのは正直難しいかもしれない。『チャージショット』があったとしても。

 しかし、今は無理でも、打ち続ければいつか射貫くことができるようになるかもしれない。

 何より、一番年下のピノが戦う姿勢を見せることは、圧倒されて萎縮しているパスカル君たちを奮い立たせる力になる。

 わずかずつでも剥いでいけ。始めてしまった以上、ドラゴンの回復力とのチキンレースは始まっているんだ!

「リオナもやるのです!」

 ああ?

「スリング!」

 全員が口を揃えて叫んだ。今の今まで隠し持っていたのか!

「これ一個で障壁幾つ消えるか試してみるのです」

 引き絞ってビュンと鏃を放った。

 ドラゴンの顔面で炸裂した。

 風の爆発魔法だった。

 余裕をかましていたドラゴンが叫び声を上げた。火竜用の一撃だが、結構効いたようだ。

「貫通しなくてもあの衝撃はさすがにこたえたか」

 アイシャさんが言った。

 一斉に魔法が放たれた。どうやら今の一撃でパスカル君たちも目が覚めたようだ。気合いの入った一発は威力も増したようだ。

 ピノも追従した。

 どさくさに紛れてナガレも強力な一撃を放り込んだ。

「結界が剥がれた! 今だ!」

 ドラゴンは必死に抵抗して、結界を修復しようとするが、もう後戻りはできなかった。既に後方は土魔法によって塞がれていたのだ。

 削り取るこちら側の火力の方が上だった。

 ブレスを吐こうにも吐ける状態ではなかった。

 もう爆煙で何も見えなくなった。

「撃ち方やめーッ!」

 姉さんが風の魔法で煙を払った。


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