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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)68

「大丈夫だ。ただのフェイクだからな。サクッと行こう! サクッと」

 マリアベーラ様たちとチームを組んでいた頃の姉さんたちってこんな軽いノリだったんだろうなと思った。

「思いつきで生きてない?」

「何を言う、実に計画的ではないか? 後に延ばしても必ずやって来るんだぞ?」

 必須事項にしてるのあんただろ!

「おーい、みんなー」

 ガッサン君が屋上庭園の散歩路を走ってくる。

「なんだ、来ておったのか?」

 アイシャさんがいきなり突っ込んだ。

「挨拶遅れちゃって。祖父の付き添いしてたもんだから。みんなどうしたの? 通夜みたいな顔をして」

 パスカル君たちの顔を見ていった。そういや、パスカル君たちはガッサン君の後輩になるんだよな。入学時期が違うから、あんまり歳変わんないけど。

「そうだ。お前も一緒に来るか? これからドラゴン退治に行くんじゃが」

「ド、ドラゴン?」

「フェイクじゃから物足りんかもしれんが」

「行くわけないでしょ!」

「なんじゃ、意気地がないの」

「そういう問題じゃないから!」

「お前たちの後輩は行く気満々じゃぞ」

「満々じゃないですから!」

 パスカル君たちが声を揃えて言った。

「兄ちゃん、俺は?」

「お前、ドラゴンに切りかかる気か? 難易度高すぎだろ?」

「折角、装備があるのに……」

 ピノは自分のドラゴン装備を見下ろした。

「お前の剣じゃ、傷も付かないよ」

「兄ちゃんの貸して」

「駄目に決まってるだろ! 魔法剣だぞ。持っただけで卒倒するからな」

「じゃあ、後方支援で銃撃つのは? ねー、いいでしょ?」

「いいだろ。ピノは一度ドラゴンの怖さを身をもって知った方がいい」

 姉さんが言った。

 てことは、僕たちはもっと近場で恐怖体験をするのか? 誤射したとか言って遠距離から仕留めちゃえないだろうか?

「ガッサン、どうする?」

「その手には乗らないぞ」

「そうか。残念じゃな。じゃあ、お前もワームに食われるなよ」

「どういう挨拶だよ!」

 ガッサン君はサッサとアイシャさんの魔の手から逃げて行った。

「死んでも葬式には出てやらないからなーっ!」

 捨て台詞を残していったので言ってやった。

「雷、落としてやろうか?」

「やめろ、馬鹿ッ!」

 建物のなかに消えた。

「今の人は?」

 ビアンカが尋ねた。

「君たちの先輩。去年入れ替わりで卒業したんだ」

「へーっ」

「面白そうな人ですね」

「あれでミコーレの将軍の息子だからな」

「勉強熱心な子じゃったの」

「知ってるんですか、学院長?」

「実技は苦手な子じゃったが、勉強熱心な子でな。あの手の子はなかなか卒業できんもんなんじゃが、最後までしっかりやり遂げたの。性格が少し丸くなったかの?」

「アイシャさんに牙を抜かれましたからね」

「糞生意気なガキじゃったからな」

「じゃ、行くぞ」

「町に戻るの?」

「船をここに置いておくわけにはいかんだろ?」

「その前に折り詰めなのです。ナガレたちにお土産持っていかないとすねるのです」

 リオナと子供たちは一斉に建物のなかに駆けていった。


「いつもの所じゃないの?」

「新しい狩り場だと言ったろ?」

 聞いたような、聞かなかったような。

 ヘモジが無造作に折り詰めの蓋を開けた。

「どの辺?」

「いつもの場所と余り離れてはいない所だ」

「じゃあ、ナスカの近く?」

「そうだ。今まで使っていた巣穴がさすがに警戒され始めてな」

 ナガレたちが折り詰めのなかを覗き込む。

「造船のために立て続けに狩り取っていたからなぁ」

「それであちらの罠はしばらく休眠させることにして、新しいのを増設したんだ」

 チコたちがジュースを運んできた。

 双子たちが料理を小皿に取分けるのをオクタヴィアがじっと待つ。

「勝手に食べちゃ駄目なんだって。取分けてもらうの待つんだよ」とチコが留守番組に作法のレクチャーをしていた。チョビもイチゴも皿の前でじっとこらえている。変な絵面だ。

「サラマンダーいるの?」

「いない。生息域から離れているし、熱くもないからな」


 留守番組が折り詰めを食べている間に、船はスプレコーン上空に到着した。

 工房には後で移動するとして、取り敢えずドックに入港させた。

 ゲートを潜り、家に荷物を置くと、先生たちとピノ以外の子供たちを置いて、慌ただしくまたゲートに飛び込んだ。

 そしてナスカの町を経由して新しい洞窟入口の専用ゲートに出た。

 真っ暗だった。

 すぐに光の魔石が輝きだして、周囲の岩肌を照らした。魔法使いがこれだけ多いと点灯も早かった。

 いざというときのシェルターも兼ねているので、扉で封鎖された洞穴にはあらゆる障壁魔法が展開されていた。

「よし装備を整えろ」

 姉さんの合図で装備の最終チェックをする。

 初、ドラゴン装備である。忘れ物はないように念入りにチェックする。

 脱出用の転移結晶はナスカ用の物を用意する。薬と一緒に腰ベルトに付けた新品のポーチに収めた。まだ皮が固くて使いづらかった。

 僕は拳銃をピノに貸し出した。

 新装備で身体強化されてるとはいえ、重いはずのアダマンタイト製の銃を軽々扱った。手慣れた感じで弾倉のチェックをしている。

 獣人に身体強化はある意味チートだよな。

「わくわくするのです」

 当然あちらの装備も、僕と姉さんの合作の宝石を使った強化版である。ただ、ふたり揃って魔力が少ないので結界系の調整は無茶苦茶大変だった。ほとんど体力ゴリ押し装備である。素の能力の高さと相俟って、冗談抜きでドラゴンとタイマン張れそうな勢いである。もうリオナは全力で移動されると見えないからな。

 因みに僕は、転移を多用するので、魔力増加と回復重視で、ほぼ無限ループを手に入れた。近接の物理攻撃はもうヘモジに丸投げして、こっちは魔力攻撃に特化することにした。魔力を上げると結果的にヘモジも強くなるから一石二鳥である。チョビは強さが今一分からないから、なかなか実戦投入できないんだよな。

 扉を開けて、洞窟を進み始めた。

「人工の壁じゃないんだ?」

「元々あった鍾乳洞を利用してるからな」

「これだけジメジメしてるとサラマンダーも寄りつかないか」

「ああ、少しだけいるな」

 姉さんが呟いた。

「ちょっと、今何か言わなかった?」

「いや、何でもない」

「言ったのです! やっぱりサラマンダーいるのですか?」

「サラマンダーじゃないんだが・・・・・・ たまにな」

「何が?」

「蠍だ」

「どんな?」

「でかい蠍だ」

「闇蠍より?」

「でかい。しかも数が半端ない」

「なんで、いつもそんな場所に道作るんだよ!」

「巣を作った後に溜まり場にされたんだ」

「それじゃ、しょうがないのです」

「でもそのおかげでドラゴンが居着いてくれてな。今や人気物件だ」

 どこまで本気なんだか。

「大抵、入口でドラゴンの餌になってるか、焼き尽くされているはずなんだが、留守中、たまに大軍が入り込んでいたりするんだよな」

「ちょっと、それって大丈夫なの? ドラゴンの魔力探知に引っかからないように戦わなきゃいけないんだろ?」

「即死級の毒は持っていないから、普通にやれば問題ない。ただ数が笑えるほどいるがな」

 普通にやればって、ここにいる大半は魔法使いだぞ。

「まあ、開口部がある以上、何かしらの侵入者があってもおかしくないとは思うがな」

 アイシャさんが剣を抜いた。

「ドラゴンは魔法に敏感だから虫除けの魔法陣一つ仕掛けられんからな。少しぐらい仕方なかろう?」

「あれで少しか?」

 無数の反応が目の前に広がっている。

「この辺りはまだドラゴンの索敵外だ。普通にやる分には大丈夫だ。ただ索敵を広げすぎるなよ」

 うわーっ、波のように押し寄せてくる!

「全員攻撃準備!」

 パスカル君たちはナガレの指揮の下、一斉に杖を構えた。援護にロメオ君が付いた。

 ピノは銃を、リオナとアイシャさんは剣を構えた。ヘモジもミョルニルを構えた。

 僕は盾当番に専念し、姉さんは高みの見物だ。

 蠍がワラワラと洞窟の向こうから現れた。


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