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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)67

 乾杯の音頭はミコーレ側のえらい人が行なった。

「さあ、食べるぞ」

「何をお持ちいたしましょう?」

「全部! 全部食べる!」

 素直すぎる反応に緊張気味の給仕も笑みがこぼれた。

「ただいま順番にお持ちいたします」

 子供たちの前に料理が並んでいく。

 パスカル君たちは食べ方をレクチャーしながら、一緒に食べ始める。

「これは!」

「伝説の……」

「ケ・バ・ブ!」

 子供たちが大袈裟に反応した。

 まったく、こいつらは……

 見慣れた料理が出てきたせいか、急に気が楽になったようで、その分食欲が一気に増した。このテーブル専用に給仕がふたりも貼り付くことになった。

「お姉さんたちはもう食べた?」

 チコが給仕係に声を掛けた。

「わたくし共はお開きになりましたら頂きますので」

「だったら、これ残しておいてあげる。これおいしいよ」

「いえ、そのようなことは…… お心遣いありがとうございます」

 チコ、給仕まで巻き込むな。

 ほら、なんか視線浴びてるぞ。みんな。

「相変わらず、ここだけは騒がしいわね」

 マリアベーラ様だった。挨拶回りをして今このテーブルに辿り着いたのだった。

 代表して僕が立ち上がった。

「この度はおめでとうございます。心よりお喜び申し上げます」

「また、迷惑掛けたみたいね」

 余りの美しさに皆、言葉を失った。

「いえ、特に何も」

「リオナも楽しんでる?」

「おめでとうなのです」

「ありがと」

「みんなもドラゴン装備似合ってるわよ」

 爆弾を置いていった。

「ドラゴン装備?」

「あの白い装備が?」

 耳聡い者が聞きつける。

「あれはミコーレ伝統のアースドラゴンの皮と鱗で作った鎧ですよ。どうです、美しいでしょう?」

「スケイルアーマーでありながら、衝撃耐性も一級の品なんです」

 まるで仕込んでいたかのようにミコーレ側の来賓が自慢げに語る。

「トップクラスの冒険者の証ですよ」

「高いのかね?」

「ざっとこんなもんですね」

「うちのコレクションに加えてみるか」

「ちょ、ちょっと見せて貰おうかの?」

「重くはないのかね?」

「子供でも着れるほど軽いそうですよ。わたしも実物を見るのは初めてで」

 子供たちの食事が邪魔されるのも可哀相なので、僕が対応しようと思ったら肩を押さえ付けられた。

「任せておけ」

 アイシャさんとロザリアが立ち上がって、マネキンになってくれた。

 遠目で見つめるご婦人たちはまた別の意味でこちらを見つめていた。

「あの子たち可愛いわね。どこの子かしら?」

「あの子たち港にいたわよね」

「あの飛空艇はどなたの持ち物だったかしら? 一際大きな船だったけれど」

「旗はスプレコーンでしたわよ」

「ではヴァレンティーナ様の?」

「あのちっちゃな子、お人形さんみたいね」

「獣人の子というのはあんなに可愛いものなのかしら?」

「撫で撫でさせてくれないかしら?」

「みんな可愛い子ばかりね。ヴァレンティーナ様の趣味かしら?」

「あの鎧、うちの子にも着せてみようかしら?」

「わたしたちももっと近くで見せて貰いましょう」

 会場はすっかりマリアベーラ様の術中に嵌まってしまった。

 自分たちの国の鎧がもてはやされればミコーレの人たちも悪い気はしない。

 どうやってドラゴンを狩るのか、伝統の猟を語って聞かせる者たちも現れた。

「いい潤滑剤になってくれた」と、別に挨拶周りをしていたジョルジュ殿下もやって来て褒められた。

 因みにこの日だけで、ドラゴンの鎧が子供用を含めて二十着近くも売れた。最高クラスの鎧がこれほど一気に売れることはまずないことらしい。

 ふたりの新居が一回り大きな豪邸になりそうだな。

「ほお、これがミコーレの――」

 聞き慣れた声がした。

 振り向くと、リオナの装備に触れながら、話し掛けるダンディー親父の姿があった。

 リオナは「ダンディー親父」と言いかけて咄嗟に口を噤んだ。

「はい、なのです」

「動き易いかね?」

「とても軽いのです。縫製も丁寧なのです。でも実戦ではまだ使ってないのです」

 そう言いながら腕をぐるぐる回した。

「そうか。では、使った感想は又の機会にな。よく似合ってるぞ」

 そう言って頭を撫でていった。

 周りのご婦人方が羨ましそうに奇声を上げた。

 リオナは嬉しそうに撫でられた頭をさすった。

「粋なことするわね」と姉さんが言った。

 余興が始まった。

 音楽も静かなものから軽やかなものに変わった。

 そして楽しい時間はあっという間に過ぎ…… 最後の挨拶の時がきた。

 半分の男たちは酩酊していてそれどころではなかった。自分が立っているのか座っているのかさえ定かではなかった。日頃お目にかかれない高級な酒が飲めると、無理をした結果だった。

 ジョルジュ殿下とマリアベーラ様は壇上に上がった。

 来賓へのお礼と感謝の意が述べられ、二つの国の友好が永久であることを誓い、そして爆弾発言である。

 ミコーレの東地方の緑化計画が発表された。姉さんたち魔法の塔主導の一大プロジェクトである。

 酔いが一気に吹き飛んだ者たちがいた。

「土の魔石だ! 買いだ!」

 投機目的の連中が騒ぎ出した。

「ユニコーンも緑が増えたら喜ぶのです」

「ちと遠いぞ」

 アイシャさんがユニコーンが行き来するには距離があると言った。

「砂漠にはワームがいますからね。魔石の投入がガチですかね」

 ロメオ君が言った。

「結婚祝いは土の魔石がいいかな?」

「もう、祝い品はくれてやったぞ」

 姉さんが言った。

「何を?」

「以前、近衛から巻き上げた西方の回収品があったろ? 砂漠で使えそうな物を見繕って送ってやったんだ。それにあれだ」

 窓の外に真っ赤な飛空艇が浮かんでいた。

「これから新婚旅行じゃな」

 学院長が言った。

「そうなんですか?」

「ああ、あれに乗って砂漠を一周して、お前の別荘でご宿泊だ」

「ええ? そうなの?」

「あそこがセキュリティー的にも一番安全だからな。それに殿下が湖を見ておきたいと言うものでな」

「周辺の調査は終ったの?」

「湖の周囲と用水路の設置エリアは大体な。だが観察は年間を通さないと正確な答えは出せないからな」

「この間みたいなこともあるしね」

「そう言うわけだから、別荘はしばらく貸しきりだ。代金は口座に振り込んでおく」

 まあいいけどね。


 ふたりは特設の桟橋から船に乗り込んだ。

 祝砲が空に轟いた。

 それを聞いた地上の野次馬たちが一斉に歓声を上げた。

 そして護衛船を二隻引き連れて、空の彼方に消えていった。

 国王陛下たち王族は帰りはゲートで直帰なので、護衛船はいらないらしい。

「灌漑はうまくいきそう?」

「用水路を引いてそれからね。地盤から改造しないといけないから、先の長い話になるわ」

 姉さん曰く、魔法の塔の職員の金欠体質はこれでしばらく解消するらしい。人数は幾ら多くても足りないくらいで、休みの日のアルバイトにはバカンスと演習を兼ねて最高らしい。

「じゃ、行くぞ」

「どこへ?」

「ドラゴン退治だ。パスカルたちと約束していたろ? 夏休みの終わりにはドラゴンの相手をさせると」

「ええええーっ?」

 パスカル君たちは凍り付いた。

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