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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)60

「ただいまー」

 パスカル君たちと先生は兎も角、子供たちに長老、学院長が待ち構えていた。

 館の方には正規の報告が行くのでこちらですることは特にない。

 僕たちは装備を置くと、軽い食事とお茶を頼んだ。日暮れ前に食べているので空腹というわけではなかったが、一息つきたかった。

「どうじゃった?」

 全員が食堂に集まった。アイシャさんやロザリアまで起きてきた。

 そして学院長が聞いてきた。

「作戦通り、銃も鏃もすべて回収しました。屋敷にいた連中も一人残らず拘束しました」

「おおっ」

 感嘆の声が上がった。

「それで、証拠は手に入りそうかね?」

「さあ、それは僕には。セラーティ男爵という生き証人は手に入りましたけどね。学院長ご存じですか?」

「男爵か…… さすがに名鑑を見んと分からんな」

「デメトリオ殿下は知ってたみたいですよ? 久しぶりとか言ってましたけど。殿下より少し若い感じの魔法使いでした。杖も持たないくせに魔法の威力がやたら高かったですね。定型でしたけど」

「思い出した! 魔法騎士を首になった男じゃ! よからぬ薬を売って、死人を出したんじゃ。確かデメトリオ殿下の部下も戦闘中に亡くなったはずじゃ。因果関係が証明できずに証拠不十分で釈放されたが、騎士団にいられなくなって、中央を去ったはずじゃ…… 確か今は北のどこぞの領地に匿われているとか、ソルディーニ伯の……」 

 宮廷財務長官(チェンバレン)、ソルディーニ伯爵!

 北方貴族の雄、王国屈指の大貴族。国王でもおいそれとは手が出せない実力者。

 そして、何より今回の事件の首謀者最有力候補である。

「よからぬ薬と言うのは?」

 先生が尋ねた。

「確か…… 『山の老人の秘薬』とか言ったかの?」

 僕は驚いた。

 アイシャさんも目を見開いて僕の顔を見た。

 あの薬は確かに物騒な薬だが、一度の服用で死ぬような薬じゃない。抗いきれない中毒性があったらしいが、僕が飲んだのは中毒性を排除した自作の薬なので、どの様な飢餓感に襲われるものなのか見当も付かない。

 あの魔法使い、あれを常用させたのか? 

 いや、待てよ?

「セラーティ男爵はその薬を飲んだんでしょうか? あるいはまだ薬を持っているとか?」

「いや、薬物検査には引っかからなかったはずじゃ。薬も持っていなかった。持っていたら今頃この世にいないだろう」

 本当に使っていないんだろうか? 

「…… あの男爵、もしかしたら見掛け通りの人物ではないかも……」

 あの薬は『覚醒薬』。様々な探知スキルを習得、人外の域まで劇的に伸ばしてくれる薬だ。

 もし、もしもだ。あの屋敷で、状況がすべて見えていて、あえて捕まったとしたら…… いや、あれは偶発的な失敗だ。それは間違いない。

 でもあえて侵入を見逃していたとしたら?

 目的は?

 本命の逮捕に協力したということか?

 いや、そんな面倒なことをせずとも密告一つで済むだろう。

 嫌な予感がする。

「当時の状況、詳しく知っている方をご存じありませんか?」

「師団内のことじゃからの。わしの知る限りじゃ、デメトリオ殿下かの。当時、男爵を最後まで追い詰めたのは彼じゃたからな」

 一瞬、何か閃いた。

 まさか、殿下の暗殺? いや、殿下の周りにはトップクラスの隠密部隊が配されている。隙なんてない。何か別の目的があるはずだ。

 駄目だ、まとまらない。

 ここで考えていても埒が明かない。どちらにしても急いで報告しないと。こちらの想像が当たっていたら、男爵は今頃……

「出かけてきます! 朝までには帰ります」

「どちらへ?」

「実家に行ってきます。用を思い出しました」

「リオナも行くのです!」

「明日の準備をして、もう寝ないと。明日はマリアベーラ様の大事な日だ」

「リオナは出られないのです……」

 寂しそうな顔をした。まだ表舞台に出るのは時期尚早か。

 すぐに戻ると言って僕は家を出た。

 そうだ、例のアレを持ち帰ってやろう。

 町は夜も深いというのにまだ賑やかだった。祭りの余韻が漂っていた。


 僕はポータルでリバタニアのウェルカムゲートの前に出た。

 夜も更けて門は既に半分閉じられていた。

「馬を貸してください!」

 守備隊の詰め所に乗り込んだ。

「坊ちゃん!」

「坊ちゃんじゃないですか? どうしたんです? こんな夜中に」

「聞きましたよ。大活躍だったんですってね。魔法使いをふたりものしたんでしょ?」

 ひとりは勝手に気絶しただけだし、もうひとりは勝手に自滅――

「そうじゃなくって! 馬だよ、馬! 馬を貸して! 館まで急いで行きたいんだ!」

「それでしたら厩舎の馬をお好きに使ってください。その代わり隊長がお邪魔してるんで、帰りに乗って帰って貰ってください」

「分かった!」

 僕は裏手で馬を一頭借りて、館に急いだ。


 実家の警備がいつになく厳重だった。

「まかり通る!」と言って突っ込んだら、息子でも首を刎ねられそうだった。

 だから最初に僕を引き止めた兵士に向かって言った。

「デメトリオ殿下に緊急にお目通り願いたい! 急ぎだ、一刻を争う!」

「誰だ、貴様! こんな夜更け――」

 兵隊がぶん殴られた。

「どうなさいやした? 坊ちゃん?」

 知り合いの兵士だった。

「急ぎ知らせたいことがある。取り次いでくれ!」

 僕はすぐに門を通された。

「お帰りなさいませ。エルネスト様」

「オースチン! まだ家の者は起きているか?」

「はい、本日はデメトリオ殿下も滞在なされておりますので、皆様、話が弾んでるようでございます」

「そうか、皆一緒なら殿下は無事だな」

「無事とはどういうことだね? エルネスト」

「兄さん! 男爵が今どこに投獄されてるか、知らない?」

「ああ、今回捕まった主犯か? それがどうかしたのかい?」

「殿下でも守備隊長でもいいから、今どこに投獄されてるのか教えて欲しいんだ」

「あら、どうしたの?」

 母さんだ。

「まあ、エルネストちゃん。今日来るなんて聞いてないわよ、どうしたの? リオナちゃんも一緒?」

「急ぎの用件なんだ。入らせて貰うからね」

 僕は扉の前に立った兵士の間を抜けて居間に入った。

「失礼します」

 殿下も隊長も別れたばかりの僕が現れて驚いていた。

 でも一刻の猶予もないので、単刀直入に尋ねた。

「男爵に面会したいんですけど、今すぐに」

「男爵だと?」

「今すぐにですか?」

「急いで確認したいことがあります。目鼻の効く者も借りたいんですが」

「どういうことだ?」

「それは男爵と話してみないことには」

「一緒に行こう」

 殿下がそう言ってくれたので、兄と守備隊長と一緒に牢獄に向かった。

 そこは子供の頃、絶対に近づくなと言われた場所だった。

 地上三階地下三階の薄気味悪い建物の地下に通された。

「男爵は魔法が使えるので最下層に収容されたはずです……」

 牢番がひとり狭い通路に倒れていた。

「まさか!」

 僕たちは走り寄った。

「大丈夫か?」

 抱き起こすと牢番は咳き込んだ。

 よかった息がある。

 僕たちは牢番に警備を厚くするように伝言すると奥へと急いだ。

 幾つもの足音が細長い石壁の廊下に響き渡った。松明の明かりが揺らめいた。

 僕は懐中電灯を照らした。

「開いている!」

 独房の扉が一つ開いていた。

「仲間は助けなかったのか?」

「仲間じゃなかったのかも」

 独房のなかはもぬけの殻だった。代わりに別の牢番が倒れていた。

「どういうことなんだ、エルネスト?」

「坊ちゃん!」

 僕は大きく溜め息をついた。

 牢番は気絶させられていただけのようで、起こすとすぐに息を吹き返した。肌の一部が火傷していて痛そうにしていた。

 雷の魔法にやられたようだ。

 話を聞けば、独房を確認したところ男爵の姿が忽然と消えたらしい。慌てて扉の鍵を開けたら、いきなり扉越しに雷を食らったというわけだ。


「どういうことだ?」

「あの男爵、アサシンの素養もあったってことです」

「なんだと!」

「でも我々の潜入に気付いていなかったじゃないですか?」

「気付いていたとしたら?」

「なんのために!」

「それを殿下に聞きに来たんです。教えてください。彼が中央から追われることになった事件について」


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