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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)58

 魔法による急襲は避け、このまま馬車で侵入し、内側から制圧することになった。

 どこに証拠が転がっているか分からないので、なるべく原形を留める方向で行くそうだ。人数もいることだし、楽していこうということである。

 僕としては何もかも凍らせてしまうのが一番簡単だと思うのだが、書類関係が駄目になると言われて却下された。風で吹き飛ばすのも、燃やすのも当然駄目だ。土で落とし穴はどうかと思ったが、味方が落ちると困るしな。

 谷に沿って街道を行くと鬱蒼とした森に入った。しばらく行くと商家の物品倉庫のような建物が軒を連ね、その高台に宿泊所を兼ねた別荘風の屋敷がいくつも目に入った。

「この辺りは中継地で昔栄えた場所です。アルガス、リバタニアどちらに向かうにも後一日という地点で、フェミナからの物資の仕分けが行なわれておりました」

 従兄弟殿が説明してくれた。

 こんな場所があったのかと僕は感心して聞いていた。

 それらを横目に進み、町外れに差し掛かった辺りで馬車は脇道に入った。入ったところで警備兵が四人ほど屯していた。

 御者にそのまま通り過ぎるように指示を出す。顔見知りらしく、二言三言、言葉を交わして通り過ぎると、通り過ぎたところで荷台から数人が降りて四人を仕留めた。

「なるほど、生かして捕らえるわけですか」

 いつぞやの暗殺集団をやるのとはわけが違うようだ。


 殿下が指揮する本隊が正面で突撃準備をする間に、僕たちヴィオネッティーの半分は裏門から馬車で入り、御者に横柄な態度で接する見張り数人を黙らせた。

 僕とリオナと従兄弟殿と数人は裏門を通過してすぐ、荷台から飛び降り、正面ゲートを目指した。

 馬車はそのまま裏手の倉庫らしき建物に向かった。

 屋敷の連中は内側から閂を掛けているせいかすっかり安心しきっていた。急襲はないと高を括っているようだった。

 ゲートの前にふたり、彼らも酒を食らって酩酊気味だ。

 従兄弟殿の配下が背中に回り込んで軽くのした。

 周囲を警戒しながらこっそりと閂を外す。

「展開急げ! 一班、二班は上階。三班は地下を制圧しろ!」

 殿下が指揮する合同部隊が庭に雪崩れ込んできた。

 倉庫に向かった班は一足早く現場の制圧を終え、厩舎を経由して馬を解放しながら、母屋の裏手に達していた。従兄弟殿たちは正面の庭で指揮を執る殿下に合流した。

 日も暮れ、闇はこちらに味方した。

 完全に建物を包囲した後も、敵の大多数はまだ建物のなかにいた。

 馬の嘶きに気付いた数名だけが裏口から出てきて拘束された。

 各部隊は様々な場所から潜入を開始した。


 僕たちは逃げ出す奴がいないか、正面の門の前で見張りをしていた。

 索敵範囲が異様に広い僕たちが、これまた射程の長い攻撃手段を携えて脱走する連中を見張った。一人でも逃がして主犯格に報告されては困るからだ。

 作戦前の最後の宴でもしていたのだろう。ラフな格好をしたフラフラした連中が、次々逮捕され、建物の外に連れ出されていた。護送用の馬車が四台ほど門の外で待っている。

「全員乗れるかな?」

「乗れなかったら残りは歩きなのです」

 最上階で突然爆発が起こった。

 母屋の煉瓦の壁が吹き飛んで、大きな塊が地上に落下した。

 人も降ってきた。

 双方入り乱れて四、五名が爆風に煽られて庭の噴水の方まで飛んできた。

「ヘモジ!」

「ナーナ!」

 ヘモジは大きくなると、滑り込んで兵士のみをなんとか受け止めた。

 掴み損ねた連中の落下地点の風を僕は咄嗟に巻き上げた。落ちてきた連中の身体がふわりと浮いた。が落下速度が軽減しただけで、骨折は免れなかった。一人が噴水のなかに落ちた。

 とりあえず死なせずに済んだだけでよしとしよう。

「ナーナ」

 落ちてきた近衛兵は半分青ざめながら、ヘモジの手から降りてきた。九死に一生を得たからか、握りつぶされると思ったからかは知らないけれど。

 全員無事に降ろせて安心したヘモジの顔に火の球が炸裂した。

「ナーッ」

 思わずヘモジはのけ反った。

 踏ん張った足が厩舎を踏み潰した。

 盾を装備しているので無傷であったが、煙でケホケホと咳き込んだ。

「魔法使いなのです!」

 さすがに敵も後がないらしく、お抱えの魔法使いを投入してきたようである。

 ヘモジは建物を壊すと下にいる味方が危なくなるので、手をこまねいた。

 こちら側の人員は魔法を警戒して三階に登れず、下のフロアーの登り口で立ち往生していた。

「僕が相手するのが早そうだ。リオナ、ここは頼んだ」

 救出した兵士といっしょに守っていて貰おう。

「天井がなければわたしが容赦なく雷を落としてやったのに!」

「ナガレ! いつの間に?」

「呼ぶのが遅いってのよ! やることないじゃないの!」

「なんと言うか、暴れたい人たちが多いみたいでね」

「いいから、さっさとあの三下共を黙らせてきなさいよ!」

「そうしよう」

 僕はボードを取り出すと、気配を消しながら一気に三階に飛び、別のバルコニーから侵入を試みた。

 接近されたくない魔法使いは必死にヘモジを寄せ付けまいと抵抗していたがうまくいってはいなかった。ヘモジを傷付けることは叶わなかった。

 僕は魔法使いの裏に回り込むと範囲を絞って衝撃波を放った。魔法使いを大きく空いた壁の穴の向こうに吹き飛ばした。

「今度はお前が宙を舞う番だ」

 ヘモジが魔法使いを空中でキャッチした。

「うわぁああああ!」

 暴れるので落とすまいとヘモジが強めに締め付けた。

「や、やめろ…… 離せ、やめろーッ!」

 散々魔法をぶち込んだ相手が冷静であるはずがない。下等な魔物なら尚更と、握りつぶされる未来を勝手に予見して魔法使いは勝手に半狂乱になって絶叫した。そして気を失った。

 投光器の明かりに照らされるヘモジが余程怖かったらしい。

「ナー?」

 ヘモジは首を傾げた。

 そして地上で同様にビビっている近衛兵の前にゆっくりと下ろした。

「ナーナ」

 失礼なやつだって?

 確かにサイクロプスよりは男前だけどな。下からライトアップされてるからな。怖いと言えば怖いかもな。

「用は済んだし、戻りな」

 再召喚して僕の足元に呼び戻した。

「ナーナナー」

 こんなときにもポージングを忘れない。

「ナーナ」

 そうだな。まだ奥にもうひとり魔法使いが隠れている。

 が、その前にッ!

 僕の鎧の隙間目掛けて突いてくるアサシンの短剣を結界が弾いた。

 驚いた顔をしているその男の腕を僕は切り落とした。

 切断した腕が短剣を握ったまま地上に落ちた。

 逃げようとするので、雷を当ててやった。

 男はその場に倒れ込んで、動かなくなった。

 目の前の内壁がいきなりアサシン諸共吹き飛んだ。

「くそッ!」

 壁の向こうにいた魔法使いが強力な一撃を壁越しに放ったのだ。

 結構な威力だった、定型術式にしては。

 威力に比べて魔力の消費が少ないのは何か装備か、スキルのおかげか?

 一見、高そうな装備をしているように見えるが、いい石はつけていなさそうだった。魔力の総量も凡庸だし、付与効果も余り高くはなさそうだった。そうなるとスキルの線が濃厚だ。まさかユニークじゃあるまいな?

「ここのボスキャラかな?」

 煙を払おうとしたら、二撃、三撃と魔法を叩き込まれた。

 内側漆喰の煉瓦造りの壁は悉く吹き飛び、庭にいる連中の頭上に降り注いだ。右往左往する声が聞こえきた。

 天井も遂に崩落した。

 まったく、視界ゼロだ。壁も天井もなくなって風通しがよくなったとは言え、埃で前が見えなくなっていた。

 それでもこちらが見えているのだろう、敵は手を休めなかった。

 一体、何発撃ち込んだら無駄だと分かるんだ。僕の結界以前にヘモジの盾も貫通しないじゃないか。

 魔力もほぼ使い切ったようで、腰のポーチに入った回復薬に手に掛けるのが分かった。

 魔力を回復しようというのか? まさか万能薬じゃないだろうな?

 僕は衝撃波で煙を払ったついでに、薬の入った小瓶を砕いてやった。


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