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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)54

 僕はリオナにナガレを召喚させた。今日は姉さんの手伝いで別荘の湖を調べに行っていたのだが、呼び戻すことにした。

 学院長を帰したのが早すぎた。こんな爆弾情報が出るなんて思わなかったから、しょうがないけれど。この件に関しては一刻を争う。もし武器が拡散していたら、大変なことになる。

 ナンバリングによる弾数制限と更新チェックによる使用期限で万が一には備えているが、どういう経路で流れたものなのか。製造段階からだとするとセキュリティーが施されていない可能性すらある。そうなったら……


「ちょっと、何呼び出してくれてるのよ!」

 現れた。

「久しぶりに、水中散歩を楽しんでたのに」

 リオナが召喚カードを覗いた。

「減ってるのです!」

「仕事なんだからいいでしょ!」

 今散歩だって言ったろ?

「姉さんには断ってくれた?」

「黙って帰るわけにいかないでしょ。で、なんの用?」

 それなら姉さんも異変に気付いたろ。

 リオナは用件を伝えた。情報をすぐに町に持ち帰って貰って、スプレコーン経由でアルガスに働きかけて貰うか、あるいは拠点になるであろう屋敷のあるヴィオネッティー領に応援要請する……

「……」

 何かが…… 変だ。

 何かが……

 何かがおかしい。

 何かが、なぜか気に掛かる……

 そうだ!

 アルガス領にヴィオネッティー領、足がかりが多いのだ!

 ここまで来ておいてなぜ領境を越えない? なぜ途中下車するような真似をする? ここまで遠路遙々荷馬車で来ておいて、後一、二時間というところでなぜ足を止める必要がある? アルガスからここまで半日、先にある関所を通過してしまった方が、翌日の移動も容易いはずだ。関所で早朝並ばされることを思えば、昼過ぎに抜けておいた方がいいはずなのに。物騒な荷を運んでいるときは尚更だ。

 リバタニアまでは遠い。領境を越えたところで、宿を取った方がいいに決まってる。こんな目立つ場所を中継地に選ばなくとも、それらしい場所は越えた先にいくらでもある。

 生活物資だってリバタニアから運んだ方が遙かに近いし、税金だって掛からない。目の前のこの屋敷を経由する理由がどこにある? しかもアルガス領主に無理を通す危険まで冒して。

 先方の屋敷がまだ住める状態ではないのか? それにしたって前線から遠すぎる。

 待てよ……

 これって、もしかして事件の責任をアルガスとヴィオネッティーになすり付けるためか? いや、空中庭園で惨事が起きればスプレコーンも同罪だ。

 奴ら、成功しても失敗しても、南部を崩壊させるつもりなんだ! いや、だとしたらオルランドが家紋を堂々と掲げるのはおかしい。

 またか…… また蜥蜴の尻尾切りか…… 雌雄は既に決したと思っていたのに…… 王国の闇は根深すぎる。


 話を聞いたナガレは魔力の補充を済ませると飛んで帰った。


 しばらくするとナガレの案内でアイシャさんとロザリア、それと元アサシンのエキスパート、ゼンキチ爺さんが現れた。

 そしてもうしばらくするとヴァレンティーナ様が直々、学院長と一緒にやってきた。

「なんでこう忙しいときに限って、事件を起こすのかしらね?」

「忙しいときほど目が行届かないからでしょ? 僕のせいじゃありませんよ」

「まさか、新型銃の横流しとはね。絶対はないとは思ってはいたけれど、信じられないわね。二十丁、しかも四十発は多いわね……」

「他人事じゃないですよ」

「分かってるわよ! 既に調査班を工房に送ったわ」

「もしセキュリティーが掛かってない状態で拡散したら?」

「それだけはないわ。番号照合や時限制限の仕組みは鏃に施されている術式のなかに組み込まれているから、それだけを外すことはできないのよ。だから勝負は時限制限が働く期限までよ」

「でもその時限制限だって誰かが毎回解除してるわけでしょ?」

「解除コードは解除してる者にも分からないものなのよ。毎回コードが変わる仕組みだから流用もできないしね。解除するにはコードを受け取る者が公に顔を出さないといけないし。盗品の番号が分かればコード自体の発行を停止できるわ。それより、そっちの情報は確かなんでしょうね?」

「間違いない」

 オクタヴィアが真剣な眼差しでヴァレンティーナ様を見つめた。

 日頃の行いがちゃらんぽらんだからな、今一信用されないんだよな。飼い主が頷いたのでヴァレンティーナ様も信用する気になったようだ。

「間違いないのです。二十丁は既に運び込まれていると言ってたのです」

「ガードが甘いわね?」

 ヴァレンティーナ様が統制の甘さに呆れた。

「いくら執務室を消音結界で囲っても、使用人の口に戸は立てられないのです。特に癇癪持ちの工夫長を黙らせるのは難しいのです。部下に命令する度に情報がダダ漏れなのです」

「どうせ、ことが終れば口封じされる類いの連中じゃ。予算をケチるとああいうことになる」

 ゼンキチ爺さんが言った。

「使用人たちも用が済んだら……」

「そういうことになるの。あの紋章の貴族が何も知らなかったと言い張ってもあながち嘘とも言えんじゃろうがな」

「白か推定無罪か…… はっきり黒だと断定することはできないわね」

「そうなるとまずは証拠固めからじゃな」

 アイシャさんが言った。

「銃はどうするんですか? 押収しないんですか?」

「証拠が集まるまでこちらの動きは察知されたくないわね。何かいい手があればいいんだけど」



「どうだ? オクタヴィア?」

「平気、人が入れるスペースあった」

 闇のなか、幌のなかをオクタヴィアに確認させた。

「ちょっと見張っててくれな」

「分かった」

 入れ替わりに荷台によじ登り、幌のなかに姿を隠した。

 こういうとき、夜目の利く黒猫は有り難い。たまに大ぽかさえしなければ最高だ。

「どこに入ってるんだ?」

 懐中電灯で照らしながら物を探すが、どれもこれも樽だった。酒の臭いが充満していて臭いで探すのも無理そうだった。これじゃ、どの樽に入ってるのか判別できないな。

 樽の蓋じゃ開けたらばれるだろうしな……

「明かり消して! 人が来る」

「消えた方がいいか?」

「巡回してるだけ。こっちに来ないけど明かり駄目」

「分かった」

 しばらく事態が過ぎるのを待つ。


「大丈夫。もう裏手に消えた」

 中身をすり替えられるか、下調べをしていたのだが、ばれないでというのはどうやら無理なようだ。

 我が家のナンバリングの異なる四十個分の鏃と入れ替えられたら、それだけで問題解決だったのだが……

 ここにいても手はなさそうだった。

「オクタヴィア、帰るぞ」

「分かった」

 ゲートを開いて、僕たちは消えた。


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