表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
614/1072

夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)52

 手応えがなさ過ぎた。

 地下二階以降は標準的な迷宮構造であり、罠を仕掛けるタイミングも場所もほぼ同じ、完全なルーティーンになってしまって、これでは修行にならないと早々に移動することになった。

 階層攻略は先生のいない次の機会にということになった。

 学院長曰く、初級迷宮攻略組はエルーダ迷宮攻略を許可する方針にする、だそうだ。エルーダ村に直通ゲートができたことによる恩恵と言っていいだろう。

 取り敢えず今は先生だ。

 いろいろ考えたら結局、地下十四階の食人鬼フロアーになってしまった。低レベルで迷宮構造ではなく、対人戦を想定できる場所はここしかなかった。ただここは正攻法でいくと敵が多い。パスカル君たちも一度来ているフロアーなので覚えていることも多いだろう。僕たちの破天荒さだけが記憶に残っているかもしれないが……

 まず、森のなかにいる連中の相手をする。数は四。

 先生は付与装備を着ている相手を探すが首を振った。

「はずれか……」

 ファイアーマンがやるまえから落胆した。

 先方までの道の途中、手頃なところに石を埋めた。外した場合を考えて三箇所だ。

 僕ならここでオクタヴィアの使役の笛を使うところだが、それではパスカル君たちの練習にならない。ここならパスカル君たちの『魔力探知』も働くし、任せることにする。前回は一体を仕留めるのに三人全力だった。

「行くよ」

 パスカル君が魔法を放り込んだ。軽い雷攻撃だ。

 駐屯していた連中の頭上に落として、走り出した。

 一生懸命戻ってくるが追撃してくる様子がない……

「…… あれ?」

「雷は駄目だろ。麻痺してるんじゃないか?」

 僕が言うとパスカル君は自分の失敗を悟った。

 アンデットのフロアーと違い、森があるから火の魔法を使わなかったのだろうが、普通に『風の矢』でよかったんじゃないだろうか? 魔力消費を考えたら、ここで大技使う必要はないわけだし。

「ちょっと見てくる」

 オクタヴィアとヘモジが確認に向かった。


「ナーナーッ!」

 ヘモジが叫びながら森をよぎって戻ってきた。

「見つかった。見つかった!」

 オクタヴィアが息を切らせて茂みのなかから飛び出してきた。

 麻痺が解けた食人鬼の群れが後を追ってくる。

「先生!」

「ちょ、ちょっと待って!」

 第一ポイントをヘモジたちのせいでショートカット。

「先生、早くッ!」

 第二ポイントを爆破!

 最後尾が吹き飛んだだけで残りは健在、無傷で突破された。

 第三ポイント!

 ドーンッ。土煙を上げて三匹が吹き飛んだ。ぎりぎりセーフだった。

 コラ、ふたりとも! 邪魔してどうする!

 装備と魔石と第一ポイントに埋めた石の回収を行なう。

 魔石の消費量からしてこの戦法にメリットはない。

 やはりメリットを生かした攻略を。


 砦の関門に続く橋が見えてきた。巡回する兵がいる。まずあれを片付ける。

 目視での射程は大体掴めていたので、ここでは探知スキルを併用しての確認作業になる。

 巡回兵ではなく、奥にいる門番の兵士の装備の一つに付与効果があることを先生は発見した。部位はどうやら小手のようだ。

 どうせ食人鬼装備は大きすぎて着られないので遠慮なく破壊して貰った。

「やった! 破壊できたわよ」

 破壊して貰ってからフランチェスカがある疑問を抱いた。

「あれ? 付与装備って…… 宝石ですよね?」

 単純な質問だった。

 人が製作した物はそうだが、答えはどちらでもできるだ。魔力の供給元が内か外かの違いなだけだ。

 宝石は、自身で魔力は発しないので外部から供給を受けることになる。故に使役者が供給源となる。あるいはドロップ品のように魔石から供給を受ける構造になっている。

 魔石はそもそも魔力を含んでいるので、その力を使って魔法を発動させている。『魔石モドキ』を使った杖がいい例だ。なので、空になれば…… 使い捨て……

「あれ?」

 学院長が同じ説明をしている間に、ふと気になることが頭をよぎった。

 当然あれを回収した場合、ドロップアイテムになるわけで…… 宝石ということになる。と言うことは先生には破壊できないはずなのだ。が、壊すことに成功している。

 先生は宝石付与をも破壊できるということなのか? 

 先の説明で学院長は『魔石操作』での装備破壊に言及した。当然、戦争相手の付与装備もすべてとは言わないが、宝石が使われているはずだ。先生の一族のこのスキル…… 名前通りのスキルとは違うんじゃないだろうか?

 フランチェスカの疑問は至極当然のことであった。

 あるいは…… 余り考えたくはないのだけれど、あの装備の石が宝石などではなく実は魔石だったという可能性だ。

 学院長も気付いたようだ。乾燥した肌に汗がにじんでいる。


 急きょ、検証作業が始まった。

 やり方は簡単である。普通に付与を施した宝石装備を壊してみればいいのだ。僕が指輪を提供した。

 先生は破壊を試みた。

「あっ!」

 宝石に小さな亀裂が入った。

「決まりじゃな……」

 学院長は安堵した。迷宮のドロップアイテムの宝石を魔石に修正せずに済んだからだ。もしそうなっていたら、迷宮で獲れる宝石の価値は、暴落。一大センセーションを巻き起こすことになるだろう。皆が結論に達し安堵した。

 が、よくよく考えてみれば指輪の宝石もまた迷宮で手に入れたドロップ品ではないのか?

 僕は口をつぐんだ。

 市場に出回っている宝石のほとんどは迷宮から回収された物である。天然の宝石など数が知れている。ドワーフにでも頼んで用意して貰うか…… アガタなら細工師でもあるし、天然物を持っているかもしれない。

 疑念は僕の胸のなかに取り敢えず収めておいて、先生のスキルのせいにしておこう。

術式破壊(スペルブレーカー)』、世のなかにはそんな魔法も存在するのだ。知っているのは一部のハイエルフだけらしいけど、もしかするとその類いかもしれないし。


 攻略の間、僕の頭のなかは別のことで一杯だった。

 検証は大昔から行なわれ、今に至っている。宝石と魔石は似て非なる物であることは明確だ。

宝石は魔力を蓄えることはできない。そうなのだ。これは変わらぬ原則だ。

 でも、逆はどうだろう?

 魔石は宝石足り得ないのか? 付与装備の核としてみた場合、機能的に言えば宝石は魔石の劣化版とも言える。魔力を蓄えられるか、られないか。できた方がいいに決まっている。宝石は考えようによっては術式を書き込むことしかできないただの石だ。緻密な術式を施せることと、空にならないという理由だけで重宝がられているが、本来、その序列は逆だ。そもそも空にならないんじゃない。始めから空なのだ。おまけに補充できない…… 

 仮説は仮説にすぎない。疑念が消えない。先生のスキルがオプション付きなのだと思いたい。続きは天然物で試してからだ。


 先生のスキルの全容は次々解明されていった。現状、一度に破壊できるのは一個だけ。射程は探知能力が及ぶ範囲までが原則、探知スキルを使えば視界の通らない位置からでも大丈夫。ユニークスキルとリンクするようだ。

「なんで石の位置が分かるのか?」と尋ねられても「分かるから分かる」としか言い返せないようだった。

 地面に埋める以外にも、城壁の向こうに投げ入れるということも始めた。投げ入れた魔石を爆発させるのだ。

 付与破壊以外で先生のスキルでできることは大体術式を凝らせばできそうだった。その証拠にリオナはスリングでより遠くの標的を破壊して見せた。

 先生のスキルが威力を発揮するのは当初思っていたより大分限定的に思えた。この先どう化けるか分からないけれど。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ