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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)50

「それで、わたしは何をすればいいのかしら?」

「振り子列車をスプレコーンに直接乗り入れて人と物資の輸送を可能にしたい。その許可が欲しい。今は転移してからの移動だから、どうしても物資の輸送に制限が掛かってしまって。今はベッド一つ運ぶにも、一々手荷物の大きさに分解している始末でな。苦労している」

 でもそれをやると移動時間が二倍、もしかしたらそれ以上になるかもしれない。こっちのルートも残しておいて欲しいな。

「馬鹿を言わないでよ! ドラゴンが徘徊する土地なのよ!」

「この建物のような宿を作るというのはどうだ? 外に出なければ問題なかろう? 取り敢えず魔法の塔の訓練カリキュラムに入れようと思っているのだが、赤の他人を弟の別荘に泊めるというのも気が引けるのでな」

 姉さん…… ここは僕の秘密基地……

「この山の湖側の中腹にどうだ? 客室はそうだな、高級感で勝負するとして二十室ぐらいから始めるというのはどうだ? 水路の管理をするにも人手は必要だろ? 安全に泊まる所もないとな。この際、宿の主人に管理も任せるというのはどうだ?」

 姉さんの勢いは止まらなかった。ヴァレンティーナ様は勢いに負けて町への乗り入れを許可した。我が家からしかいけないとなると、それはそれでうちが困るので、仕方のないことだった。

 ただし移動経路は極秘扱い。実家方面行きの駅を延長する形で乗り入れを検討することになった。あくまでこちらは灌漑事業のオプションで、まずは湖の治水工事から始める気らしい。だがそのためには魔法の塔のバイトを集めなければならず、結局、泊まる場所を先に造ることになりそうだった。

 どちらにしても湖に栓をするところから始めなければいけない。栓をしてみて、どれくらい水が減るのか、調査しなければならない。貯水量が上がればよし、減るようならまた考えないといけない。現在水の流れている下流域の調査もしなければ、もしかして人跡未踏の人里があるやも知れない。兎に角、皇太子夫妻の結婚式までにある程度目処を立てなければ発表もままならない。「できませんでした」では逆に殿下の権威が失墜してしまう。

 言い出しっぺの姉さんは俄然、忙しくなった。

「僕の秘密基地……」

「そもそも人に頼んで用意して貰った土地で秘密も何もないだろ? 大丈夫だ。ここはこれからもプライベートなままだ。一般の出入りはないから心配するな」

 今の状況を見てそれを言われてもね…… 半分は自分のせいだけどさ。

「いっそ城でも建てれば箔が付くのではないか?」

 殿下まで笑った。

「そんなの造ってもサンダーバードとかに壊されちゃいますよ」

「秘密など疑念を生むだけよ。貴方みたいな人は持たない方が幸せよ。前にも言ったかしら?」

 ヴァレンティーナ様まで……

 姉さんに舵を取らせたのがそもそもの間違いだったんだ。パスカル君たちの修行がとんでもない事態に発展してしまった。

 発表を聞かされたパスカル君たちも、子供たちもただ呆然とするばかりだった。

「国家事業って何?」

 チコがチッタに尋ねた。

「わたしたちには関係ないことかな?」

「ふーん。もう関係しちゃってるのかと思った」

 ゴンッ! パスカル君が柱に頭をぶつけた。

 そういや、アダマンタイトシェルタートルはどうなったんだ?


「ああ、そう言えばいたな。でもこの状況ではな。そうだ! 砂浜でも作って『亀の産卵見学ツアー』っていうのはどうだ?」

「魔物の出産見守って何が面白いんだよ」

「ぜひやろう!」

 ナガレが賛成した。

『やりましょう。やりましょう』

『亀の弟が欲しかった』

 うちにはもう甲羅の硬い子はいりませんから。

「亀の背中に乗って湖一周周遊ツアーしたい」

 チコが言った。

「そうだ。ボート引かせようぜ。そしたらみんな乗れるから」

 飛空艇だけにしとけよ、ピノ。

「言っとくけど雑食だぞ? 肉だって食うんだぞ?」

「気が合うのです! 是非仲間に!」

 そう言う意味じゃなくって!


 さて、予定を前倒しにして僕たちは町に戻った。

 ほっとしたのも束の間、パスカル君たちの泊まる所がないことに気が付いた。予定ではあと三日帰らない予定だったので、まったく想定していなかったのだ。一大イベントの前とあって空いてる宿もなく、困った事態になってしまった。領主館なら客室もたくさんあるから借りられるかなと思ったが、全室塞がってると断られた。今回はマリアベーラ様の婚儀も控えているので、早めに休暇を取ってきた貴賓客が大勢いるらしい。保安上の理由で当分、僕も出入り禁止にされてしまった。用があるときは向こうから出向いてくるそうで、「門番に言伝を」と言うことだった。

 後で姉さんがやって来て、「リオナをひとり館に置いておく方がよっぽど役に立つだろうに。気位ばかり高い奴が多くて敵わん」と苦笑いした。


 中庭にキャンプを張るとか、地下室や東屋を使うとか、いろいろ手はあったが、なんだかんだ言ってもパスカル君たちも良家の子息、どれも申し訳ないということになって母屋に押し込めることに決まった。

 先生を含めて七人分の部屋は用意できないと思いきや、意外に何とかなってしまった。普段まったくと言っていいほど使わない僕の部屋を解放することで、手狭ではあるが生徒の分は間に合ってしまったのだ。

 部屋に間仕切りをして、奥を女性陣のスペースに充てた。着替えなど覗かれたくないときには鍵の掛かる書庫を使って貰うことにし、廊下へのアクセスもそちらからにして貰った。僕の寝室の扉は手前にあるので、仕切りの奥に行かずに済むのでちょうどよかった。先生には客間を使って貰うことにした。

 割を食ったのは休暇を短縮されたアンジェラさんたち使用人たちだったが「しょうがないね」の一言で済ませて貰った。

 帰って早々、ゼンキチ爺さんから伝言を預かった。なんで爺さんなんだ? と尋ねたら数日前に一緒に酒を飲み交わした御仁からだと言うことだった。容姿風体からして相手はどうやら学院長のようであった。老人たちの飲み会に紛れ込んだらしい。

 ギルド通信を使って、学院に連絡を取った。

『ヨテイヘンコウ。スデニキタク』


 その夜、僕たちが帰ってきたその日のうちに学院長が我が家を訪れた。

 ラウラ先生や生徒たちの話を目の色を白黒させながら聞いていた。

「あの子も相変わらずじゃな」

 そう言って笑った。あの子とは勿論姉さんのことだ。

「ラウラ先生のことで話があってな」

 学院長は長い髭に触れながら神妙な顔で言った。

「わしが来たのは先生の案件に目処が付いたからなんじゃが」

 ラウラ・ロッシーニ先生が只者ではないことは薄々感じていた。それでも学院長にすべてを聞くまでは彼女を優しいだけの教師ぐらいにしか見ていなかった。

 先生はユニークスキルを持っていた。

 先生のユニークスキルは『魔石操作』と言うらしい。なんと、魔石を遠隔操作できるスキルなのだそうだ。一瞬どういうスキルなのか分からなかったが、学院長の話を聞くほどに怖くなった。

 彼女のスキルは触れずして魔石を発動できるスキルで、戦場では有意義なスキルであるらしかった。敵の魔石を操ることも、破壊することもできる便利な代物であったらしい。敵の装備付与をなかったことにできて、魔法の矢の効果も、城壁の障壁すらも、中核の魔石を破壊することで打ち消すことができたらしい。実際、城壁の障壁に関してはそう簡単な話ではないのだが。

 僕のように魔法付与で装備を固めている兵士などは簡単に丸裸にできるのだそうだ。当然のことながら付与装備など付けない魔物には一切、効果がないのだが。

 それなのに、彼女の父は領主と共に魔物討伐の前線に出てしまったのである。

 領主とどういう付き合いがあったのかは別にしても、適材適所とは言いがたい登用だったと言うしかない。『魔石操作』は対人戦でこそ真価を発揮するスキルだったのだ。

 王家はそのユニークスキルに数代も前から気付いていた。彼女の父親にも一目置いていたのである。そのうちそれ相応の身分に引き上げるつもりでいたらしいのだが、温厚実直で、今の領主に恩義を感じていた彼は王家の申し出を断り続けてきたのである。だが、彼は死んだ。そしてスキルの所有権が誰に移ったのか、大慌てで調べ始めたのである。


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