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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)49

「何? どしたの?」

 景色を眺めていたパスカル君たちも驚いて振り向いた。

「このままあの湖の水を蓄えられたとしたら…… あーッ、なんでこんなときに飛空艇がないんだ! こんなときに!」

 まるで僕のようだ。

 飛空艇が修理中なことをいいことに今回のイベントを仕組んだ人間が何言ってやがる。

「エルネスト、この湖の周囲を詳しく調べてこい。水がどこから流失してるのか知りたい」

「朝飯は?」

「うるさい、早く行け! 水が捌けてしまったら分からなくなるだろ! 急げ!」

「パスカル君たちの訓練はどうする――」

「湖を泳いで渡れとでも言うのか、中止に決まってるだろ!」

 姉さんはそれから転移して、この土地を提供したマリアベーラ様をさらいにミコーレに向かった。また面倒な人を呼びに行ったもんだ。

 一方、ロザリアは町に戻り、子供たちを再招集すると共に、ヴァレンティーナ様を大急ぎで呼びに向かった。

「何をどうする気なのやら?」

 僕とロメオ君はボードに乗って右回りと左回りに別れて、湖岸に沿って飛んだ。ロメオ君の方にはオクタヴィアが同行している。

 ハーピーの襲来を警戒したが、羽根がまだ濡れて重いのか、襲撃を受けることはなかった。案外、この悪天候を見越して、遠くに退避したのかもしれない。これだけの事態になると当然餌になる獣もいなくなるわけだから。

 おかげで、なんの心配もせずに飛び回ることができた。そして、日差しが強くなる頃、ようやく湖岸を半周して、ロメオ君と合流することができた。

「お腹空いた」

 僕たちと同じように朝食を抜かれたオクタヴィアが催促してきたので、適当な場所に陣取って遅い朝食にした。

 オクタヴィアが自分のちび水筒を鞄から取り出して僕に差し出した。

 くれるのか?

「開けて」

 あ、そうですか。

 コルク栓に付けた鎖を引いても開かなかったらしい。

 開けてやると魚の形をした水筒を両手に挟んでごくごくとうまそうに飲み始めた。

 その水筒、久しぶりに見たな。

 いつもはご主人のリュックのなかに放り込んであるものだが、今回は自分の鞄に押し込んできたようだ。

 ウーヴァジュースをうまそうに飲んで、口元を手で拭った。


「演習エリアでは確か魔石使えるんだよね?」と言うことで、使ってみたら作動した。

 外で食べなくてもよかったんじゃないだろうか?

 今になって気付いた馬鹿な三人であった。


 水が溢れている場所は幾つもあったが、主に排水している場所は二つあった。どちらもロメオ君が見つけた大きな渓谷だった。湖を干上がらせているのはその二つのうちのどちらか、あるいは両方だ。どちらも砂漠とは反対側、山の峰が並ぶ山岳地帯の方にあった。リオナじゃないが、平地があるのになんでと言いたくなる。ま、あの山の向こうに海があるかもしれないし、一概には言えないのだが。

 姉さんは報告を聞いて喜んだ。想定した数より出て行く河川が少なかったかららしい。早速マッピング情報と照らし合わせている。

「あれ? 姉さんがいるってことは」

「とんでもないことになったな」

 上から下りてきたのは結婚式を半月後に控えた皇太子殿下だった。

「殿下! 何でこんな所に?」

「面白いことになっていると聞いたのでな。まさかこんな事態になっていようとはな。思わず笑ってしまったよ」

 相変わらず嫁に劣らずアクティブな人だ。

 時を同じくしてヴァレンティーナ様と子供たちも到着した。

「遅くなったかしら? 会議が押してしまったものだから」

 子供たちはリオナがいないので、僕の後ろに張り付いた。隣国の皇太子とは既に面識があるのでビビってはいないようだが、作法の類いを心配しているようだった。どうやらその手のアドバイスは普段リオナがしていたらしい。

「全員揃ったみたいね」

 姉さんは窓のある部屋に取り敢えず全員を移動させた。『百聞は一見にしかず』と勇者は言いました。

 子供たちも自分たちが使っていた部屋に荷物を下ろすと、急いで戻ってきた。

「マリアベーラ様は?」

「上でリオナたちとこれと同じ景色を見てるんじゃないか」

 と言うことは話し合いは殿下に任せたということか?

 子供たちは変わり果てた景色にあんぐり口を開いていた。

「湖になってる……」

 チコとチッタが同じ顔で目を丸くした。

「一生懸命調べたのに……」

「無駄骨だった」

 三人組もうなだれた。

 僕たちの訓練のために事前情報を必死に探ってくれていたのにな。すべてが水の底だ。

「お前たちには魔物たちの今の分布を探って貰いたい」

「今の?」

「そうだ。恐らく今後、奴らの棲息分布になるだろうからな」

 それって、この地形のまま固定すると言うことか?

「もう始めていいの?」

「なるべく早く頼みたい」

「分かった!」

 子供たちは猛烈な勢いで部屋を出て行った。

「で、何をしようというのかしら?」

 ヴァレンティーナ様が姉さんに詰め寄った。

「灌漑事業を始めようと思う」

「まさか、あそこから砂漠に水を引こうと言うの?」

「結婚式のいいサプライズになるだろ? 『銀花の紋章団』としては祝いの品が飛空艇だけというのも、インパクトに欠けるとは思わないか? どうだ? 次期国王の手腕、国外に見せつけてやらないか?」

 ずっと運に見放されてきたカップルにようやく運が向いてきたか?

「土地の権利は既にこちらにはない。既に弟君のものだ。わたしの干渉するところではないよ」

「気の早いことだな。開拓したらという条件ではなかったのか?」

「どうせ開拓するのだろ? 遅いか早いかの違いだ。ミコーレ側に開拓できる人材がいないのだから、さっさと登記して貰った方がいい。それで税金の一つでも収めて貰えれば御の字だ。既にアースドラゴンの取引で、国の資金繰りは大分助かっているからな。改めて取ろうとは思わぬが、他の誰かにくれてやる気もないのでな」

「なら話は早い。調べてみないとはっきりしたことは言えないが、うまくいけばここに巨大な溜め池ができる。標高もあるから、運河を建設すればアビークまで水を引くことができる。いや、その気になればミコーレまで」

「今のミコーレにそんな金はないぞ」

「水を売ればいい。王家の恒久的な財源になるでしょう? その代わり、こちらの税金は負けて貰うというのではどうかしら? 勿論地税だけでいいわ」

 ヴァレンティーナ様まで乗り気だ。

「それではそちらが割に合わぬのではないか? 砂漠では水の価値は金に等しいとも言うぞ?」

「金の値段で水を買う奴には未だ会ったことはないがな。これは結婚祝いだと言っただろ? ミコーレの安定した治政こそ我らの望みだ。今はあんたの懐を太らせることが肝要かと」

「元々、放置していた土地だ。こちらから断る理由はない。そちらで好きにやってくれて構わん」

「ではそのように」


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