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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい

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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)47

 仲間がまだいる!

 僕は炎を巣の奥の穴に放り込んだ。

「一旦巣から出るんだ!」

 探索をし始めていたみんなを急いで外に出した。

 熱風と炎が戻ってきて、周囲が一気に明るくなった。同時に洞窟の奥からは無数の断末魔の叫び声が響き渡った。炎を追加して風を送った。

 これから陶器でも焼こうかという温度だ。

 パスカル君たちは入口の外で周囲を見渡し、煙が上がるのを待っていた。

「外に出てる仲間はいないみたいですね」

 ロザリアが言った。

 リオナが剣を鞘に収めるのが見えた。


 炎が収まったのを見計らって、今度はなかの温度を下げるために冷気を送り込んだ。

 このまま埋めてしまってもいいのだが、なかの構造や人数を確認しておきたかった。

 僕とリオナだけがなかに入った。

 送り込んだ冷気が気化して水蒸気の霧になって舞っていた。

 風を送り霧を払いながら進んだ。文明的な物は何もなかった。ゴブリンの巣のような生活感は皆無だ。皿一枚存在しない。寝床に藁を引いた形跡もない。

 奥は広かった。僕たちがいつもキャンプで作る小屋並みの広さがあった。ただ天井が低い。

 腰が痛い。

 発見しただけでも、二十体以上の亡骸があった。と言うか元々生きてはいないのだが。いや、死してなお生きていたと言うべきか……

「結構な大所帯だな」

 真っ暗な穴は更に奥深くまで続いていた。

「引き返そう」


「涼しーッ」

 結界があるから蒸気で蒸されはしなかったが、悪臭を排除するため無風状態のなかにいた僕たちには微かな風でさえ心地よかった。

 風を起こせば、巻き上げた煤埃で全身黒くなるから我慢するしかなかった。

 それでも近場の小川で顔を洗い、腹のなかまで浄化したのだが。

 余計な手間が掛かったが、収穫は大きかった。

 やはり地下は繋がっている可能性があることが分かった。ただ、今回も余所から煙が上がることはなかった。それぞれが単独で存在するだけなのか、なかで繋がっているのかはまだ分からないが、想像以上の大所帯であることは分かった。明らかに大きな魔力溜まりが存在している。ドラゴンにも気付かれずとなると、やはり地下の可能性が高い。

「素直に出入口を潰すだけにしよう」

 探索するには地道な努力か、大規模な調査団がいる。天井の低い洞窟にさぞ苦労することだろう。

 突然、土煙が上がった。

 アイシャさんが洞窟の入り口を塞いだようだ。

 そろそろ昼時だが、この辺りでは食べたくないな…… ハーピーに戻って来られても困るし。

 あの崖の先…… 以前アースドラゴンを落とした方角だ。あっちには確か森があったはずだ。

が、進路は生憎そっちじゃない。狭い絶壁と崖の間を横切り、さらに北へと向かう。

 進行方向はほぼこのまま。当分頭上には注意が必要だ。

「あの丘の上に陣を張るぞ」

 アイシャさんが大分先の丘を指差した。

「見える範囲に食屍鬼はもういないよね?」

 ロメオ君がオクタヴィアに尋ねた。

 オクタヴィアは首を振った後に大きく頷いた。

 どっちだ?

「痒い」

 耳の裏が痒いらしい。ロメオ君だと思って甘えてるな。

 それにしても大分下りてきてしまった。元のルートに戻るのは少々面倒だ。障害物は膝丈の高山植物だけなので進行方向に向かって斜めに上がっていけばいいだけなのだが、その下の石だらけの山肌が足元を掬って、なかなか思うように進めなかった。

 既に肩で息をしている連中もいたので、休もうとも思ったが傾斜地で休んでも疲れは取れにくいだろう。今は万能薬を舐めておくように言った。

 パスカル君たちは前半溜め込んだ小瓶を大事そうにストックしていた。日に十本ずつの制約があるだけで、足りなくなればいつでも補充すると言っているのだが、遠慮して聞き入れて貰えない。

 今日も一瓶を回し飲みしている。

 魔法は使うほどに成長するという迷信、いや、観点から、本人たちは魔力の補充のためになら飲む気でいるようだが、疲労回復や、寝不足回復のために飲む気はさらさらないようである。ただ、今は遅れを出さないために渋々飲むのである。

「遠慮しないでいいのです。我が家には精霊石がまだあるのです」

 胃腸薬代わりにも利用するリオナが言った。

 精霊石の名を聞いて却って萎縮してしまった。

 精霊石と言えば、霊水の原料である。我が家にある石で教会に売っぱらった壺の量の百倍ぐらいの霊水ができるのだが、僕の極秘レシピでは必要ない物なのでいつまで経っても減らないのである。

 何が高いって、この精霊石が高いのだ。つまりそれを使わなければ値段も高が知れているということになる。

 普通なら、供給元が例え自分の師匠筋であろうとも、遠慮するのが当然で、「いいよ」と言われたからと言って、がぶ飲みすれば普通はきつーいお叱りやら、破門が待っていたりするものである。

 でもうちはそうじゃないんだと説明しようにも、カラクリをばらすわけにもいかず、どうしていいものか悩ましいのだが。

 強要するわけにもいかないし、うちのパーティーががぶ飲みするのを見て、多少金銭感覚を麻痺させて貰うしかない。


「げ、ここは」

 ようやく元のルートに戻るとそこはハーピー襲撃の現場だった。

「随分、下りてたんだね」

 ロメオ君も額を拭った。

 気合いを入れて再スタートだ。

 なだらかな傾斜を進んだ。段々足が上がらなくなって、つまずく者が現れる。

「頑張れ! もう少しだ」

 丘の上までもうあと半分だ。薬を飲んでくれるとこちらの気も楽なんだが。

 振り返れば絶景が広がっている。

 隊列が伸びてきている。早く休憩を入れないと。

 薬があるとはいえ、余裕を持って動かないと足元を掬われる。魔物はこちらの弱ったタイミングで現れるという法則もあるし。

「雲行きが怪しくなってきた」

 進行方向の空に雲が湧き始めた。風も冷たさを増した。


 丘の上に辿り着いたときには既に雨に降られていた。

 低体温症で震える者を出す前に休憩所の設置が急がれた。濡れた土で壁を築くより、丘をくり抜いて横穴を掘った方が早いのでそうすることにした。

 こっちが食屍鬼になった気分である。

 気分を払拭するために、姉さんではないが、洞穴とは思えぬほどしっかりした、天井高のある垂直な壁の部屋を幾つも作った。余った土砂で家具までこしらえた。

 外はいよいよ本降りになってきた。気温が益々下がってきていた。火の魔石をいつもより多く即席の囲炉裏に置いた。


 今日の移動はここまでになった。

 もう一度動き出しても、この天候では足場は悪いし、体力も奪われる。日が暮れるまでにちょうどいいキャンプ地が見つかるとも限らない。食屍鬼の巣なんて見つけたら、調査で移動もままならなくなる。

 切りは悪いが、ここで終了するのが最良の選択だと全会一致で決定した。

 僕は奥の部屋で紅茶を沸かしながら、香りを堪能していた。

 囲炉裏の周りはパスカル君たちで満員なので、暖を取りにこちらに集まる召喚獣たちであった。

 ナガレの周りを寒さなど気にしないチョビとイチゴがウロチョロしていた。

 オクタヴィアは囲炉裏の前で既に眠ってしまっていて、遊び相手をなくしたヘモジは僕の膝の上で、ポットが沸くのをぼーっを待っていた。

「暖まればすぐ元気になるさ」

 お茶を沸かしている間に、外の景色を眺めに出た。

 ガラリと変わっていた。厚い雲に太陽が隠れてしまって、周囲は一足早い闇に囲まれていた。打ち付ける雨に横殴りの風が混ざり始めていた。何もなかった谷間に小川が流れ始めていた。

「こりゃ、大雨になるな」

 寒くなってきたので部屋の奥に撤収した。

 このタイミングで避難できたのは運がよかった。

 僕は全員にお茶を振る舞った。


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