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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)45

 翌朝、荷物の搬入とともに指輪作りを開始した。

 そしてできあがった毒耐性だけ付いた指輪をパスカル君たちに配った。

「なんだ毒耐性だけか」とがっかりするファイアーマンに先生は耐性五割の指輪なんて国宝級だ、これが二つあれば即死級の毒にも耐えられると諭して、ファイアーマンを絶句させた。

 石を用意したのは僕だけど、姉さんのスキルももしかして上がってきているのかもしれない。

「これで闇蠍の毒で即死はなくなった。だが奴の尻尾はそれ自体が武器だ。刺しどころが悪ければ効果云々以前に即死だ。『魔力探知』を切らさず常に警戒しろ。今回の訓練はスキルの常時使用に慣れることでもある。健闘を祈る」

 勝手に祈られて僕たちは例の通路を進み始めた。

 ゴブリンの巣から出るまではパスカル君たちが先頭に立つ。

「おーっ、見える! ゴブリンが見える!」

 ファイアーマン、お前の声でこっちが見つかる方が早いと思うぞ。

 今回はショートカットなしで正面突破するようだ。先制攻撃できることの恩恵を満喫していた。

「その壁の向こうにいるよ」

「上にもいるよ」

「先に上の奴をやれないか?」

「駄目だ。道はこっちにはないよ」

「行き止まりになってるよ!」

 パスカル君が言った。

「ゴブリンも馬鹿じゃないからな。侵入ルートを塞いだんだろ」

「どうするの?」

 顔を見合わせる。

「井戸から行く?」

 井戸はまさか塞がれてはいないだろう、ということで、僕たちは洞窟の中心に向かった。


「じゃ、行くか」

「ナー」

 僕はヘモジを肩に乗せて、釣瓶のロープを伝って下へ降りる。

 中間まで行くと、足元で物音がした。

「不味い。誰か井戸を使うぞ」

 今、釣瓶の二つある桶の片方に足を突っ込み、反対側のロープを握って、落下を抑えているのは僕だ。使われたら困る。滑車ごと落ちても大丈夫なように、命綱は付けているが、滑車が動かなければばれてしまう。

 頭を覗かせたら、岩でも落としてやろうか? 駄目だ。ここで問題を起こしたら、このルートまで塞がれる。今のところは自重した方が無難だろう。ゴブリンには油断しておいて貰わないと。

 カラカラと滑車の回る音がする。釣瓶が水面に当たる音がした。

「さっさと吊り上げろよ! 無駄話してないで!」

 僕は氷で井戸の途中に足場を作ってゴブリンが仕事を終えるのを待っていた。が、一向に引き上げる様子がない。どうやら雌のゴブリンのようで井戸端会議を始めてしまった。

「有り得ないから……」

 僕は中間フロアーの井戸端を転移でやり過ごすために、飛び移れる足場を次のフロアーとの間に作った。そして命綱を外し、転移した。

 声が頭上に移った。

「よし、なんとかなった」

 でも釣瓶のロープはもう使えない。ロープの一端が、下まで落ちてしまったせいで、もう一端が遙か頭上に上がってしまっているのだ。この一本にぶら下がったが最後、馬鹿でも分かる。底まで一直線だ。

 前回同様、ヘモジに偵察に行って貰う。足場を作りながら慎重に降りて行く。

 フロアーが覗ける位置まで来ると、ヘモジは井戸端に飛び移った。

 ヘモジはすぐに頭を出した。

「ナーナ」

 誰もいないようだ。

 僕は井戸の縁に足を掛けて飛び移り、フロアーに下りると、静かにゲートを開いた。

 みんながゾロゾロと現れた。僕は上の階に敵がいるから、静かにするように身振りで知らせたが、みんなも既に『魔力探知』があるので状況は分かっているようだった。

 井戸を後にして、手薄な通路を進んだ。

 前回に比べて速やかに脱出できた。

「毎回こんな感じなんでしょうか?」

 パスカル君が聞いてきたので「たぶん今回限りだと思う」と答えておいた。さすがに毎回これでは面倒この上ない。姉さんのことだからこの遠征が終ったら、ちゃんとした出入り口を作るだろう。


 外に出れば出たでセベクの巣が待っていた。

 刺激しないように僕たちは前回とは反対方向を目指した。僕が最初のウィスプを葬った方角だ。

「まだ凍ってるな」

 爪痕がはっきり残っていた。

 凍った世界がポタポタと滴を垂らしていた。

「狼ッ!」

 リオナが叫んだ。

 向こうには戦う意思がなかったようで、すぐに姿を消した。

 こちらも大所帯だ。そうそう仕掛けては来ないだろう。


 しばらく行くと、僕たちの別荘の山が左手に見えてきた。下から見上げても大きく、鋭い稜線を持った山だった。

 見る限り、下から上がることはできそうになかった。ただしこちらから見た限りでだが。僕たちはなるべく大回りして、山の反対側を目指した。

「あの上にドラゴンがいるのよね」

 ビアンカが丘の上を怖々見上げた。

「見つかったら最後だぞ。あいつらは敏感だ。『魔力探知』を向けるなよ」

 大回りするもこちらの右手も崖っぷちである。しかも先に行くに従い丘の絶壁とこちらの崖が近付いてきている。

「死ねるかも……」

 ロメオ君が言った。

 頭上にドラゴンなんてのは止めて欲しい。と言うより兄さんなんてコース進んでんだよ。

 幸い下に降りる道が見つかった。と言ってもほぼ垂直に落ちる亀裂なのだが。

「ここを魔力を使わずに下りるの?」

「大丈夫だ。ロープは使える」

 魔法を使えば、ゲートを出してすぐの距離だ。でも頭上にはドラゴンがいる。

 突然、景色に違和感を感じた。

 何かがいる! いるとすれば闇蠍だ!

 今、全員に『魔力探知』を使わせるわけにはいかない。

「全員下がれ!」

 僕は全員を転進させた。気付いたリオナは殿の僕の隣に控えた。その時である。

 アースドラゴンが上から落ちてきたのである。

 そして闇蠍の結界諸共、鋭い爪で踏みつぶしたのである。

 嘘だろ?

 餌に気を取られている間に僕たちは必死に逃げた。そして下に降りる場所を無理矢理探した。

 ドラゴンは上に戻れず、こちらに向かってきていた。

 こうなったらやるか。

「ここから下りるぞ! 急げ!」

 アイシャさんがいつになく真剣な声で命令する。

 見るからに傾斜のきつい坂だった。

 でもこれ以上なだらかな場所はない。下はゴロゴロ大きな石が転がっている岩場で、緑の高山植物がどこまでも山肌を覆っていた。

 アイシャさんはロープを二本繋いで、側にある幹に縛り付け、崖下に投げ下ろした。

「行け!」

 ファイアーマンが盾を背負って一番に降下した。

 そしてロープを張ると、怖がる女性陣をパスカル君とアイシャさんが抱き抱えて降りて行った。

 やばい、気付かれた。

 ドラゴンは首を高く持ち上げた。そして頬袋を膨らませてこちらを威嚇した。

 この距離でブレスかよ。闇蠍をボリボリ食ったその口で今吐くなよ! 気持ち悪い!

 僕は銃を構えた。

「『魔弾』装填! 『一撃必殺』『チャージショット』」

 反応が返ってきた!

 どこを狙っても首を吹き飛ばせるぞ! こっちの勝ちだ! 吐き出したら殺すぞ!

 こちらの殺気に気付いたのか、単なる気まぐれか、鎌首を下ろすと丘の断崖に沿って離れ始めた。

 危機は去った。

「ナーナ」

 下を覗き込むと、全員ブレスに備えて崖に貼り付いていた。

 僕は手を振り危機が去ったことを知らせた。僕一人を食らっても腹の足しにならないと判断したのだろう。奴は命拾いしたな。

 僕はヘモジを肩に乗せると坂を滑り降りた。その時だ。

「ええい、次から次へと!」

 下りる途中に嫌なものを見た。

「来るぞ! 食屍鬼だ!」

 下に降り立つと僕は叫んだ。


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