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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)32

 万能薬は小瓶でひとり十本ずつ携帯している。パスカル君たちもまだ幼いので、一日の限界量を姉さんが定めていた。余裕を見ての数字だったが、このまま強い敵と連戦したら保たないだろう。弱いゴブリンが相手のうちに、フォーメーションやローテーションを確認して、やり過ごすことも覚えなくてはいけない。

 僕たちの銃を使ってもいいんだぞ、パスカル君。

 ここが未開の地であるということが、彼らに見えないプレッシャーを与えていた。


 行き止まりだと分かっていて進むのは結構つらいものがある。

 オクタヴィアにいらだちが目立ち始めていた。暗に「出口はそっちじゃないよ」と伝えるべく、無駄にくるくる回っている。リオナも行き止まりだと分かっていたが、別のことを考えているようだった。

「こんな所でお昼を食べるのはごめんなのです」

 呟きがパスカル君たちに聞こえたようで、なおさら彼らを焦らせた。

「お前たち出口がどこにあるか考えて動いているか?」

 さすがにアイシャさんも梃子入れするしかなくなった。

「それは…… 東だと」

 パスカル君は言った。

 確かに東である。でも、通路が常に東を向いているわけではないだろう? ときには逆走することもある。

「微かですが風の流れがあります」

 ビアンカが答えた。

 アイシャさんは大きな溜め息を付いた。

 僕は思わず吹き出しそうになった。さぞ損な持ち回りだと思っていることだろう。後ろに下がって我関せず、のんびりやりたいだろうに、教育係として目を光らせなければならないとは。

「お前たち、迷宮で何を学んできた?」

「迷宮では人も多いし、先陣の情報もありますから……」

 ビアンカが言葉尻をぼかした。

 初級迷宮の弊害がまた出たか。実際、探知スキルを覚える以前の僕なら同じことをしていただろう。エルーダの一階で地下へ降りる階段を探すのにどれ程彷徨ったことか。人族だったら手当たり次第に進んで、先を見つけるしかないのかも知れない。

「探知スキルは誰も持っていないのか?」

 するとシャイなダンテ君が手を上げた。

「『魔力探知』スキル持ってます」

「ええ?」

「そうなの?」

 仲間内で驚いていた。

 フランチェスカも手を上げた。

「余り使ったことないんですけど、『聴覚探知』スキルを」

 使わないってどういうことだ? 獣人たちは使いまくりだぞ。

「なぜ使わない?」

「音が大きくなるから」

 そりゃ大きくなるわな。遠くの音を聞くためのスキルで、近場の音を聞いたら、そりゃ、うるさくて仕方ないだろう。こういうのは仲間の協力が必要なんだぞ。スキルを使う間ぐらい黙っていて貰うことぐらいできるだろ?

 仲間に気兼ねして、使うくらいなら、使わない方がいいという考えか? そんなことじゃ、いつか仲間を失うぞ。

「全員お互いのスキルをチェックし直せ!」

 アイシャさんが怒った。

「ロメオ、お前ならどうする?」

「え? 僕?」

 いきなり振られて動揺している。

「僕も『魔力探知』持ちだけど、そうだな、敵の配置で洞窟の構造はある程度分かるかな。例えばこの洞窟は三層構造になっていて通路は螺旋を描いている。さっき空気が流れていると言ったけど、あれは洞窟の中央に垂直に通った換気孔兼井戸じゃないかな? たまに往復してるゴブリンの動きがそんな感じだったから」

 子供たちが目を丸くした。

「オクタヴィア、お前は?」

 オクタヴィアの尻尾がピンとなった。

「オクタヴィアは嗅覚と聴覚。スキルじゃないけど元々いい。オクタヴィアは物音聞くのが仕事。水の音、風音を聞く。匂いも嗅ぐ。さっきの爆発は予測できた。ロメオ君、正解。あっちに進むと井戸がある。水の匂いとたまに釣瓶を落とす音がする」

「リオナは?」

「リオナも音と匂いで敵の位置が大体わかるのです。ロメオ君もオクタヴィアも正解なのです。そっちは行き止まり。正解はあっちなのです」

「エルネスト」

「僕の探知スキルは『竜の目』、『魔力探知』の上位スキルで『生命探知』との混合スキルだ。アンデット以外のものは手に取るように分かる。この洞窟の外にはセベクがいる。セベクは鰐の魔物だ。出た先には水辺があるはずだ。奴らは仲間の血で集まってくる厄介な敵だ。一匹でも血を流したら大変なことになる。結界のない君たちがどこまでやれるか甚だ疑問だ。戦闘にもしなったら、僕たちの介入ということになるだろう。それと一言。スキルがないなら、ないなりに行動すべきだ。我々は君たちに完璧を求めていない。求めているのは成長だ。なのに初めて訪れた洞窟探索なのにマッピングしている奴が誰もいないというのはどういうことだ? 魔法学院の精鋭がそれでいいのか? 姉さんやアイシャさんの弟子として恥ずかしくないのか?」

 静まり返った。ゴブリンも気を使っているのか出てこない。今だけでいいから出てきて場を和ませて欲しい。

「やはり、この位置はお前がやるべきじゃな」

 アイシャさんが苦笑いした。

「やることがあるんですよ」

 僕は消音結界を張りながらアイシャさんに耳打ちした。

「なんと! コアを残して破壊しろじゃと?」

「サプライズでしょ?」

「馬鹿を言うな。そんな物、国宝級じゃぞ」

「姉さんは弟子ができて嬉しいんですよ。パスカル君たちは姉さんにとって国宝級の価値があるってことです」

「あの女、限度がないにも程がある」

「僕はどんな偽装をしてくるか、そっちの方が楽しみなんですけど」

「あから様なままでは、目立つし、盗難が絶えんじゃろうしな。エルネスト」

「分かってますよ、サプライズは全員分です」

「面倒じゃが。そなたにしかできんことでもあるしの。ええじゃろ、教師役は妾が続けよう。面倒は少ない方がいい」

 それは僕の口癖ですよ。

 子供たちの話し合いも済んだようだ。

 そして、彼らの選択は。

「盾を貸してください」

 僕は自分の盾をパスカル君に渡した。

「突き当たりまで行きます!」

 探知スキル持ちを従え、盾を持ったファイアーマンが先頭に立った。探知スキル持ちの周りをパスカル君たちが囲うように配置に付いた。マッピングは先生にさせる気らしい。手数を減らさずに済むし、先生を使ってはいけないとは誰も言ってはいない。

 マッピングのためにあえて遠回りするとはね。

「言っておくが、すべてをマッピングしていたら今日中には出られんぞ」

 アイシャさんが釘を刺す。

「そんなことしませんよ。師匠」

 ファイアーマンの顔が輝いていた。あれは何かを企んでいる顔だ。

 アイシャさんもそれが分かったのだろう。ほくそ笑んだ。

「お手並み拝見というところかの」

 パスカル君たちは落ち込むどころか、意気揚々と前進した。

 ゴブリンも敵の侵入を洞窟深部からされるとは想定していなかったのだろう、突き当たりの通路に人員を配してはいなかった。恐らくより出口に近い場所で迎撃態勢を取っていることだろう。


「着いた」

 井戸に着くと、パスカル君たちは下を覗き込んだ。

 僕も覗いてみた。下の階層の明かりが二つ見えた。懐中電灯で照らしたが底まで光は届かなかった。

「ここを下りようかと思います」

 パスカル君が説明した。

 メンバーは皆、「してやったり」と笑った。僕たちが選ぶだろう、最短距離の上を行こうというのだ。


 釣瓶にヘモジを乗せてロープをゆっくり下ろす。安全を確認すると、学院チームは降りて行った。

 僕も後に続いたが、僕以外のメンバーはその場に留まった。

 僕が最下層に着いたとき、後続がいないことにパスカル君たちは訝しんだ。同行したのは肩の上にいるオクタヴィアだけだ。

 僕はこれ見よがしに転移ゲートを開いた。

 するとそこからゾロゾロとロメオ君たちが現れた。

 子供たちは呆然としていた。

 今度はこちらがしたり顔をする番だ。

「空間転移魔法?」

 先生も愕然としていた。

「さ、次行こうか?」


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