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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)31

 翌朝、朝食の席でブリーフィングが行なわれた。

「これより、演習を行なう。目的は地図作成のための情報収集である。あくまで主役はパスカルを初めとする学院メンバーであるから、メンバーは心して掛かるように。エルネストたちは後方からサポートに徹すること。一度始まった戦闘には終了するか敗走するまで介入しないこと。上級クラスの魔物が出た場合のみ、サポートすることを許可するが、判断はアイシャに一任する。目標以外に学院メンバーには課題が二つ。実戦における索敵スキルの向上と、実戦経験を積むことである。断っておくが闇雲に戦えと言ってるのではないからな。戦闘より地図の作成を優先すること。総合評価は地図の出来栄えで決めるので、そのつもりで。質問は?」

「僕たちだけで大丈夫でしょうか?」

 パスカル君がいの一番に発言した。

「この辺りにいる敵の種類、レベルの確認は大体、昨日のうちに済んでいる。問題ないと判断した。但し、確認できたエリアのみでの話だがな」

 姉はきのう集めた資料をちらつかせた。

「当然、二日目以降のエリアは兄の情報とチッタたちがここから探って判明した情報のみで判断している。最終確認は済んでいないが、ほぼ間違いはないだろう。だがたった一度の間違いで人は命を落とすものだからな。外からの来訪者もあるやもしれん。三日目、四日目ともなれば更に正確さを失うだろう。そのための探索とも言えるが、不測の事態も大いにあり得る。『慣れた頃が一番危ない』というのは冒険者の教訓だが、まさに然りである。エルネスト、もし勝てない敵に遭遇したらどうする?」

「逃げる」

「以上だ」

「はい!」

 リオナが手を上げた。

「リオナは戦わないですか!」

「戦うかどうかはアイシャが決める。どちらにしても地図の作成があるから退屈はしないぞ」

 事実上、鼻の効くリオナが主役だ。オクタヴィアもいるけど、オクタヴィアだし。

「エルリンじゃないですか?」

「エルネストには少しやって貰うことがある」

「何するですか?」

「サプライズのための材料調達」

「よく分からないのです」

 僕にも分からない。トレントの原木のことを言っているのなら、あれはパスカル君たちも狩るわけだから多めに狩らせればいいだけで、僕がひとりでというのは……

「分かったらサプライズにならんだろ?」

「他には?」

「はい!」

 ビアンカが手を上げた。

「出口はどこですか? 下にはドラゴンがいるんですけど」

「駅のホームから別の出口まで抜ける通路がある。出口までは距離があるのでボードに乗って移動した方がいいだろう。出口はここだ」

 姉さんは地図を指した。

 思ったより下流だった。大分距離がある。

「偶然見つけた洞窟と繋がっている。だいぶ減らしたが、住人がいるので気を付けるように」

 オクタヴィアが肩に乗ってきて「ゴブリン」と一言だけ呟いた。

「昨日ご主人、話してた」

 なるほど、ゴブリンの巣か。面倒くさ。

「但し、この通路は外から入ることはできない。帰りはこれから渡すプライベート仕様の転移結晶を使って貰う。今回の遠征エリアのどこからでも戻れるだけの転移距離はあるので安心するように。危なくなったら最悪、結晶で逃げ出すこともできる。だが、その場合はやり直しだ。休みが減るぞ」

「うえーっ」と抗議の声を上げる。

「石は後で回収するので全員なくさぬように。個別認証なので先生の分は用意できなかったから、くれぐれもはぐれないように。全員『身代わりぬいぐるみ』の携帯を確認をしろ。破損がないかチェックしろ。先生の分を」

「差し上げたいのは山々なのですが、当ギルドの機密なので後ほどご返却ください」

 リボンを付けた猫のぬいぐるみをロザリアが手渡した。先生は訳も分からず、ポカンとしていた。

 質疑応答がいくつか繰り返されたが、尻つぼみになったところで打ち切られた。


 そして出立組は最下層のゲート前に集まった。

 アイシャさんを先頭に次々ゲートに飛び込んだ。いつもとは逆で、僕が殿だ。

 姉さんはピノたちの保護者として留守番である。

「がんばってねー」とチコたちは気軽に声援を送った。

「エルネスト」

 最後のひとりになったところで姉さんが僕の耳元で呟いた。

「えっ!」

 硬直した背中を押された。僕はよろめいてゲートに飛び込んだ。

 僕を外した理由はそれか!


 通路はまっすぐ伸びた洞穴だった。

 ロザリアが暗闇に明かりを灯したところだ。

 丸い断面で掘り進めた大きな土管のような通路だったが、フライングボードで飛んでも接触しないだけの高さはあった。

 全員がボードと懐中電灯を取り出して準備を進める。

 先生とボードが苦手な若干名のために、以前迷宮で使用した、『浮遊魔法陣』を使って作る簡易荷車を用意した。

 先生は興味深そうに見ていたが、荷車はパスカル君とファイアーマンにロープで引かれて動き出してしまった。ヘモジが慌てて飛び乗った。

 さすがに狭い通路では、後方から援護できない。ヘモジにはもしものときに盾になって貰わなければならない。


 突き当たりまで来ると、進路がエルーダの裏山と一緒で、一方通行の段差で区切られていた。

 ボードに乗っているので皆、そのまま飛び降りた。

 振り返って下から見上げても、そこに通路があるようには見えなかった。これなら先住民にも気付かれないだろうし、万が一にも到達されることはないだろう。ただ、壁を這いずるような魔物ならその限りではないが。姉さんのことだから何かしらセキュリティーを掛けていることだろう。

 全員ボードから降りて、徒歩に切り替えた。


「左! ゴブリン、一!」

 坑道の先、左側に分岐があった。一体のゴブリンが顔を覗かせると奥に逃げ込んだ。

「俺がやる!」

 炎の筋が通路の先に消えた。

 ドンッ! 爆発が起きた。衝撃と爆風が戻って来た。

 ヘモジは盾を発動しなかった。自分だけ後ろに飛んで、荷車の影に収まった。

 パスカル君たちは爆風をもろに浴びた。フランチェスカが結界を発動したが全員守る力はなかった。後ろにいた双子がついでに守られた程度だった。

「何やってんのよ! ファイアーマン!」

 一斉に罵声が飛んだ。

「俺じゃないよ! 何か引火するものがあったんだよ!」

 だから、気を付けろと言っているのだ。

 そこは酒の発酵蔵だった。残骸から推察するに、気化したアルコールに引火したらしい。

「手伝わなくていいの?」

 匂いを嗅いで異常を察知していたオクタヴィアが肩の上で言った。

 アイシャさんから後ろは誰も被害に遭っていなかった。

「先が思いやられるの」

「死人が出なきゃいいけどね」

 既に青ざめているのがひとり。先生である。


 暗い通路からやがて、松明で照らされた若干明るい洞窟に出た。それでも薄気味悪さは変わらなかった。

 そもそも先頭集団は出口がどこにあるのか分かっているのだろうか?

 既に曲がるべき道は通り過ぎている。

「その先は行き止まりなのです」

 リオナも呆れている。

 その内、爆発に気付いて集まってきたゴブリンたちとせめぎ合いが始まった。

 大技炸裂、ゴブリンに勝ち目はなかったが、どう見てもオーバーキルだった。恐怖心が先だって、飽和攻撃をしているのだ。

「随分魔力が余っているようだな? 無駄撃ちするのは構わんが、外に出るまで保つのか?」

 アイシャさんに突っ込まれた。全員が一斉にゴブリン数匹に全力を出していては話にならない。

 初級の迷宮で集団戦もやってるはずだが、平常心に戻るまで、魔力が残っているといいのだが。


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