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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)30

 午後も午前の続きだ。

 これを済ませなければ僕たちは遠征に出られない。だが、子供たちの目はまどろんでいた。

 外の作業は空気が薄いせいだろうか? 結界で緩和していたのだが、それでもやはりこたえているようだった。

 まあ、ステーキを大きさではなく、枚数で頼んでいる間は心配ないだろう。

 食べるだけ食べたら食堂のテーブルの上で居眠りし始めた。

 相談の結果、作業開始を一時間、遅らせることにした。起きたら万能薬の携帯も確認をさせることにした。


 その間、パスカル君たちは建物に散在する書棚に無造作に放り込んである書籍を調べ回っていた。それぞれ好きな場所で気に入った本を開いていた。ファイアーマンだけは子供たちと一緒にいびきを掻いていたが。先生も意外に丈夫だった。


 姿を見せなかった召喚獣軍団と猫一匹は最下層の池にいた。

 祠の出張所を池に設置していたのである。事前の打ち合わせがあったのか、材料は運び込まれた物資のなかに既にあった。蓮の葉のような大きな盆の上に、手のひらに載りそうなくらい小さな祠が乗っていた。

 チョビとイチゴの住処はできた。池に出入りできるように、池の内と外にスロープが付けられた。大好きな砂場も、大きなたらいに敷き詰めて、池の隣に置かれた。

 チョビとイチゴは既に砂に身を投げ出していた。

「こんな無防備な蟹の姿、見たことないよ」

 もうひとりの召喚主のロメオ君が爆笑した。何かに押し潰されたようにすべての脚を伸ばし切って、ぺしゃんこになっていた。

 心なしか部屋の空気も淀みが消えて、澄んできたような気がする。

「ナーナ」

『魔力セーブモード解除!』とヘモジがポージングした。

「終った、終った」

 オクタヴィアが身体を振って、砂を撒き散らした。

「お昼にするわよ」

 どうやらこれからご飯らしい。

 チョビとイチゴも砂のなかから這い出すと、ナガレの後に続いた。

 ナガレは寝ている子供たちを横目に、隣りのテーブルに着いた。

 セルフサービスなので誰かが調理をしなければならないのだが、台所に立てそうなのはナガレだけだ。ヘモジはサポートに。猫と蟹は大人しく料理が出てくるのを待つしかなかった。

 出てきたのは出来合いの焼魚とマッシュポテト入りの野菜サラダだ。それぞれの好物だけをチョイスしてきたようだ。ホタテもあるにはあったが、生のままだった。

 貝の状態で運ばれてきたホタテを、ナガレはどうやったのか、貝殻を砕いて取り出し、ウロや紐を外して軽く水洗いして、貝柱だけを皿に盛った。

 誰か火を通してやってはくれまいか。

 オクタヴィアが生殺しにされていた。

 仕方ない。

 料理人を用意すべきだっただろうか…… 僕は焼く以外の調理法で、頑なな貝を開ける方法を知らない。その程度の料理の腕だが、貝柱に火を通してやることぐらいはできる。ナガレは元々水生生物だからな、生が一番うまい状態だと思っているのだろう。

 なんで今回に限って貝柱ではなく、貝ごとにしたんだろう? 発注したのは誰だ? 姉さんか? 手間賃を惜しんだか?

 取り敢えず、今にも泣き出しそうなオクタヴィアをなだめに行こう。


 問題の先生は何をしているのかと思えば、やはり教え子と同様、本を手に取っていた。だがこちらは様子が違った。

 大した本は置いていないはずだが…… 食い入るように貪っていた。

 僕たちが既に目を通した蔵書で、自宅の書庫に納める価値の余りない物だ。

 姉さんの書庫から流れてきた魔法関連書籍、兄さんたちが持ち込んで置いていった趣味本など、ジャンルはバラバラだ。なかには迂闊に転売できない代物もあるのだが、それらは大体上位の本が既に書庫に収まっているケースだ。

 先生の手は震えていた。

 一方、パスカル君たちは免疫ができていて、魔法関連書籍は背表紙だけを舐めるだけだった。素通りして、絵の豊富な雑誌をめくっている。


 一時間後、作業を再開した。

 だらだらやらせる気だったのだが、方針を変更して、短期決戦で行なうことにした。

 分からないところは確認を後にして、印だけを付けていって貰った。

 そして作業開始から一時間後、子供たちと見学者を部屋に引っ込めて、建物のなかで情報の整頓をさせた。

 その間、ロメオ君と僕は蜜を探し求める蜂のように空を飛び回った。

 できればこっちの人員を増やして欲しかった。でも肝心の盾付きのボードが残っていない。

 結局遅くまで働いていたのは僕たちふたりだけだった。子供たちも何度か、ハッチを往復したが、それでも夕方にはこの日の作業は終了していた。


 夕食はまともなものが出たらしい。

 僕はひとり残業し、魔物たちの夜の営みを記録し続けた。

 夜になって動かなくなるもの、動き出すもの。明日からの遠征のためにも少し調べておきたかった。

 昼間、肉眼で確認した奴らは比較的見つけやすかった。一度接触した記憶がイメージを容易くさせるのだろう。一方、トレントはまるで分からなかった。植物系の魔物は動き出さなければ魔力は把握しづらいものだが、取り分けて難しかった。

 明日からの遠征のネックは紛れもなくトレントだ。

 恐らく姉さんは知っていて、あの頼りにならない矢印のコースを選んだのだ。記録を見る限り、一見空白に見えるエリアが、トレントの森だろう。

 探知スキルは違和感を見逃さない。

 小動物や獣たちがいなさすぎるのだ。厳しい環境にあって、寄る辺となる森があるというのに生活圏にする者がいないということがあるだろうか?

 僕はなんとかトレントを見分ける努力をした。このままでは肉眼に頼るしかなくなる。特別な匂いでも発しているなら別だが、このままではどうしても後手に回ることになる。

「ご飯なのです」

 リオナが、床のハッチから顔を覗かせた。ハッチをから這い出ると、手に持っていた紐を引き上げ始めた。紐の先にはバスケットが括り付けられていた。

「みんなもう寝たのか?」

「さっきまで暴れ回っていたのです。隠れん坊してたはずだったのに、いつの間にか追いかけっこになったです」

 相変わらず無茶苦茶だな。

「お、ハンバーグサンドだ」

「温かいお茶がいいのです」

 外気に冷やされたトーチカの岩肌は、尚のこと冷えていた。結界を施した自分の周りだけは暖かかったので、リオナは飛び込んできて、僕が座っていた木箱の横に腰を下ろした。

 そしてお茶をコップに注ぐと、物欲しそうな顔をする。

「寒いのです」

「先に飲んでいいぞ」

「貰うのです」

 ごくごくと水筒のお茶を飲み干した。

 あんまり熱そうじゃないな。

「暖まるのです」

 匂いが漂ってきた。ゼンゼロ、生姜だ。

 僕も貰った。ハンバーグサンドには合わなかったが、身体の内側から火照りだした。生姜茶は姉さんの味付けだ。

「明日からの遠足に持っていくのです」

 遠足って…… 

「リオナはトレントがどこにいるか分かるか?」

「トレント?」

 リオナが下界を覗いた。

「リオナの母様は焚火をしたのです。するとそわそわし出すから、すぐわかるのです」

「…… ほんとに?」

「母様はそう言っていたのです」

「明日、試してみるですか?」

「勿論だ。それで分かるなら面白い」


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