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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(パスカル君と夏休み)29

 僕は結界で周囲を覆い、空気の流れを一旦遮断した。地図に書き込む作業をするというのにこの風では何もできない。風を遮る場所をまず作らなければいけない。だが、匂いは大事な要素なので完全に塞ぐわけにもいかない。

 そこで取った方法は「吹き抜けるからいけないんだ」と言うことで、片側の開口部をすべて一旦塞いだのである。

 相変わらず風は入ってきたが、暴力的な風は収まった。開口部を小さくし、衝立になる壁を作り、流れを誘導し、穴蔵の中央にほぼ無風の空間を作ることに成功した。なんとか作業ができる環境になった。

「はあ、凄い景色だな」

 パスカル君が窓越しではない景色を直に見て、溜め息を漏らした。

「この景色が見られただけでも来てよかったわね」とビアンカが双子と感動を分かち合った。ファイアーマンは感極まって叫んでいる。

 それを見たピノたちも真似して大声で叫んだ。

 木霊が帰ってきた。

「ここ、未開の地だからな」

 一応釘を刺しておいた。

 大人しくなったところで作業開始である。まずは兄の作った地図の整合性を調べることから始まった。子供たちの手によって兄の作った地図にどんどん書き込みがされていった。

 まず魔物の名前に丸印が施されていった。子供たちが嗅ぎ分けた情報と一致した印だ。

「この匂いは分かんない」

 そう言われたときは僕とロメオ君の出番である。具体的な位置を指し示して貰って、ボードで飛んで行き、目視で匂いの元を探るのである。あとは『魔獣図鑑』と兄の情報を照らし合わせて、書き込みを加えるだけだ。

 職業柄と言うべきか、兄の情報は呆れる程正確だった。本人の性格にそぐわない完璧さだった。やっぱり女隊長さんのしつけの賜物か。

 見える範囲の魔物の分布の確認は思いの外早く終りそうだった。但し、これは昼間の分だ。夜には夜の生態がある。

 一方、白地図の地形観測班は苦労していた。やはり風がネックになっていた。正確な距離が計れないでいるらしい。人族的には完璧に見える出来でも、子供たちには「かあちゃんに笑われる」レベルなのだそうだ。こちらは僕たちが演習でいない間も進めて貰うことになるだろう。

 天候次第だが、山の天気は変わりやすいから、ちょうどいいタイミングにも出くわすだろう。

 取り敢えず、正確な位置決めは置いておいて、子供たちは書き込めるだけの情報を別紙に書き込んでいった。

 光が上がった。

 姉さんの合図である。子供たちが一斉に注視する。同じ場所から二発目が空に上がると、別の場所から三発目が上がった。あちらはアイシャさんだ。

「確認しました!」

 チコが叫んだ。

 僕はロザリアに合図するとロザリアは確認した旨を伝える信号を空に上げた。

「今のは?」

「ギルドの地図作成の規格では、一区画の辺は一日の徒歩での移動距離、約三万メルテを示してるんだ。今、打ち上げられた光点は姉さんが事前に測量で計らせた正確な距離だと思う。これで子供たちは正確な縮尺を手に入れたわけだ」

 地図上に長い一本線が記された。後の仕事はこの縮尺、基準線を目安に進めれられることになる。

 今回は実質八日分の行程だから、最大クリアーしても八区画がいいところだ。四方八方手を尽くさなければならないから、実際はその半分がいいところだろう。姉さんのあやふやな矢印もほぼそのくらいの範囲しか網羅していない。

 ここから見える範囲は、既に兄の調査範囲を超えているので、子供たちの導き出した結果が今度は次回調査の事前情報になるのである。

「未開の地ではすべての測量をするわけにはいかないからですか?」

「いずれはやらないといけないけど。今のところは冒険者が歩き回れればそれでいいんだよ」

 昼前に、結構な仕事量をこなした。

「これでいくらぐらいになるんですか?」

 忘れていた。女教師がいたんだった。

 僕はメモ紙の枚数を大体確認する。最終的には確定が約八枚。予測は三日先ぐらいまでいけそうだから…… あわせて三十区画ぐらいかな? てことは一区画、金貨一枚だから。

「金貨三十枚ぐらいですね」

「えー、そんなに!」

「それっぽっちー?」

 先生とチコの声が交錯した。

 パスカル君たちと獣人の子供たちの間で情報の齟齬が出た。互いに沈黙した。

「一人頭に換算したら安いわな」

 こんな物騒なところに来て金貨二、三枚では割が合わない。明日の遠征が始まれば皆そう思うに違いない。

 午前の仕事は終わりだ。僕たちは下に降りて、食事にすることにした。


 食事の準備ができるまで、残っていた荷物の整理を済ませていると姉さんが入ってきた。そして、例の手紙を僕の前に置いた。

 読めということらしいので、手に取った。

 封蝋が学院長の物かどうか僕には分からなかったし、文末の達筆すぎるサインが学院長のものであるのかどうか知る由もなかった。内容だけが頼りであるが、読み進めるうちに、ラウラ・ロッシーニ先生に対する印象を変えざるを得なくなった。彼女は、僕たちに出会わなかったパスカル君だった。

 彼女の家系は貴族でこそなかったが、優秀な魔法使いの一族として、代々とある領主に仕えていたらしかった。だが、その領主と一緒に西方遠征に放り込まれた父親は、帰らぬ人になってしまったのである。

 借金もかなりあったようで、地元に戻り、幼い弟妹たちを養わねばならず、教師を辞する決意をしていたところを学院長が引き止めたのである。

「薬屋にでもなるつもりだったのかな?」

「薬材を卸してくれる伝手があって、競合相手がいなければ儲かっただろうな」

 彼女の見窄らしい姿は俗世と乖離していたからではなく、根を詰めすぎていたせいだったらしい。

「パスカル君たちがやけに庇うと思ったら……」

「邪険にせず、気に掛けてやってくれ。ここに来させたのも何か学院長の思惑があるのだろう」

「何かって何? 取り敢えず一攫千金?」

 姉さんが溜め息を付いた。

「子供たちもいるんだ、やり過ぎるなよ」

 でも、金じゃないんだろうな。あるに越したことはないだろうけど、魔法使いの私財ならそれなりの値段で売れるはずだからな。

 食事の合図で僕たちは部屋を出た。

 

 いつどこで見ても、食事する風景は変わらなかった。

 いきなりドラゴンステーキか……

 子供たちはがっつき、先生はひとり唖然としていた。

 

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