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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第三章 ユニコーン・シティー
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コロコロりん3

 翌日、僕とリオナは昨日と同じ狩り場を目指した。

 今日も空は高く青かった。

 木漏れ日とそよぐ風がほどよく心地よかった。

「ここ、きのうも見たです」

 同じ道だからね。

 前回と違い、ゴールがわかっているせいか、リオナはピクニック気分だった。大手を振って鼻歌を歌っている。その分僕は警戒に余念がない。

 太陽が天頂にさしかかる頃、峠の見晴らしのいい場所で弁当を開いた。

「おおっ、腸詰めです」

「サンドイッチだ。うまそうだ」

 のどかな昼下がりだった。

 僕たちは一休みすると尾根を下り、昨日と同様に洞窟を通過した。開けた先には昨日と変わらぬ青々とした草原が広がっていた。

 コロコロと黒毛が何事もなかったように草を食んでいた。

 僕たちは彼らが遠巻きに逃げるに任せて、周囲の調査に入った。

 壁と崖に覆われた閉鎖空間。そこは豚たちの安住の地である。絶壁には浅い洞穴がいくつもありそこが彼らの家になっていた。

「この穴も小さい」

 コロコロが行き来できる穴はなかなか見つからなかった。

 どこからやって来たんだ。

 茂みや蔦を剣で払いながら岩壁を確認していく。

 風が頬を撫でた。

 おや?

 僕は渓谷から吹き込む風がどこに抜けるのか追いかけた。

 すると絶壁に亀裂が入った場所に辿り着いた。

 地層がずれていた。壁が横滑りを起こして沈んだか盛り上がった証拠だ。

 茂みを掻き分けさらに奥に進んでいった。

 石や岩が散乱していた。

 切り口がまだ新しい……

 土砂の堆積はまだ最近だ。

 僕はさらに奥へと進んだ。

 茂みが深すぎるのでリオナは木に登った。

「あった……」

 目の前にコロコロが通ることができるほどの大きな落盤跡が現れた。

 押し流された土砂はどうやら崖下に流れ落ちたようだ。

「雨の影響か?」

 コロコロたちはこの傾斜を利用して山から降りてきたのだろう。

「迷宮じゃなかったのか」

 突然寒気が走った。

「魔物ですッ!」

『魔力探知』が魔力の急激な高まりを感知した。

 リオナが銃をぶっ放した。

 僕は茂みを抜け出そうと来た道を逆走した。

 魔物の位置は着弾の様子で大体分かった。こっちを狙ってる!

 僕は氷の壁を後方に展開した。そのとき目の前に突然コロコロが!

 僕はコロコロに激突しながらも方向を変えた。

 ブヒィィイイイイ、コロコロが断末魔の叫びを上げた。

 氷の壁を突き破り、黒くて鋭く尖った大木のような足がコロコロの腹を貫いていた。コロコロは眼中にないのか、長い足を振り払いコロコロを崖下に振り落とした。

「なんだこいつ……」

 茂みが邪魔で全体が見えなかった。巨大な脚だけが追いかけてくる。

『? レベル五十、オス』

 レベル五十?

「リオナ、脱出だッ!」

 僕の声は届いたようだった。リオナはすぐさま結晶を握りしめ、こちらの援護に残弾をはき出すと光と共に消えた。

 僕も『完全なる断絶(偽)』を発動しながら、転移結晶を握った。

 結界を貫こうと黒く尖った鋭い脚が僕を襲った。

 僕は障壁ごと宙に押し出された。

 足元に谷底が見えた。

 が、転移魔法が発動して僕はその場から消えた。


 中庭のゲートに飛び出したとき、僕は勢い余って地面にけつまずき、前のめりになって転がった。

 危うくリオナを巻き込むところだった。

「いてててェ」

 僕は泥を払いながらのっそり起き上がった。

 僕は息も絶え絶え、リオナが持ってきた水を飲み干して、呼吸を整えた。リオナは興奮冷めやらぬ様子で頬を赤く染めていた。

「緊急事態なのです」

 リオナが扉から飛び込んできた実姉に発した第一声はそれだった。



「たぶん、足長大蜘蛛(ロングレッグスパイダー)ね」

 それだけ言うと、ヴァレンティーナ様は大きな溜め息をついた。

「逃げ切れただけで大手柄よ、ふたりとも」

 あと少し躊躇してたら、谷底真っ逆さまだった。

「調査書に必要事項を記入してギルドに提出したらこの件からは手を引きなさい。Sランクを盾にしてくるようなら、正当な対価で私たちが引き受けます」

 あんな化け物相手にやりたくても何もできないよ。逃げるのに精一杯で姿も満足に見られなかった。

 その後、ヴァレンティーナ様の手解きの下、必要事項を認め、地図をあーでもないこーでもないとリオナと確認しながら制作、ギルドに提出した。

 ギルドもレベル五十の足長大蜘蛛出現の報告には驚いたようで、高レベルの調査隊を再度派遣することを即決した。


 後日、聞いた話によると、足長大蜘蛛の死骸が一匹だけ谷底で発見されたという。他に仲間は存在せず、懸念されていた高レベル迷宮の存在も否定された。コロコロの進入ルートは僕たちが見つけた落盤跡で間違いないらしく、足長大蜘蛛もそこからやって来たと推察された。

 ギルドはほっと胸を撫で下ろした。

 でも僕には疑問が残った。

「なんで、気付かなかったんでしょう? リオナも僕もあれほど警戒しながら進んだのに…… 急激に魔力が増加するなんてことあるんですか? というより、あれだけの魔力の放出を事前の探査で見落とすことなんてあるんでしょうか?」

「リオナも気付かなかったです。茂みが揺れるまで気付かなかったです」

「本当に迷宮の入り口はなかったのでしょうか?」

 エミリーが言った。 

「調査したのはこの町の上級ギルドよ。そんなミスしないわ」

 アンジェラさんも頭を抱えてしまった。

「どうすれば?」

「ギルドに再調査願い。駄目なら」

「駄目なら?」

「行くしかないでしょ」

「また行くですか?」

「ピクニックが早まっちゃうかしらね」


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