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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(チョビ、賢くなりました)20

「やり過ぎだよ……」

 チョビは強かった。いや、強すぎた。まるで人形をお手玉する勢いでジュエルゴーレムを粉砕した。ゴーレムの重いパンチもチョビの盾のような大きな鋏の前には無力だった。そして、反撃の一撃は容易くゴーレムの頭を吹き飛ばした。

 急所が頭ならまだいい。頭の分の報酬が減るだけだ。だが核が身体の中心にあろうものなら、バラバラ死体である。

 さすがに収穫が半減するとは想定していなかった。

 ま、無礼講と言ったのはこっちだし。最近は荷物運びしかさせてなかったからな。

 無茶苦茶早く狩りが終ってしまった。

 後は戻るだけだし、チョビを解放しようとしたらなぜか嫌がった。

「小さくなる?」

 チョビは無表情だったが、頷いた気がした。

 僕は出口の螺旋階段を降りられるぐらいの大きさに再召喚してやった。転移ゲートが螺旋階段の先にあって、でかいままでは通り抜けられないからだが。

 チョビは僕を無視して猛烈な勢いで螺旋階段を降りていった。

「ああ、コラッ!」

 僕は慌てて追い掛けた。その大きさで敵に絡むなよと思いながら。

 チョビが向かった先は、中庭の池だった。チョビは桟橋から躊躇することなく水面に飛び込んだ。

「うわああ、飛び込んだ! 大丈夫か、チョビ?」

 土蟹ってずっと水のなかでも溺れないのか? 土左衛門になって浮いてくるなよ。夢に見るから。

 僕は水面をじっと見つめた。

 反応がないので、チョビの召喚カードを取り出してにらめっこした。

 しばらくすると明後日の方角から上陸してきた。砂浜の砂で砂だらけになりながらトコトコと戻って来た。

 鋏に何やら丸い物体を挟んでいた。

 あれは水晶? 確かナガレが祠を建てるときもリオナと似たような物を取りに行っていたような……

 丸い水晶玉を岸に置くと僕に何かを訴えるような視線を向けた。

「もしかして、再召喚して欲しいの?」

 表情の変わらない顔をじっと見つめた。

 どうやらそうらしい。なんとなくやりたいことが伝わってきた。

 チョビはあの水晶を飲み込みたいらしい。

 僕は理由も聞かず、言われるまま水晶を飲み込めるぐらいの大きさに再召喚してやった。

 身体に貼り付いていた砂もきれいに取れて、きれいになった。

 チョビは水晶を池の水で洗うとパクリと飲み込んだ。

『マズ……』

 え?

『あー、あー、聞こえますか、ご主人。こちらはチョビ。知恵の実を食べて少し賢くなりました。聞こえていたら逆立ちしてみてください』

「できるか!」

『聞こえたッ! すっごーい! 言葉通じた! チョビ、賢くなった』

「そうみたいだな」

『も一個取ってくる』

「え?」

 呆れる暇もなく、再び池に飛び込んでいった。

 またしばらくして、水晶を一つ持って戻って来た。

『これはイチゴちゃんの分。ご主人、イチゴちゃんは?』

「イチゴはロメオ君の召喚獣だからここにはいないよ」

『ひどい! 姉妹を引き裂くつもりですか!』

「姉妹なのか?」

『違いますけど』

 な、なんなんだよ? ほんとにチョビ? お前そういう性格だったの?

『ご主人、お願いがあります』

「何? イチゴに会いに行きたい?」

『その前にミートパイが食べたいです。みんな食べてるのにチョビだけ食べさせて貰えませんでした』

「気にしてないと思ってたぞ」

『チョビは賢くなって、欲を覚えました』

「そうですか」

『あ、これ持ってってください。鋏だと落としそうなので』

 水晶を僕の前に差し出した。


『ほいひい!』

 チョビはミートパイを頬張った。

 正直、料理人が折角丹精込めて作ってくれた物を蟹に食わせるなんて、自分でもひどい客だなと理解していた。だが、チョビが頑として店内で食べると聞かなかったのだ。

『わたしだって仲間なのにー。あのテーブルに一緒に座りたい!』と駄々をこねた。

 知恵を付けた蟹に、「お前は人前では食うな」と言うのもひどい話であるし、この際、僕が泥を被るべきだと考えた。でもそうなると出入り禁止の可能性も……

 しょうがないので店の店員に自分で注文しろと言ってやった。こうなったら丸投げだ。一蓮托生だ。

 驚いたのは店員だった。

 しかし僕の場合、前例があったのであっさり認められてしまった。まあ、猫が食ってるんだから、蟹が食べたところで諦めが付くのだろう。

 わざわざ店長が確認しに来た。

「いつもの蟹だろ? チーズを運んでくれる」

「なんか、知恵が付いちゃったみたいで」

 僕は頭を掻くしかなかった。

『このミートパイ、美味しいです。店長さん』

 多分そんなことを言ったようだ。店長の顔がほころんだ。

「お、おう。いつも重い物運んで貰ってサンキューな」

『はー、ご主人、褒めて貰いましたよ。チョビは嬉しいです。お代わりいいですか?』

「好きにして……」

『やった! お代わり、お願いします』

「お前さんも大変だな」

 同情されてしまった。



 スプレコーンに戻ると自宅ではなく、北門のゲートに出た。チョビは小さくなって僕の肩に乗っていた。

『見晴らしがいいものですね。いつもヘモジ先輩とオクタヴィア先輩がここにいる理由が分かります。これからはチョビもお世話になりますよ』

 なんか、どれか落っことしそうだな。

「お前の方がでかくなれるだろ?」

『あれ、足元が結構見えないんですよね。今日みたいに手頃なサイズにして頂けると戦い易いんですよね、実は』

 意外な盲点だった。というより、土蟹を敵に回すときは懐に入るんだから、然もありなんだ。

 やたらと口数の多いチョビの無駄話を聞きながら街道をのんびり、中央広場に向かって歩いていると、突然チョビが僕を制止させた。

『ご主人! あれを所望いたします!』

「どれ?」

『あれです。ブッロパタータです』

 じゃがバター?

「お前、あれ食うの?」

『はい。以前ナガレ様に食べさせて頂きました。余りの美味しさに、わたし一生、食事はあれでよいという気になりました』

「じゃあ、イチゴの分も買っていくか」

『はい。ご主人、太っ腹です。イチゴちゃんも喜びます』

 なんだか違う意味に聞こえるよ。

 僕はじゃがバター売りからロメオ君の分も含めて四つ購入した。


 ギルド事務所を覗くと、ロメオ君が暇して事務の机で欠伸していた。

「いらっしゃい。エルネストさん」

「今、忙しい?」

「欠伸する程」

 お母さんに断って、カウンターの内と外を隔てる扉から出てきた。

 僕の肩の上の物体に目がいった。

「今日はチョビだけ?」

「みんな、リオナたちと出かけたよ」

 僕は談話スペースの隅の席に陣取った。

 そして知恵の実とかいう水晶をリュックから取り出した。

「実は――」

「え?」

 話しかけようとしたら、ロメオ君が急に胸ポケットに手を入れた。

「イチゴが出たがってるみたいだ」

「あっ、それじゃ、これを丸呑みできるぐらいの大きさで」

 僕は咄嗟に注文を付けた。

 理由は聞かずにロメオ君は僕の言葉に従った。

 二匹目の陸王蟹が登場した。

「こら、他の客に迷惑だ!」

 客などいないのに過去のトラウマがおっさんに大声を出させた。

「すぐ終るんで」

 念話というのは基本的に話し掛けた相手にしか通じない。ユニコーンのように念話をコミュニケーション手段として利用している者同士ならそうでもないようだが。人である僕にもロメオ君にも、二匹の蟹の間で交わされている話の内容は分からなかった。

『さ、イチゴちゃん、あんたもこれ飲んで』なんて言いながら、チョビは水晶をイチゴの前に置いた。イチゴは大きな鋏で水晶を挟んだ。そしてロメオ君の前に差し出した。

「え!」

 チョビに話し掛けられたのだろう、目を丸くして僕を見た。

「まあ、そう言うことなんだけどね」

 もう笑うしかない。

「水晶を洗って欲しいって……」

「浄化してやれば?」

 ロメオ君は水晶を浄化した。

 するとイチゴはチョビのときと同様、飴玉を舐めるかのように口に放り込んだ。

 どうやら再召喚するようだ。

 ロメオ君がテーブルの上のチョビのサイズと同じ大きさのイチゴを召喚した。

 ふたりは抱き合った。端から見ると大きな鋏で殴り合っているようだった。

「通訳が欲しい」

 残念ながらナガレもオクタヴィアもいなかった。

『初めまして、チョビちゃんのご主人様。よろしくお願いいたします。イチゴです』

 イチゴは礼儀正しい大人しい子だった。でも「初めまして」じゃないんだけどね。

 チョビも改めてロメオ君に挨拶しているようだが、ロメオ君の顔が引きつってる。

 断片的に入ってくる会話を総合すると「早くじゃがバターを食べよう」だそうだ。

 喫茶コーナーでジュースを購入して、じゃがバターをみんなで食べた。


 

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