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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい19

 迷宮を脱出すると食堂に向かった。

 僕は勝手知りたる勝手口に回って、チョビを召喚、その背中にホールチーズを積み上げていった。使用人が出てきて、食糧倉庫の鍵を開けると、僕はチョビを入口に待たせて、チーズ用の棚にチーズを並べていった。

 しばらくしてリオナたちが美味しそうな匂いをさせながら勝手口にやって来た。五十人分のミートパイを小分けにした袋をみんなで分担してぶら下げている。

 僕は戸口にぶら下げてある伝票に必要事項を記入して、使用人からお金を受け取った。

「毎度あり。またよろしく」

 リオナたちはチョビを見てすぐさま背中に荷物を載せた。

 背中に載せずとも転移すればそこはもう我が家だろうに。チョビはいい迷惑である。いや、軽やかなステップを見る限り、スキンシップが嬉しそうにも見える。

「背中にバランスよく載せて欲しいだけよ」とナガレに言われた。 

 僕たちはエルーダを後にした。


 帰宅すると子供軍団が待ち受けていた。

「百人分、買えなかったので遠慮するのです」

 リオナがまず牽制した。

 そして手荷物がすべて厨房に消えた。

「わたしの荷物」

 ナガレが僕を見た。

「ああ、そうだった」

 忘れるところだった。

 僕たちは地下に下りると、物品用の倉庫部屋の前で羊毛を取り出した。

 ナガレが目を丸くした。

「今日の子守りの礼だ」

 ざっと見てナガレの手荷物の五倍はあるはずだ。

 ナガレは素直に礼を言うと、ここではなく厩舎まで運んでくれるように頼んできた。


 僕は羊毛を一旦、腹に収めると馬車の荷台に荷物を移した。

 羊の金鎚を武器庫から持ち出すと、ナガレは羊毛を金色に染めていった。

 あっという間に荷台一杯分の金の羊毛ができあがった。

 商会に届けると言うので、だったらミスリルもということになって、僕が行くことになった。

 夕暮れ時、人波もまだあるなか、ゆっくりと馬車を進めた。中央広場を過ぎて、更に西に向かう。

『ビアンコ商会』の倉庫前には明朝、出立する馬車の群れが整然と並んでいた。すべての幌に商会のエンブレムが記されていた。盗賊対策用の重装甲の馬車もあった。これだけの馬車を動かすとなると警護の人手だけでも膨大だ。

 門の警備が馬車を止めた。僕は御者台を降りると事務所に顔を出した。マギーさんも棟梁もいなかったが、顔見知りの職員がいたので、ナガレと僕の用件を頼んだ。

 僕はまず羊毛を降ろすために繊維関係の倉庫に直接案内された。僕はそこで積み荷の羊毛をすべて下ろした。

 あまりの量に職員たちも目を丸くしていた。

 世の中には希少価値を謳った品がある。金の糸もその一つだ。目の前にそれを無視した光景が広がっていた。ナガレが何を企んでいるのかは知らないけれど、とりあえず言われた通りに交渉を済ませた。

 荷台に裸のまま山積みにされている大量のミスリルの塊を見て、繊維部門の職員は二度、絶句する。飛空艇の工房ではもはや当たり前の光景になりつつあったのだが、部署が変わればこんなものである。

 僕は工房に向かった。

 工房横の仮ドックに二隻の船が並んでいた。結婚式で飛ぶ予定のミコーレ皇太子夫妻の船と我が領主様の真っ赤な船が厳重にカバーを掛けられて並んでいた。わずかな傷も許さない厳戒態勢だ。

 工房のなかにも建造の始まった新造船が二隻並んでいた。

 どこかでドラゴンが一体狩られたらしい。骨格だけで、まだどこの船とも分からなかった。

 痩せた背の高い倉庫の担当職員が散乱した船のパーツの隙間から現れる。さすがにミスリルは見慣れているので「ああ、また持ってきたのか」と軽くあしらわれた。

 僕の船だけ工房の隅で、船底を剥がされた状態で置かれていた。

 ミスリルの塊は天井から吊り下げられた滑車のフックに掛けられて、荷台から下ろされ、頑丈な台車に乗せられた。まるで帆船の帆を操るかのようだった。

「今回の分で、外装パーツの方はすべて賄えると思いますよ。次回からは交換用の骨格作りか、装甲の強化になりますが、棟梁とは?」

「装甲からいくことになると思います。ミスリルも段階的にしか手に入らないので。とりあえず飛べる状態に戻しておきたいんです」

「我々もあそこまでの腐食攻撃は想定してませんでしたからね。正直、驚きました。こう言ってはなんですが、いいサンプルが採れたと思います」

「実験船の面目躍如ですかね」

「全員無事、帰還なされたから言える軽口ですが」

 そう言って倉庫担当は笑った。


 家に帰ると子供たちが何やらアイシャさんに教わっていた。横目で見ているとどうやら弓の扱い方を学んでいるようだった。

 スリングの次は弓か?

「…… まさか!」

「全員覚えるみたいですよ」

 エミリーが僕の食事をテーブルに運びながら言った。

「大丈夫かな?」

「初心者用の迷宮に明日みんなで行くそうです」

「アイシャさんも?」

「どんなところか一度見ておきたいそうです。責任者はゼンキチさんですけど」

「それより、パスカル君たちがもうすぐ来るんだけど?」

「一月滞在するんだろ? 今から気を張っていてどうするんだい。もっとのんびりおしよ」

 アンジェラさんが追加の料理を運んできた。

「姉さんなんか言ってませんでした?」

「ドラゴン狩りに連れて行くとか言ってたね」

「嘘……」

「わたしも聞きましたよ。新しい狩り場を作ったんだそうです」

 サエキさんがピッチャーとコップを持ってきて言った。

「ほんとに?」

「発見したのはお兄さんだそうですよ」

 どっちの?

「別荘、パスカルさんたちの訪問に合わせて、凄いことになってるみたいですよ。あちらでも宿泊できるように、いろいろ持ち込んでいましたから」

「そうなの?」

 三人が揃って頷いた。

「明日、行ってみようかな……」

「一度見てきた方がいいかもしれませんね。お姉様のすることですから」

 サエキさんにまで言われるうちの姉って……

「とりあえず、さっさと食べちゃってください」

 パタータと鶏肉のチーズフォンデュ。それとミートパイ。粉チーズをふんだんにまぶしたボール一杯のサラダにポポラのジュースがテーブルに並べられた。


 翌日も僕はミスリル狩りだった。

 オクタヴィアもヘモジも今日は子供たちと一緒にあちらの迷宮に行っている。

「せめてヘモジだけはこっちに来ると思ったのだが……」

 何を考えているかよく分からないチョビで我慢することにした。

 とりあえずゴーレムに負けないように巨大化した。

 蟹挟みで頭を叩けば、粉砕できそうな大きさになった。

「お前も擬人化できればよかったのにな。そしたらもっと一緒に遊べるかも知れないのに」

 正直使いどころに困る。突然、気に入らないことで暴れられても困るし。

「でも、今日は無礼講だ。収穫は目減りしても構わないぞ。一気に片付けるぞー」

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