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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(チャージショット習得編)18

 ピノは『鷹の目』を使うために巣から離れた通路の先から狙いを定めた。やっと敵が視認できる距離だ。そして『チャージショット』を発動させた。引き絞る程に威力が増すスキルだ。スタミナが尽きる前に放つことがコツである。言ってるそばからピノはふらついた。手加減を覚えろという話である。万能薬を舐めさせて再開する。

「『チャージショット』!」

 矢は真っ直ぐに飛んでいき、遠くにいるウツボカズランに命中、ウツボカズランは跡形もなく消し飛んだ。

 本人は呆然と立ち尽くし、リオナは興奮してリンゴのように頬を高揚させた。

「リオナも頑張ってくるのです!」

 自分の弓を振り回しながら、巣に突撃していった。

 僕も内心、『鷹の目』いいなと思った。後でこっそりやってみようかと考えた。


 ピノとは比べものにならない速さでことは進んだ。

「力を込めて放つ。力を込めて放つ……」

 リオナはリズミカルで正確な射撃を繰り返していた。マリアさんのような派手さも余裕も、全体を網羅するような柔軟さもなかったが、慎重にノックバックまで計算して撃ち抜いていった。

 背負っていた矢筒が後数本となったところで、急に立ち止まった。そして僕の所に飛んできて調べるように言った。

 僕はリオナに『認識障害』用のアクセサリーを外させるとスキルを使った。

「あった。『チャージショット』見つけた! 『鷹の目』は――」

 探しても見つからなかった。

 ないことを伝えると、微妙な笑顔になった。

「今日のところはしょうがないのです」

 気落ちしそうなところをぐっとこらえる。

「その人に合ったスキルが身に付くからな。全員一緒というわけにはいかないよ。たぶんピノの方が射撃で視覚を使っているんだろう。リオナは耳と嗅覚でほぼ敵の位置を特定できるから案外視覚に頼ってはいないのかも知れないな」

「努力しかないのです」

「そうだな」

 僕はリオナの頭に手を置いた。

 身に付かないと決まったわけじゃない。

「あくまで今日のところは、だ」

 とりあえず、目的は達した。


 獲物と矢を回収すると、僕たちは迷宮を脱出した。念のため毒の浄化をして、ギルドに向かい触手と毒嚢の依頼を消化した。

 午前の部が終わる頃合いで、ちょうど事務所も混み合っていた。

 ピノは楽しそうに喧噪を見渡し、自分より大きな冒険者たちとすれ違っては息を凝らした。

 ギルドポイントは見習ふたりで分けあってもらうことにした。

 マリアさんは指でテーブルを叩きながら「あんたは何していたの?」と言う目で僕を見た。

 僕が『一撃必殺』を習得できたのもマリアさんが弓を教えてくれたからだったなと、僕は明後日のことを考えていた。


 報酬も得て、嬉しそうなみんなを連れて、いよいよ本日のメインイベント、自分的にはサブイベントだが、ミートパイ攻略である。

 テーブルに着くと全員日替わりと、ミートパイを頼んだ。

 周りにいた冒険者たちは普段聞き慣れない料理に興味を引かれたようで、メニューを見直した。そして僕たちのテーブルにミートパイの皿が並ぶと、「俺たちも注文してみるか」という流れになった。

 後は「こりゃ、うまいな」という話になって、あっという間にお気に入りのサイドメニューに収まったのである。

 

 僕たちはミートパイを頬張りながら午後の予定を話し合った。

 ピノはジュエルゴーレムの倉庫にもクヌムの町にも出入りできないので、僕とは別れることになった。

 リオナとふたりで手に入れたスキルの効果を確かめるべく、地下一階でゴブリン狩りをすると言う。正直ふたりでは不安なのでヘモジを付けた。せめてナガレがいてくれればよかったのだが、何やら私用があるらしく出かけていた。と思ったら目の前にいた。

「何してるですか?」

 召喚主のリオナがまず驚いていた。

「見て分かるでしょ。買い付けよ」

 両手一杯の荷物と背中に担いだ荷物ですっかりモコモコだった。

「何買い込んだんだ?」

 手荷物を覗いた。

「羊毛だ……」

 一瞬、開いた口が塞がらなかった。

「糸が足りないと困るから」

 金色に染めるのだろうが、こいつは今まで運んだ羊毛で何着分できると思ってるんだ? 

「ちょうどいい、少し頼まれてくれるか? それは僕が持って帰るから」

 僕は羊毛を『楽園』に放り込むとリオナたちのお守りを頼んだ。地下一階ならフェンリルの巣に近付かなければ問題ないだろうし、ナガレの雷撃があれば一撃だ。ヘモジの盾もある。


 僕はオクタヴィアを肩に乗せ、リオナたちに続いてゲートを潜った。

 まずはミスリルの調達からだ。

 ヘモジがいないのでいつもよりペースを落として進攻する。オクタヴィアも頑張ってくれてはいるが、回収も何もかも基本、自分でやらなければならないので大変だ。

 それでも僕たちはほぼ修正した予定通りにミスリルの回収を終えた。リオナたちが飽きっぽくなければ、向こうはまだ狩りを進めていることだろう。

 僕は一旦、外に出るとクヌムの町に入り直した。

 頼まれた熟成チーズを購入して、チョビに持たせた。店を出ると物陰に隠れて荷物を『楽園』に放り込んだ。

 牧場への道をふたりで散歩しながら、顔見知りの羊毛売りの店に顔を出す。そこで追加の羊毛を多めに購入した。

 ナガレは自分で持てる分しか買えずにいたに違いない。これはお守りを引き受けてくれたお礼である。

「さ、みんなと合流するか」


 地下一階のゴブリンの砦は壊滅状態だった。

「見張り発見!」

 ピノが同じ弓持ちのゴブリンを小高い丘の上に見つけて、弓に矢を番える。さすがに安物の弓ではなく、持ち込んだ弓を使っている。

 ビュンと矢が空に放たれるときれいな放物線を描いた。

 遠くの見張りが音もなく倒れた。

 一行は見張りのいた丘に登っていく。

 僕は周囲を索敵するが、敵はもうボスクラスしかいなかった。

 そうこうしているうちに弓の一撃を受けて側近のスピアーヘッドが倒れた。

 サブリーダーが牙を剥き出しにして丘の上を目指して駆け上がってくると、突然横に吹き飛んだ。

 側面からの狙撃だ! どこにいる? 

 リオナを見つけた。一つ向こうの丘の上からだった。

 残るはリーダーだけになった。

 ピノの『チャージショット』が炸裂した。

 リーダーは咄嗟に避けたが、必中がそれを許さなかった。リーダーは大きな斧を振り回したが、矢は脇腹辺りに命中した。

 本来なら、即死にはならない位置だ。ピノも急いで追加の矢を構える。

 が、リーダーは吹き飛ばされた。そして坂を転がり落ちた。

 僕が転移してピノの側に出ると、ナガレに槍を突き付けられていた。

「ご苦労様」

 ナガレは切っ先を外した。

 リオナは既にボスの亡骸の横にいて死因を確認していた。

 抉られた穴はとても矢で作った傷には見えなかった。

 オクタヴィアとヘモジはアイテムの回収を始めていた。ゴブリンの装備じゃ使える物はないので宝石類を外すだけだが、倉庫で拾い集めた石に比べると見る価値もなかった。

「回収しないの?」

 ピノはスルーされていく品々を心配そうに見ている。仮にもフロアーのボスクラスだ。それなりの物を落としているようにピノの目には見えていた。

 でも僕たちにはそう見えていなかった。

 僕はテントのなかにある宝箱を開ける。

 わずかばかりの貴金属が入っているのみだった。ジュエルゴーレムから回収した宝石一個の方が遙かに価値があった。

 みんなで見繕ったところ、売れそうな回収品は、小物の指輪が数個と付与の付いたナイフが一本だけだった。

 それでも金貨数枚の稼ぎにはなったので、ふたりで分け合った。ヘモジもナガレも結局、アイテム回収以外、活躍の場はなかったらしい。


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