夏休みは忙しい(ミートパイ編)15
翌朝、リオナは子供たちを引き連れてユニコーンとの散歩に向かった。長旅の翌朝は『日向』との会話も増すようで、帰りはいつも若干遅くなる。
子供たちもさすがに親元に帰らねばならないから、散歩を済ませると荷物をまとめて帰宅した。
ワカバたちも、大人たちに頼まれたであろう土産をどっさり買って帰っていった。村の資金繰りも以前よりだいぶ改善しているようだった。
僕は朝食を取ると装備の手入れをしようと地下に潜り、リオナが帰ってくるまで時間を潰そうと思った。
見慣れない大きな木箱が二つあった。
「サエキさん、あの箱何?」
階段から顔を出すと手摺りを拭いていたサエキさんが目に止まったので尋ねた。
「お屋敷からです。例の装備だそうですよ。『お披露目の披露宴までは傷つくと困るから使うな』だそうです。それからサイズだけ合わせておくようにとのことです。調節は早めにお願いしたいと」
「すいません、慌ただしくて言い忘れてました」
エミリーが顔を出した。
「いや、いいよ。僕も見るまで忘れてたから。木箱を開ける道具貸してくれる?」
「はい、ただいま」
エミリーが裏に駆けていった。
ロザリアは聖都に直接報告しにいっていて留守だった。この家に残ってるのは相変わらず暇なエルフだけだ。たぶん着ないだろうな……
そうだ、ロメオ君には知らせないと。もう起きたかな?
サエキさんに町の小僧でも捕まえて、ロメオ君に知らせてくれるように頼んだ。するとちょうど玄関口にユニコーンと子供の配達係が来たので、サエキさんは別報酬を払って用事を頼んだ。報酬は前金でふたりにポポラの実を一つずつだ。
僕はエミリーから釘抜きを貰うと力業で木箱の板を剥がしていった。結構な重労働である。
「魔法を使われた方がよろしいのでは?」
エミリーに言われた。
「それもそうだな」
『無刃剣』で四方の釘を切断していった。簡単にばらけた。
「最初からこうすればよかった」
商品が傷付かないように、長毛のムートンで梱包された鎧セットが出てきた。嵩張る商品をうまい具合に重ねていた。胴のなかに小手やら兜を入れて、胴と胴の隙間に草摺やらベルトなどの小物が収まっていた。
「小さいな……」
チコ用の鎧だった。思わず笑ってしまった。実戦で使わずともこれはこれでいい置物になるな。
お披露目までは宝物庫に仕舞っておこう。
自分の分の鎧を取り出して身に着けた。
「重……」
付与なしの素の重さだからか。今着ている物よりだいぶ重かった。スケイルメイルだから皮鎧より重いことは分かっていたが、これは想定外だった。付与対策が必要だ。納品書に性能一覧が載っていた。素の状態でも今着ている装備並みの強度を示していた。特に衝撃、貫通耐性は目を見張るものがあった。
これだけの耐性があって、なんでアースドラゴンは岩石堕としに容易くやられるのか疑問である。兎も角、これを付与するのが楽しみだ。
ピノが試着したとき「すっげー軽い」と言われたときは結構凹んだ。普段プレートを着込んでいたピノには薄衣のようだったらしい。動きにもっさり感がなくなって、俊敏さが増していて驚いた。
あいつ、まだ速くなるのか?
「鎧ってもっと重いもんだと思ってた。これならスリング大会に着ていってもいいよね?」とチコにとどめを刺された。これ着て木に登るとか…… 有り得ないから。
子供たちはなんの抵抗もなく受け入れた。そして船上での正装に正式採用してしまった。
一方、僕のパーティーでこの装備に着替えるのは結局、僕とリオナだけである。勿論披露宴には全員着ることになるが、戦闘スタイルが違うのだから仕方がない。リオナも重いと言っていたが気にする様子はなかった。早速、化粧糸の色を何色にするか迷っていた。
後日、金色羊の金糸になっていたときは驚いた。とても見た目、実戦用の鎧とは呼べなくなっていた。馬鹿貴族のぼんぼんが着る見栄っ張りな鎧のようだった。それでもナガレは羨ましそうに見ていた。
「お前もあれにする?」
「あんな重いのはごめんよ。今、金糸で布を織らせているところなの。冬までには豪華なローブを作ってみせるわ」
銀団の派手な外套に金ぴかのローブが混ざるのか? 僕は雑伎団の一員になったつもりはないんだけどな。
昼前にようやく帰ってきたのでリオナに「ミスリルを採りに迷宮に行くか?」と尋ねたら断られた。午後もユニコーンと遊ぶらしいが、先の件でユニコーンの代表がやって来て、姉たちとの会合を開くらしい。で、通訳を頼まれたらしい。どうやら理由を付けて姉妹水入らずらしい。
仕方ないので振られた僕はヘモジとオクタヴィアを連れて迷宮に向かった。
倉庫での戦闘にも慣れて、三人のコンビネーションも成熟しつつあった。
今回鏃の応用で、光の魔石を柱に打ち付けるクナイを開発した。
移動中、魔法で作った即席だ。魔法の鏃に柄を付けて、柄頭に更に光の魔石を取り付けたものだ。手で投げれば、目標に勝手に飛んでいって刺さってくれる代物だ。射程は限られるが、視界の届かない遠くを照らしても意味はないので手投げで充分である。足元に放るのがやっとのオクタヴィアが投げても、天井の梁や木の樽に見事に命中するだろう。
実際、最初の一発が天井の梁に刺さったときのオクタヴィアの顔は見物だった。ただでさえ大きな目を見開いて、口をヘ文字にして。可愛いやらおかしいやらで、ヘモジも笑い転げてしばらく使いものにならなかった。
オクタヴィアはアサシンの如く、闇に紛れて、クナイを放つと、天井の梁にポワッと明かりが灯る。そして数秒後には周囲の魔力を吸収した魔石が煌々と周囲を照らし出すのである。
照らされたジュエルゴーレムは一気に目を覚ますが、勝手知りたる僕とヘモジの相手ではない。
効率は日に日によくなってきている。
敢えて迎えに行かず、なるべく定位置で待っていると向こうからやって来るので、頃合いを見計らって迎撃する。
何度も戦っていると敵の動きを先読みできるようになるので、ヘモジも、オクタヴィアでさえも簡単に懐に入り込めるようになった。
相変わらず足元が弱いので、床を緩めて手前の一体をひっくり返してやれば 後続も引っかかって倒れてくれる。もはやこれは仕様である。
倒れたゴーレムの核を探し当てて、ヘモジに砕かせる。勿論、見てすぐ急所の分かる相手は、面倒なことなどせず、僕が狙撃して終わりである。
「ナー、ナアァ」
ヘモジが急所に一撃を振り下ろした。
起き上がろうともがいていたゴーレムはピタリと動かなくなった。
僕は接近するゴーレムの急所を撃ち抜いた。ゴーレムは膝から崩れて壁に激突して、床に沈んだ。
オクタヴィアはクナイを投げ込む。次の区画のゴーレムがムクムクと動き出した。
「きょうも大量だ!」
「ナーナ」
「大量、大量」
ミスリルも宝石も一杯だぁ。
「いい匂いがする」
「ん?」
急にオクタヴィアが鼻をひくつかせる。
「確かに、これはこの村に普段ない匂いだな」
「パイ生地の匂い…… お菓子かも」




