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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(帰還)14

「何とやり合えばああなるのかしらね? ドラゴンのブレスにも耐える結界だったのではなくて?」

「それ以上の敵だったのでしょ?」

 マリアベーラ様がいた。ヴァレンティーナ様の執務室の椅子に踏ん反り返っていた。

「帰ってなかったんですか?」

「婚前は実家に帰るものなのよ」

 実家はここじゃないでしょ?

 サリーさんは慣れた様子で状況を無視して報告書を提出した。

「コートルー、ミコーレ、アシャールに同様の報告書を提出いたしました」

 ヴァレンティーナ様とマリアベーラ様は顔を寄せ合って書類に目を通した。

 あんまり似ていないと思っていたけれど、並ぶとやっぱり似ていた。

「ベヒモス…… か」

「死にかけでしたけどね」

「で」

「正確なところを教えて頂戴」

 ふたり揃ってにっこり笑った。

 よく似てる……

 すべて自供した。元々話すつもりだったので別段構わない。サリーさんが同行した段階で、当然の帰結である。


 執務室のヴァレンティーナ様の机の上に不発だった大玉を置いた。抱える程大きな玉は机を軋ませた。

「これ?」

「はい」

「これです」

 サリーさんと僕は頷いた。

 表面をポンポン叩いた。

「スイカじゃないから」

「スイカ?」

「ココメロ」

「ああ!」

「ん? スイカって何?」

「いえ、なんでも」

「で?」

「は?」

 顔を見合わせる。サリーさんが頭を抱える。

 あ、そうだった。

 僕は大玉を床に置いて、土の魔法で作った外殻を剥がした。崩れた砂の山に支えられて大きな光の魔石が出てきた。

 ふたりが動かなくなった。

「じゃ、持ち帰りますね? これまだ稼働しますんで。持ち帰って解体して貰わないと。じゃ、僕はこれで」

 僕は魔石を『楽園』に回収して扉を出て行った。


 しめしめと思っていたら、廊下の突き当たりに姉がいた。

「帰ったようだな」

「どこか行ってたの?」

「ミコーレに援軍を送る準備をしてたんだが、その必要がなくなったと報告があってな」

「元凶が排除できたので」

「敵が上手だったのか? それとも侮ったのか?」

「侮るも何も初顔合わせだし。想像以上だった」

「死人が出てもおかしくなかったのではないか?」

「無理をする気はなかったよ。二発撃ち込んで駄目なら帰る予定だったし」

「そうだな、お前が船を傷つけたいと思うわけないな」

「言われなくても分かってる」

「ならいい。後で武勇伝を聞きに行くよ。兵を前線に送らずに済んだことだしな」

 姉さんは僕の横を通り過ぎて執務室に入っていった。

 僕は溜め息をつく。

「分かってるさ。しくじったんだってことは」

 でなきゃ…… 装甲の向こう側には旅団のみんなや子供たちがいたんだ。

 運がよかっただけだ。

 僕は館を後にすると工房に向かった。


「世の中は広いってことだな」

 棟梁は笑った。

「そう落ち込むな。こういうのはな、結果オーライてんだよ。クルーを守れたんだ。船冥利に尽きるってもんだ。こいつはちゃんと役目を果たして戻って来た。そう考えりゃ嬉しいことだ」

「敵の強さを的確に計れればいいのに」

「そりゃ無茶な質問だ。ベヒモスだったか? 初めての相手だったんだろ?」

「ええ、まあ」

「初めてってのはどんなことでも怖いもんだ。そうだろ?」

 僕は頷いた。いつぞや同じ話をしたような…… 誰とだっただろう。

「ましてや敵はA級、S級クラスだ。怖くねぇわけがねぇ」

 パイプに火を付けた。

「たばこ?」

「嗚呼、若えのが、いつまでも汚い作業着姿じゃ貫禄がねえってんで、プレゼントしてくれたんだ。うまいもんでもねえから、くゆらせるだけだがな。妙に落ち着きやがる」

「てことは動揺してたんだ」

「うちの連中で、あれ見て、動揺しねぇ奴はいないよ。兎に角、戻って来ただけでも御の字だ。貴重な経験したな」

「姉さんは怒ってましたけどね」

「みんな事前に備えて出て行くんだ。できうる限り、万全の備えをしてな。それでも、どんなに備えても、その最初の一回をクリアーできねぇからA級、S級なんじゃねぇか? これ以上期待しちゃ罰が当たる。若たちがやらなきゃ、大勢の命が散るところだったんだろ? 全員無事なら、これ以上めでてえ話はねぇじゃねえか」

「衰弱した敵を見て、今が攻め時だって、欲を掻いてしまったんです」

「姉ちゃんは相変わらず厳しいな」

「ええ、まあ……」

「さっき船を見て青ざめていたがな」

「姉さんが?」

「気丈な人だな」

「そうです…… ね」

 作業をしていたスタッフが、首を縦に大きく振った。

「損害は軽微だったようだな」

「あれで?」

「装甲ってのは本体を守るためにある物だ。盾と同じだ。壊れるためにある。骨格に影響がなければ損害なんてなかったに等しいわい」

「そう…… ですか」

「オプションが壊れたようなもんだ。コアさえ残っていれば問題ない」

 しばらくふたりは無言で作業を見つめた。

「で、どうだった? 南の魔物は?」

「金にはなりませんね。オーガやゴブリンは多くいましたけど。西の方が儲かるでしょう」

「なるほどな。せめて特産品でもありゃな」

「コートルーは討伐が長引くと財政的に傾くんじゃないですかね?」

「南部は?」

「何もない平原になっちゃいましたよ。砂漠が広がるかも知れません」

「若には頑張って貰って、人類の住める土地もっと広げて貰わんとな。そのためなら何度だって直してやるわい」

 ガハハハッと豪快に笑った。


 家に帰ると子供たちが既に暴れていた。

「にーく、にーく。にーく、にーく」

 いつもの催促ダンスが始まっていた。

「騒々しいな。今回土産はなかっただろ?」

 玄関先に出迎えたオクタヴィアとヘモジに尋ねた。

「飛竜の余った肉で肉祭り」

「ナーナ」

「土産に持ち帰るんじゃなかったのか?」

「遅かったな。若様」

 声のする方を見るとワカバを初め、若干強面の子供たちが数名いた。

「なんだ。ワカバ来てたのか?」

「昼間遊びに来たったのに、こいつらおらへんねんもん。うちら他のチームに入れてもろうててん」

「スリングのか?」

「そうや。うちの村でも流行らしたろう、思うてな。それより、今聞いたら一週間以上留守にしとったんやってな。あの船で冒険しとったんやろ? 今度うちも混ぜてーな。なんか資格いるんか?」

 うらやましがられる状況ではないんだが。

「船はベヒモスにやられたのです。修理中なのです」

 前菜山盛りの皿をリオナが持ってきた。

「ベヒモス?」

「A級だか、S級の魔物だよ」

 ピノが言った。

「うまいんか、そいつ?」

「アンデットだよ。あんな悪臭のする化け物、食えないから」

「やばッ、臭い思い出した」

「ちょっと、ピオト!」

 チッタたち全員に殴られた。

 よせばいいのに理由を聞き出そうとしたワカバたちに、懇切丁寧に説明した結果、状況は更に悪くなった。

「とんでもないやっちゃな。なんか食欲なくなったわ」

「はーい。飛竜のステーキ、ミコーレ風。焼けたわよ」

 アンジェラさんは香辛料とたれの甘い、香ばしい匂いで子供たちの食欲をそそった。

 結果的に、飛竜の肉は完食。いつも通り、他の肉もたらふく食ってくれた。


 遅れて姉さんとヴァレンティーナ様たちが転移部屋からやって来て、食卓に加わった。

 そして子供たちに武勇伝を語らせた。

 マリアベーラ様と領主様の登場に、さすがのワカバたちもどん引きしていた。

 一方、何度か会って慣れている領主様の優しそうな笑顔にほだされて、ピノやピオトはあることないこと、舌に油を塗ったかのように、尻尾を振り回しながら聞かれたことによく答えていた。

「帰って早々賑やかなものだな」

「ご面倒おかけしました」

「あんたたちがいない間、楽させて貰ったよ。今つくづくそう思ってる」

 アンジェラさんは笑いながら、僕にジュースの樽を出した。

 僕は自分に一杯注ぐと、子供たちの前に置いた。語り部を放っておいて子供たちは順に喉を潤した。

「また船を壊したんだって?」

「ベヒモスって知ってます?」

「名前だけなら」

「船底の装甲が半分やられました。棟梁に言わせれば軽微だそうです」

「不幸中の幸いだな」

 姉さんがやって来た。

 僕は黙って酒を注いだ。

 姉さんは何も言わず、語り部たちの語る物語を黙って聞いていた。

「焼けましたよ」

 エミリーが追加の料理を運んできた。

 姉さんたちの分の肉が焼けたようだ。

 子供たちはそれを見て急に押し黙った。

「なんか、しゃべったらお腹空いたかも」

 ピオトの一言で子供たちの食欲は復活した。

 僕とアンジェラさんは苦笑いした。

 真相はすべて語られ、情報の補完はなった。

 子供たちがうとうとし出すと、ヴァレンティーナ様もマリアベーラ様も帰路に就いた。

 どいつもこいつも腹を膨らませて唸っている。

 猫もリオナも例外ではない。ヘモジだけが野菜スティックをポリポリかじりながらとぼけた顔でこちらを見つめる。

「心配かけたか?」

 ヘモジに尋ねると『もう慣れた』と答えが返ってきた。

 僕はヘモジを連れて大浴場に行き、旅の垢を流すと、寝室に引っ込んで、早々に眠りに就いた。


「ええと…… 次は…… パスカル君か。魔法学院の夏休みまで、あと何日だっけ……」


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ヘモジが一番の理解者。リオナヒロイン枠のピンチ(笑) 
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