表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
571/1072

夏休みは忙しい(サボテンワーム)9

 いくつかの部位のブロック肉を放り込んだ回収袋を肩に担いで甲板に戻った。

 子供たちはもう炭に火を入れていた。

「朝から焼き肉か? 敵が寄ってきたらどうするんだ?」

「消臭結界を頼む」

 なんと首謀者はサリーさんだった。アイシャさんも呆れているかと思ったらそうでもなかった。旅団のみんなと和気藹々とイベントを楽しんでいた。

 もしかして気まずい思いをしているだろうウルスラさんのために?

「肉は食べきれない程あるのです」

 どうもそうではないようなのだが……

「それより、フェンリルはどこいったの?」

 アンが聞いてきた。

「ていうか、どうやって倒した?」

 僕は銃を取りだした。

「急所に一撃。解体屋に送った」

「黒い! それってまさか」

 ゴリアテ謹製、アダマンタイト製の短銃だ。アンに持たせてやると「重ッ!」と大袈裟な反応を返された。

 食事が終ると射撃競争が始まった。

 どういうつもりだ。

「今度はチコだよ」と言って僕のライフルを構える。今のところトップはリオナらしい。

 チコが耳をすませて遠くの音を聞いている。

 僕のライフルの方が本人より重いんじゃないか?

 銃身をデッキの縁に乗せる。

 みんな息を飲んで見守っている。

 チコの尻尾が落下防止用の安全帯に絡み付く。

 パン!

 何を撃った?

「やった!」

「すごーい」

「命中したよ」

 ピノとチッタとピオトが駆け寄った。

「ずれた」

「当たっただけでも凄いよ!」

 ピオトが冷静な本人の手を掴んで振り回す。

 子供たちは大はしゃぎだ。

 一方、人族の僕たちは、旅団のみんなも含めて、何が起きたのか分かっていない。

 でも一瞬、銃口を向けた先で何かが反応した気がした。

 望遠鏡で見ても何を狙ったのか分からない。

 船は放っておいても、的の方に飛んでいく。

「リオナ」

 こっそり声を掛けて、何を撃ったのか尋ねた。

「サボテンなのです」

 やがて的にしたサボテンの横を船が通過する。

 銃弾の爪痕が残っていた。踊っているような葉状茎が吹き飛ばされていた。茎の肉が……

「浮上しろ! 緊急ッ!」

 アイシャさんと僕は同時に叫んだ。

 僕は火の魔法を放り込んだ。

「サボテンワームだ!」

 ウルスラさんが叫んで弓に矢を番えた。

 地面から野牛を丸呑みしそうな大きな口を開けて、ワームが飛びかかってきた。見たこともない頑強そうな岩肌のワームだった。

 ウルスラさんの矢が大口のなかに射られると、内側からワームが吹き飛んだ。

「うわぁあああ」

 子供たちが四散した肉片を避けるために急いで船内に退避した。

 結界を張ってるから大丈夫だ。

「偽物」

 オクタヴィアが甲板から下を覗き込む。

「サボテンは疑似餌だ。よく分かったな」

 ウルスラさんが僕に言った。

「昨日たまたま図鑑で見たんで」

 サボテン状の物はワームの鼻先に付いた竿角のいぼである。旅人や獣が水分ほしさに寄ってくるところをパクリといくのが、奴の捕食方法だ。

「エルフ殿もさすがだな」

「昔知り合いが食われた」

 全員がギョッとなった。

「冗談じゃ」

 アイシャさんは笑ったが、笑えなかった。子供たちも青ざめてると思いきや、降ってくる物がなくなった途端、甲板から下を覗き込んではしゃいでいた。

「びっくりしたのです。気付かなかったのです」

 リオナに気付かせないとは千年大蛇級に凄いな。僕は植物にしては多すぎる微量な生命反応を感知できたから気付けただけだが。

「小さかったな」

 ピノがサンドワームと比べて言った。

 何が小さいだよ。お前、丸呑みだぞ。

「でもこの辺の土は硬そうだよ」

 ピオトが疑問を投げかけた。

「サボテンワームはね、地面を掘り返して柔らかくしたら、そこを巣にして、獲物が掛かるまで動かないものなのよ。あれは余程獲物に恵まれなかったのね。地面がすっかり干からびてる」

 マレーアさんが解説してくれた。

「サボテンでおびき寄せるとは賢い奴なのです」

「俺、サボテンに近付くの怖くなった」

 リオナが感心してる横でピオトがビビった。

「動かないってことは大体居場所がばれてるってことよ」

 セレーナさんが言った。



 万事が万事この調子だった。これでいいのかと思うほど緩かった。でもサリーさんもアイシャさんも何も言わなかった。

「いいのかな? これで」

 ロメオ君も懐疑的だった。

「あんたたち、いつもこうなの? 緩すぎない?」とアンにまで言われる始末だった。

 普段から緩さでは引けを取らない僕もさすがに不安になったので、こっそり尋ねようと思った。が、答えが向こうからやって来た。

 二日目の夜、アイシャさんが夜勤の僕のところに尋ねてきた。

「不安そうじゃの?」

「分かってるならなんとかしてくださいよ」

「それを妾に頼むのはお門違いというものじゃ。本来、そなたがやることじゃ」

「意味が分かりませんけど」

「最近、我らのボスは緊張しておってな。笑うことを忘れておるようじゃ。子分たちは皆、敏感じゃから察してしまっての。ボス以上に緊張しておる」

「そんなことは……」

「ウルスラの兄のことがあってから、少々気を張りすぎているのではないか?」

 意外な指摘だった。大抵この手の指摘は本人では気付けないものだが、いざ自分が該当するとなると、なるほど自覚がないものだった。

「そうか?」

 自覚がないから、側にいるヘモジとオクタヴィアを頼る。

 すると「撫でてくれなくなった」、『目を見てくれない』との指摘を受けた。

 そういえば、どこか遠ざけていた気がする。

 自然と気が抜けることを避けていたのかもしれない。

「そなたが四六時中緊張していてはあの子たちが気を休める暇がない。あの子たちはそなたを信じているのだからな。大の大人が逃げ惑うドラゴン相手にすら真っ向から立ち向かう程にな。あの子たちはまだ子供じゃ。がんばったところで緊張は長くは保たん。探索はまだ始まったばかりじゃ。家に帰れるのはまだまだ先じゃ。折れるのはそなたより、あの子たちが先じゃろ?」

「張り詰めてましたか?」

「そなたは今、何をしているつもりじゃ?」

「何って?」

「依頼をこなしてるだけか?」

 ああ、そうか。

 彼女が言わんとしていることに今更ながら気が付いた。

「冒険……」

「我らはいつかは死ぬ。どんな理由で、どこでだかは知らんが、それだけは確かじゃ。冒険者はいつどこで死ぬ? 旅の道中、見果てぬ夢を追い掛けながら死ぬのが冒険者じゃ」

「そんなたいそうな志はないですけどね」

「妾の変わり者の祖父が晩年、短命な人をうらやんでよう言うておった。希望を抱きながら死ねる人が羨ましいとな。時の移ろいと同化してしまうような死に様と比べれば、遙かにましな最期だとな」

 ハイエルフにはハイエルフの悩みがあるわけか。アイシャさんが人里に下りてきた理由が分かった気がする……

 十五のガキにする話じゃないと思うけど、自分が何をすべきかはよく分かった。

 手始めに、オクタヴィアとヘモジの頭を撫でた。

「魔物が増えてきておる。そろそろデッキで遊ぶのは控えんとな」

 そう言うと、アイシャさんは定位置に戻っていった。

 気を抜けと言ったり、気を引き締めろと言ったり……

 ありがとう、アイシャさん。

『冒険者よ。汝の目は開いているか?』

 マイバイブルの勇者が森の賢者に同じことを言われてた。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ