夏休みは忙しい(撃退)7
「センティコアだ」
「あれ知ってるよ! 水牛だよね。角が高く売れるんだよね?」
チコが言った。
「対で金貨二十枚だったかな?」
あいつらも逃げ回っている口か。
「ここは砂漠だってのに、気の毒なことだ。暑さは苦手だろうに」
「水辺がこの先にあります」
チッタがマップを指差す。チコが急いで窓枠からテーブルに戻る。
ウルスラさんたちが互いに顔を見合わせる。そんな情報一体いつ仕入れたんだと。
まさかリアルタイムだとは思うまい。
「てことは、本命はそっち方面から来ると言うことか? すまないが、見つけた魔物たちの進行方向を地図に書き込んでくれるか?」
「ロックゴーレム発見。三体いる」
リオナが言った。
「サンドロックトードか? そいつは討伐しておいた方がいいな」
「おっきな蠍、発見。あっちにうじゃうじゃいる」
「どれくらいの大きさだ? 討伐しなきゃいけない大きさか?」
「ニードルスコーピオン。この辺りにいるのはニードルだ。棘がストレートで長いんだ。剣のように振り回してくる」
普段無口なドナさんが教えてくれた。
「城壁壊すような奴ですか?」
「壊しはしませんが、上ってはきますね」
マレーアさんが代わりに答えた。
「障壁のない砦なんかはこいつらのおかげでたまに死傷者がでます。大きさは全長で二メルテ程度ですね。昼間は砂の中です」
「大きさは問題ないけど、砂に潜られると厄介だな」
「確かに数が多いな。焼き払うか」
アイシャさんがグラスを片手に地図を覗きに来た。
「客人が近付いてきておるぞ」
小声で呟いた。
「フェンリル発見! 四匹もいる」
リオナが嬉しそうに叫んだ。
「フェンリル、蠍食ってくれないかな?」
「恐らく無理じゃろう。生息域が違うからな。片や森や草原、片や砂漠だ。腹を壊すのが落ちじゃ」
「砂漠はこの先で終わりですかね?」
「フェンリルは足が速いからな。それだけかもしれんぞ」
「地竜発見。数は一」
またリオナが見つけた。
マップの魔物の動線を見ていると大体流れが読めてくる。
「東に向かわないのはサンドワームがいるからじゃろうの?」
「恐らく。砂漠ですし」
マレーアさんが旅団を代表して答える。
「となると敵はこのルートでやって来るのか?」
ほぼ矢印通りだ。
「空飛ぶ奴らはいないのか?」
「時間的にいないんじゃないですか」
ロザリアが答える。
追跡部隊も近付いてきている。さっさと対処しないと眠れない。
「よし、このルートで行こう」
僕は殲滅する魔物を順番になぞった。
「ロックゴーレムから仕留める! 蠍、フェンリル、地竜の順で行く」
「全部を仕留めるんですか?」
マレーアさんは言葉を失った。
「引き付けてから風の魔石を使うぞ」
「風? 火じゃないの?」
ロザリアが言った。
「誰もいない。派手にやれ」
子供たちはピンと来た。
「了解!」
ピノが船尾の狙撃室に入る。左右の座席にリオナとチコが着くと、身体を固定し始める。
『ロックゴーレム、見つけた』
テトの声が伝声管から聞こえる。
「テト、速度を維持しつつ、そのまま通過しろ。ピノ、すれ違い様だ」
『了解』
『分かってるって』
伝声管から声がする。
「念のために雷を落としてやろう」
「ではわたしは周囲を照らしましょう」
ナガレとロザリアが後部デッキに向かった。
闇夜でわざわざ「獲物はここにいる」と知らせるようなものだが、それを敢えてしに向かった。
岩で武装した巨大な蛙がゆっくりとこちらに向かってきていた。
闇に紛れて船はロックゴーレムの頭上を通過する。
「ピノ、いつでもいいぞ。お前の攻撃を合図に一斉攻撃する」
衝撃が船を襲った。砂塵が船のすぐ横まで舞い上がっていた。
ナガレの一撃はなかったが、ロザリアの照明弾が空に浮かんで現場を照らしだした。
『命中した。敵消滅。すげー』
さて本命の敵がいる方を索敵すると、案の定、爆風にやられた者がいたようだった。
こっそり付いてくるからそうなる。
おまけに砂塵にはロックゴーレムの強力粘着液が混ざっていたので、事態は悪化していた。
結界でもしてなきゃ、これ以上の追撃は不可能だ。と思ったのだが、敵は仲間を離脱させながらも、追跡を諦めてはいなかった。
「ほんと面倒な連中だな。最大船速、次だ」
部隊の再編に手間取って、若干距離が開いたが、まだやる気だった。
こちらはその間を利用して、先回りしてロックゴーレムの上を越えると射程ギリギリまで離れて回頭し、突撃遊撃隊の接近に帳尻を合わせた。
「撃て!」
リオナがスリングを放った。
闇のなかを魔法の矢がロックゴーレム目掛けて飛んでいく。そして、二度目の爆発が起こる。
衝撃波がやって来る!
今度は見事に巻き込んでやった。
「急速離脱!」
追撃してきた連中は前回を凌いでいることからも結界持ちだ。だから今回、完全に巻き込む形で撃ち込んだ。
容赦はこれまでだ。三度目の警告はない。次はナガレの雷の直撃が降ってくることになるだろう。
幸い追撃はなされず、ロックゴーレムの三匹目は『魔弾』で撃ち抜いて終わった。
「チコの出番は?」
チコ・ソルジャーが上目遣いで抗議する。
「蠍を頼む。一気に燃やしてくれ」
風の鏃を回収する代わりに、僕は『爆炎』を仕込んだ鏃を渡した。
蠍は豪快に燃えた。わずかな時間、砂漠に無数の灯籠が点いたようだった。次のフェンリルに向かおうとしたら、姿が消えていた。
さすがにこちらの動きを察知したようだ。地竜も進路を変えて砂漠に向かいつつある。あいつらならサンドワームを退けられるかも知れないが、五分五分だろう。
「戦闘態勢解除!」
僕は子供たちをまず解放した。
「さあ、みんな手を洗ったら夕食ですよ」
ロザリアが言った。子供たちは一斉に洗面台に並んだ。
「ご飯何?」
「フフフ…… リオナは知ってるのです。モチモチチーズパンとステーキなのです。コーンスープもあるのです」
「おおっ」
子供たちは感嘆の声を上げた。いつもと変わらんだろ? どの辺が感動の要因だ?
「さあ、旅団のみなさんもどうぞ。席についてください」
席と言っても、数が圧倒的に足りない。皆ふかふかの絨毯に直に座り込む。冬ならコタツがあるのだが、今はテーブル部分だけしかない。
「今日のお肉は何?」
「フェイクなのです。ハンバーグがいい人はそっちにするのです」
「チコ、ハンバーグがいい」
「俺、両方がいい」
「ハンバーグ二個はあり?」
いつものように騒がしいことになった。テトはまだ操縦席だ。
「フェイクって? なんの肉なの?」
アンが側にいたチッタに尋ねた。
「ドラゴンです。フェイクドラゴン。あ、ハンバーグにも入ってますから、気兼ねなく選んでくださって大丈夫ですよ」
今回の肉はすべて調理済みだった。生肉も持ってきているのだが、魔物がいるような場所では焼き肉はできないので、考慮してのことだった。
「ドラゴン……」
旅団のみんなは唖然とした。みんな遠慮したのかハンバーグを指定してきたので、「余ると困る」とか言い訳をしてステーキ肉をサイコロ状にカットして全員の皿に盛った。
「夏休みは忙しい4」、砦に着いたところでガッサンたちとはとりあえずお別れなのですが、描写が中途半端でしたので、追加しました。m(_ _)m




