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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
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夏休みは忙しい(バルトゥシェクの砦)4

「エルリン、声がするのです!」

 突然、リオナが操舵室に飛び込んできた。

 僕は急いで船を減速させる。

「ガッサンだよ」

 ピオトが第二報を伝えに来た。年上なのにすっかり同列扱いされてるな、ガッサン君。船酔いの醜態が不味かったか?

「用件は? 何か言ってた?」

「二人乗せてくれって」

 ピオトは右舷を指差す。すると街道沿いを進む、キャラバンの群れが見えた。

「チッタに言って、方角の確認しておいてくれ。砂漠で迷子はいやだからな」

「大丈夫だよ。まだミコーレの位置もわかるし、街道も見えるから」

 ピオトが言った。

「じゃ、船を回すぞ」

 僕は船の向きをキャラバンに向けた。

 大きな商隊だった。半分は護衛の部隊だ。

 ラクダの上から手を振る奴がいる。

「間違いないな」

 ガッサンを確認した。

「船を降ろすぞ」

「待って、ゲートを積んできたんだ」

 ロメオ君がテトと一緒にやってきた。

「ゲート?」

「前々から乗り降りが面倒だと思ってたんだ」

 操縦をテトに替わると僕はロメオ君の後に続いて、格納庫に下りた。

「ここにね」

 見慣れないクローゼットぐらいの木製の扉があった。

「じゃーん。自足型転移ゲート」

 そこには紛れもないゲートが置かれていた。

「どうしたの?」

「お姉さんがくれたんだよ。一個無駄に作ったとかで」

「絶対嘘だな」

「照れ隠しだよ。この間のお礼だって」

「ネーロの?」

 ロメオ君は頷いた。

 約束の別荘用自足型ポータルのついでか。

「ゲートは『紋章団』の指輪の個別識別だから、子供たちには使えないって。ゲートを作動させてやって、こちらでセットした魔石の分だけ人を外から送り込めるらしい」

「じゃあ、向こうが二人と言ってるし、二人程連れてくるよ」

「じゃ、三つだね」

 そう言うと魔石の投入口に専用の魔石を三つセットした。

「ラクダとか、荷物はどうなるんだろ?」

「先に荷物から送ってよ。こっちで補充するからさ」

「それじゃ、大体の荷物の量と消費量の関係計っておいてくれる?」

「分かった」

 僕は甲板に出た。通信士役にオクタヴィアを肩に貼り付かせている。

「じゃあ、行ってきます」

「気を付けて行ってらっしゃいなのです」

「そっちもワームの接近には気を付けろよ」


 衆人環視のなか、フライングボードでガッサン君の元に滑り降りた。

「久しぶり、元気だったか?」

「肉うまかったぞ。また会えて嬉しいぞ」

 第一声がそれかよ。

「なんの用だ? まさか肉の注文じゃないだろうな?」

「南に偵察に行くんだろ? バルトゥシェクの砦まで一緒に乗せて行ってくれよ」

「こっちはいいのか?」

 商隊の方を見た。

「こっちが相乗りさせて貰ってたんだ」

「で、もうひとりは?」

『ミコーレの突撃将軍』こと、ヒクマト・へサーム氏だった。キャラバンの代表者と話を付けていたようだった。

「久しぶりだね? エルネスト君」

「お久しぶりです。将軍」

 将軍のくせに腰が低いんだよな。娘を助けたせいで、身内ぐらいに思われてるのかな?

「済まんな、無理を言ってしまって。こちらも例の件で偵察に急ぎ向かう途中だったんだよ。申し訳ないが頼めるかね?」

 断る理由もないので、持ち物から投入することになった。

 ラクダ一頭に魔石が二つ必要だったらしい。オクタヴィアがストップを掛けた。

「待って。魔石の補充する…… いいよ。次のラクダ」

 ラクダの背にふたり分の食料やらなんやらが乗っていることを考慮しても、結構な浪費だ。姉さんのことだからわざとやってるんだろうけど。一気に魔石を七つも消費した。魔力でも補給できるはずだったのだが、恐らく子供たちの安全対策のためだろう、魔力での補充ができないようにされていた。

「こりゃ、凄いな」

 ラクダと一緒に乗り込んできた格納庫を見回しながら、将軍が感心している。ガッサンの方は二度目なので、勝手知りたるという奴だ。

 いつの間にかラクダ用の簡易厩舎が作られていた。確かに糞などされてはたまらないからな。後で砂漠にポイできるように、アイシャさんが簡易部屋のユニットの床に砂を撒いたのだ。

 部屋には消臭結界が張られていた。

 子供たちはラクダが珍しくてあっという間に溜まり場になった。

 将軍の相手は先客のサリーさんにして貰おう。

 ガッサンは船酔いを克服したようで、船のなかを駆け回っていた。アイシャさんの姿を見つけるとやはり一瞬固まっていた。

「兄ちゃん」

 ピノがやって来て、上目遣いでおねだりである。

「肉積んできたのか?」

「決して忘れない」

 自慢げだ。

「将軍もいることだし、余り騒がしくするなよ」

「やった! え? 将軍?」

「どした?」

「ガッサンのお父さんだよね?」

「そうだが」

「ガッサンってもしかして偉い?」

「程々には役に立ってるんじゃないのか?」

「オーマイガッ!」

「何語だよ? マーベラスとの違いは?」

「マーベラスは最高。オーマイガッは最低」

「分かりやすいな」

 ピノの頭のなかでは、序列の組み直しが急速に行なわれていた。あんまり気にしなくていいぞ。オクタヴィアですら下に見てるんだからな。

「出会いは重要だな」

 うちのパーティーではすっかり使いっぱしりが板に付いてる。

 お昼はそんなわけで、甲板で焼き肉パーティーになった。

「やはり、うまいな」

 親父さんもドラゴンの盛り合せにご満悦だ。よかったよかった。

 案外移動式レストランとかできるんじゃないだろうか?


「見えてきたぞ」

 バルトゥシェクの砦の姿が飛び込んできた。城門が閉じられ、城壁には大量のバリスタが配備されていた。前回来たときよりも殺伐とした雰囲気になっていた。

 サリーさんが将軍たちと一緒に砦の責任者の下に赴いた。

 僕たちはその間空中待機である。

「おーい、おーい」

 バリスタの準備を進める兵士たちに子供たちが手を振っている。


 しばらくするとサリーさんが地図を持って戻って来た。

「このルートを飛んでくれ」

 それは旧アシャール公国を横断するルートだった。

「いいんですか?」

「砦の司令室では既に共同作戦が組まれていたよ」

「じゃ、問答無用で」

「この旗を掲げておいてくれ」

「暫定政府の?」

「通行許可証代わりだ」

「反対勢力に狙われたりしません?」

「反対派は南部に逃げたらしいからな」

「じゃあ、難民に紛れて出戻って来たら大変じゃないですか?」

「そんな悠長な事態じゃないらしいぞ。今は孤軍奮闘してるコートールーに冒険者も傭兵も集まって来ているが、瓦解するのも時間の問題らしいからな。奴らにしてみれば挟み撃ちを食らったようなものだ。政略どころではないだろう」

 地図にはアシャールとミコーレの防衛ラインが記されてあった。どこで侵攻は止まるのか。

「砂漠にはワームがいる。砦を抜かれたら、人も魔物もワームの餌食だろう」

「ここがギリギリのボーダーラインってことか」

「我らの任務は急ぎ原因を究明し、戻ることだ」

「ガッサンたちは?」

「砦で指揮を執るから戻らんぞ。後はよろしくだそうだ」

 僕たちは急ぎ、ふたりのラクダを簡易小屋ごとワイヤーに吊して降ろした。


「発進する!」

 リオナはスリングを出した。

 ピノとピオトもロメオ君も取り出した。

「あんたたちそれは?」

「魔法の矢」

「スリングに番える物が矢のわけないでしょ」

「『アローライフル』までの繋ぎ」

「敵をできるだけ殲滅することに力点を置いて、広域戦闘を想定して範囲魔法をセットしておこう」

 僕は魔石を加工して、圧縮する。それにアイシャさんが術式を施して行く。僕がクヌムの町の交換屋で両替してきた魔石の内五十個を鏃に充てた。元は魔石(大)の石だから破壊力は抜群だ。

 船は砦の横を通過して旧アシャール公国領に入った。



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