表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十一章 夏休みは忙しい
565/1072

夏休みは忙しい(ミコーレ上空)3

 工房は大騒ぎになっていた。

「大変なことになったな?」

 棟梁が声を掛けてきた。

「まったくですよ。でも、ヴァレンティーナ様の船が使えないんじゃね」

 そう言いながら結婚式のために化粧を施している二隻の船を見上げた。

さすがにあれだけ磨き上げた船を魔物の群れに飛び込ませようものなら、ここのスタッフも黙ってはいまい。

「で、こっちは大丈夫なんですか?」

「元々弄ったのは外周りだけだ。組み上げるのは問題ないんだが、すべてのパーツの入れ替えが済んだわけではないからな。船全体のバランスがな。錘で調節するしかないんだが…… 余り無理はせんでくれよ」

 改良が済んでいる箇所と、いない箇所の説明を受けた。換装の済んでいない箇所の外したパーツを元に戻す作業が続いている。

 明日までには飛べるようにしておくとのことだったが、お互いいい迷惑である。

「もう一、二隻、この町にあってもいいんじゃないですかね?」

「まずは飛行船の運行が第一だからな。運用体制を強化するにはあと何隻かいるだろう。守備隊への飛空艇配備はその後だろうな。王都とのバランスを考えると、国王の旗艦が完成するまでは、造れんだろうな」

「いっそ貸し出そうかな?」

「馬鹿を言うな。ミスリル製の宝船だぞ。止めておけ」

 棟梁と別れ、帰宅して予定をサリーさんに告げると、サリーさんは自分の部署に戻っていった。緊急で集まった子供たちは明日の出立が決まった後は、夕飯まで我が家に居着いた。


 コートルーまでどれくらいの日数になるか。距離的には噴火のあった村までとほぼ変わらないようだが、それはあくまで直線距離で、旧アシャール公国の領地の上を通った場合である。

 迂回して、コートルーに向かうとなると数日のロスは否めない。あそこはまだ暫定政府だし、強行する手もあるのだが。

 雲の上から一気に魔物のテリトリーに降下して、誰にも見られず、情報だけ集めてサッサと帰るのが一番だ。空を飛ぶ敵がいたなら、やらないわけにはいかないだろうが、それはそれだ。

 物資の補給は商会の方でやってくれるそうなので、特にこちらがすることはない。

 万が一、パスカル君たちの来訪に間に合わなかったときの対応だけ、アンジェラさんにお願いしておいた。まあ、二十日あれば戻って来られるはずだが。

 問題はその後だ。どういう事態になるか。どの道そのときは、僕らは欠席だ。パスカル君たちと大いに遊ぶのだ。アースドラゴンだって見て貰うのだ。



 翌日、日の出と共に僕たちの船は工房のドックから飛び立った。

 そして朝、定時の鐘楼の鐘の音と共に上空の結界障壁が解除され、僕たちは旅だった。

「何とかなりそうか?」

「慣性航行は問題ないけど、旋回するとき歪む気がする」

 テトは操縦桿を握りながらそう言った。

 後部の羽根の換装は終ったが、前部の姿勢制御用のフィンは旧来通りだ。物はできていたのだが、『浮遊魔法陣』の手配が済んでいなかったのだ。おかげで船全体が前のめりになっているところを船尾の各所に着けた錘でカバーしているのである。

 いつになくデリケートな飛行が要求される。

 砂漠を一直線だから、魔物に襲われなければ問題ないだろう。


「涼しい……」

 子供たちが窓から入ってくる冷えた空気に身をさらした。

 操縦席を見ると、手慣れたもので、テトは一度方向舵を動かした以外は自動航行にして、成り行きに任せていた。

 今回は前回の反省から山ほど魔石を積んでいる。おまけに加工用に大量購入したものも袋に入ったまま腹のなかである。前回のような事態になる前に撤収する予定だが、気は大分楽である。

 テト以外の子供たちは涼しい場所を見つけると寝転がって、仮眠を取り始めた。

「どうしたんだ?」

「宿題を徹夜して済ませてきたんだそうです」

「どうせ暇なんだから、船のなかですりゃいいのに」

「あの子たちにも思うところがあるのでしょ」

「忘れていたいだけなのです。バカンスはバカンスなのです」

 バカンスじゃないって。

 僕はデッキに出て船の外周のチェックを行なう。突貫工事だっただけに心配だった。

 今になって思う。ミスリルのパーツはやはり外側ではなく、内側に使うべきだったと。骨格辺りから始めればよかったのだと。万が一部品が欠落したらと思うと気が気ではない。方向舵一枚でいくらすることか。

「塗装も所々済んでないし」

 地上を見下ろすと、空中庭園が見えた。池の周りには様々な獣たちが屯していた。段々、森の住人たちにも認知されるようになってきたのかな?

 砂漠に入ったので、全員が持ち場を交替した。

 次の交替は正午だ。僕も操縦席に向かった。

「なるほど、反応が微妙にずれるね」

 調整する暇もなかったから操舵系のチェックもいつもより甘かった。

 方角を戻すと、自動航行に移行した。街道は外れるが、角度的にミコーレへ一直線のコースだ。もう何度このルートを通ったか知れない。

 上空を飛ぶ飛行船が見えた。

 どうやら同じルートを行くようだ。


 あっちの方が早い?

 しばらく追尾していたがとうとう置いて行かれた。気流の情報を把握することの大切さを痛感した。

 試しにギリギリまで高度を上げてみると、『浮遊魔法陣』の効果は薄くなったものの、気流の流れに乗ったせいで、速度的にプラスの状況を作り出せた。

 そのまま飛行船の後を追ったが、こちらは帆を出していないので結局見失うことになった。

 それでも予定より早くミコーレを通過した。

 まだ日が沈んでいないなんて奇跡だな。と思っていたら、飛行船の夜行便が折り返し出立するところだった。

 戻ったら後学のために飛行記録を見せて貰うことにしよう。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ