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マイバイブルは『異世界召喚物語』  作者: ポモドーロ
第十章 青嵐到来

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閑話 西方戦線異状あり2

 実際の演習に参加した。行なうのは殿下本人と部下の数人だ。同行するのは新たな武器を配給される側の責任者たちである。「このご時世に前線を空けるなどとは」と飛空艇を期待していた連中はあからさまに不平を並べた。首を刎ねられても文句が言えない無礼な態度だったが、殿下は楽しそうだった。彼らが宗旨替えすることを確信しているかのようだった。

 わたしはいくら殿下が側にいらっしゃっても、正直、着の身着のままの軽装で防衛ラインを越えるのは怖かった。

「来て欲しいときに来んとは、世の常であるな」

 殿下は新型の銃を担いで気楽なものである。

 フライングボードに乗った部下が偵察から戻ってきた。空を飛ぶ人間を見たのはこのときが初めてだった。

 第一師団も聖騎士団に遅れを取ったが、ボードの運用を開始したらしい。

 マギーの家は儲かって仕方ないだろう。わたしは大きな溜め息をついた。同世代の商人に出し抜かれるのは結構鳩尾に来るものがある。

「西南、数、二。フランクたちがこちらに引っ張ってきます。ご用意を」

 空から滑るように下りてきた部下が叫んだ。

「視界の開けた場所に急げ!」

 殿下が呼応して命令する。森に詳しいものが道案内を務めた。

「大丈夫だ。周囲に敵はいない」

 殿下がわたしを気遣ってくださる。兵士の使っていたフライングボードが気になっただけなのだが。

 空から下りてきた部下はボードを盾にして殿下の脇に貼り付いた。どこかで見たことがあると思ったら『スプレコーン』の盾だった。それはボードと盾を組み合わせた品であった。

 部下が回復薬を口にした。万能薬だ…… 魔法使いではないから、薄めたものだろうが。この程度のことで本来消費されるべきものではないはずだ。さらに別の者の腰袋から取り出した魔石を装着して、これから起こることに備え始めた。スピードを何より重視してきた遊撃隊のほぼ全員が盾を装備するのは異例なことだ。それだけ取り回しがいいということか。

 上空をフライングボードの影が通過した。

「火竜、二。来ます!」

 言われなくても見えていた。我々は少し小高い丘に陣を構えていた。過去の戦闘で周囲の木々は既に薙ぎ倒され、ちょうど見晴らしがよくなっていたのだ。

「構えッ!」

 新型銃を持つ者が合図と共に構えた。

 まだ敵は点にしか見えないが。

「副長の隊は二匹目を狙え。先に来る方はわたしが仕留める!」

「距離…… 千メルテ」

 そろそろだ。

「発射ッ!」

 バシュッと一回り大きな矢が空高く、筒から飛び出した。そして、勢いを増して遠ざかり、あっという間に視界から消えた。

 すぐさま望遠鏡を握りしめると殿下は目標を追った。

 空で破裂音が炸裂した。

「命中ッ!」

 一匹が落下した。

 更に部下のひとりが後方の一匹に放つ。破裂音が轟いた。

「落ちてきます! 警戒!」

 命中したはいいが、二匹目は片翼を奪っただけだった。巨体が錐揉みしながら勢いを付けて地上に落ちた。前面の森に落下して、木々をへし折った。

 怒り狂った火竜は、折れた翼はそのままに立ち上がると、こちらを見つけ、怒りの咆哮を上げた。

 殿下は仲間の発砲を待つように言った。

 代わりに盾持ちが周囲に展開した。

「盾の実験もできるとは僥倖だ」

 殿下は次弾を装填すると、銃をわたしに手渡した。

「試してみろ」

 この状況で商人に撃たせようというのか?

 火竜が迫ってくる。森の木々に火がつき始める。

「あれだけはどうにもならんな」

 森が焼けると魔法使いの出番になる。こればかりは代わりがいない。

「さっさと始末して消火活動に入ろう――」

 火を吐いてきた!

 わたしたちは自分たちの死を覚悟した。が、炎は展開された見えない壁に阻まれていた。

「お早く。魔力が持ちません!」

「火竜程度で何を情けないことを! これの開発者はドラゴンのブレスにも耐えたそうだぞ!」

「魔女の弟と一緒にしないで下さい。こっちは生粋の騎士なんですからね。魔力なんて爪の垢ほどしかありません」

「ギルバート、撃て!」

 僕は構えた。

 そして息継ぎをするため、火を吐くのを中断した刹那、火竜に向けて発砲した。

 バシュ。勢いよく飛び出した魔法の矢は一直線に頭を目掛けて飛んでいった。


 頭が跡形もなく吹き飛んだ。残った長い首がだらりと落ちた。ズンと巨体が地面に沈んだ。

 観客たちは呆然と状況を見つめていた。どれ程長く呆けていたのかと回想もできぬ程に、ただ黙って木偶のように立ち尽くした。

「鏃と銃には通し番号が入っている。同じ番号の物以外使用できない設計になっている。大人の事情という奴だが、くれぐれも違う番号で使おうなどとは思うな。弾数は充分あるはずだ。それと管理は徹底しろ、一丁でも紛失したら、その部隊はこの地から未来永劫帰れないと思え。在庫の確認は週に一度は必ず行なえ。足りない物資はそのとき発注しろ」

 何人が殿下の言葉に真摯に耳を傾けていただろう。目の前の亡骸をまだ呆然と見つめていた。


 殿下が中央にお戻りになってから、装備は各方面に均等に配られた。

 数は威力を知らぬ者には少な過ぎると思われる数字であったが、補給担当の我々は充分であると確信していた。三分の一を砦の迎撃用に、三分の一を討伐隊に。残りは点検時の予備である。

 飛空艇は購入でき次第、前線にまわされることになったが、一年に数隻程度になるだろうと殿下はおっしゃった。


 数日後、提出した休暇願いが受理された。

 一度、スプレコーンを見ておきたいと思ったからだ。そして、必要なら親父を説き伏せなければならない。



 隊を後にしたわたしは最寄りの町からその日のうちにスプレコーンに飛んだ。さしたる知り合いもいないので、同じ境遇で同期だったマギーの家に厄介になることにした。手紙は着いていると思うのだが。

 呆れるほど美しい城壁を見上げながら、わたしはマギーの家の使いを待った。

 すると定刻通り、マギー本人が現れた。

 しばらく会わない間に少し痩せたか。

「いらっしゃい。御曹司」

「その呼び方は止めてくれないか。ギルバートと呼んでくれ」

「ハルバートじゃなかったの?」

 これだよ。

「手紙にも書いたが、飛空艇を見せて貰えると有り難いのだが」

「承ってますよ、工房は見せられませんけど、完成品なら見せてさしあげられます。できればご購入いただけると嬉しいのですが」

「うちの商会にはドラゴン退治を冒険者に依頼できるほどの資金はないよ」

「ご謙遜、ご謙遜」

 まじだって。依頼するだけでどれだけ掛かると思ってるんだ。A級以上の冒険者を貸し切りでドラゴンを見つけ出すところから始めるんだぞ。商会の一年分の稼ぎを全額投資したって冒険者に万が一があったら水の泡だ。いくら見返りが大きいからって、そんな博打ができる商会なんてそうそうありゃしない。

 連れられていった工房横のドックには新品の飛空艇が何隻も並んでいた。

「壮観だな」

 一隻だけ形状も大きさも違う船があった。

「あれは?」

「飛行船です。戦闘用ではなく、遊覧観光用です。初期型の船を点検するついでに改修したところです。元々浮力と帆による推力だけで進む乗り物なんですが、今回補助機関として飛空艇のコアユニットも搭載したんですよ」

「言っていることがよくわからんのだが」

「ごめんなさい、そうでしたね。あの、これ」

 飛行船の搭乗券を手渡された。

「明日の朝の『早朝クルーズ』のチケットです。朝日を拝める人気クルーズなんですよ。一年待ちのプレミアチケットです」

「いいのか?」

「ぜひ。うちの商会が押さえてる年間チケットです。問題ありません」

「ずるはいけないのです」

「わっ!」

 小さな獣人の女の子が突然声を掛けてきた。


二話で終るはずが……

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