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エルーダ迷宮侵攻中(金羊毛)35

 僕たちはボスらしき者が落としたアイテムと魔石を回収すると、チョビとイチゴの背中の上で服や本を魔法で乾かしながら、地下四十一階に続く出口を探した。

 瓦礫が折り重なった砂丘の先に断崖絶壁が見えてきた。ようやく道らしきものを見つけた。


「間違いない。いつもの階段だ」

 脱出部屋に続く見慣れた階段だった。

 僕たちは階下に下り、脱出ゲートから外に出た。

「どっと疲れた」

 帰ろ、帰って風呂に入りたい。

 全員の意見が一致したので、早々に転移して帰宅した。

 修道院に預けた大量の荷物の回収は明日にしよう。当然、明日の攻略はお休みだ。


 とは言え、エルーダ迷宮でやることはあった。一つは、四十階層の迷路において、転移ポイントを例の中庭に戻すこと。そして、その近くの祠で羊の戦鎚を十本、どうにかすることであった。

 結果、連戦が終わり、ようやく休みを設けられたのにもかかわらず、全員で迷路の三階を下りたところまでリピートすることになった。


 翌日はのんびりと、でもいつもより楽しげに迷宮に出かけた。振り子列車のなかでも、堅い話など一切なく、和気藹々とお茶会を楽しんだ。

 きのうの水没の一件でオクタヴィアのクッキー缶の中身が無事であったことから、そのことが話題に上がると、オクタヴィアは鼻を高くした。

 ヘモジはその様子を、缶のなかのクッキーを頬張りながら眺めていた。

 予備があるとはいえ、一応みんなの非常食なんだからな。からかうためだけに全部食うなよ。

 ヘモジがげっぷをした。気付いたオクタヴィアと戦闘が勃発した。

 ナガレはアイシャさんに羊の戦鎚をちゃんと十本持ってきたかとことあるごとに確認していた。アイシャさんが、無表情でこちらを見つめる。怖い。

 そこに馬鹿な黒猫と小人が飛び込んで行く。ふたり揃って鷲掴みにされて、ゴミ箱に投げ込まれた。あの俊敏な動きを鷲掴みにするとは…… アイシャさん恐るべしである。ナガレもどん引きしている。

 ロメオ君はしわくちゃになった『魔物大全』の頁を復活させるべく奮戦していた。厚手の表紙を開いた状態で、よれよれの頁だけを文鎮で押したり、伸ばしたりしていた。

 大きな溜め息が聞こえた。

 やっぱり駄目か。新しいの注文しておこう。

 リオナはお茶菓子を食べ尽くすと、食器をバスケットに戻し、立ち上がった。

 ガコンと車両が揺れた。

 エルーダ村に着いたようだ。


 迷路のなかでは部屋を確認することもなく、殲滅戦をすることもないので、移動は実にスムーズだった。遅い始動であったが、午前中のうちに中庭まで辿り着いた。

 昼を食べて、いよいよ、羊である。金色の羊の戦鎚は存在するのか? 金色の羊毛とはなんなのか。謎に迫るときが来た。


 僕たちは祠へ通じる階段を下りていく。崖の岩場に沿って作られた石の階段は苔と波飛沫で濡れて滑りやすかった。手摺りは木でできていたが、腐りかけていて信用ならなかった。途中で何度も殺人蜂の襲撃を受けたが、すべて燃やし尽くした。

 祠は崖の底、海辺の海面ギリギリに位置していた。

「満ち潮で水没とかないだろうな」と軽口を叩きながら、洞窟のなかに足を運ぶ。

 どうやらそれはなさそうだった。なかの調度は濡れた様子がなかった。

 洞窟の突き当たりに、社があった。神託用の池があった。膝ほどの高さの、タイル貼りの土手に囲われた人工の池だ。

 奥の方まで光が届かなかったので近場の松明に火を灯した。

「さて、何をすればいいんだ?」

 ヒントになるような、記載がどこかにないか確かめる。

 奥の部屋も満遍なく探すが見当たらない。

「あった!」

 ナガレが探し当てた。それは池を囲むように部屋隅の床に穿たれたちょうど十個の穴だった。

「ここに挿すんじゃないの?」

 試してみる。アイシャさんの魔法の袋から取り出したように見せかけて、取り出した十本の戦鎚を手分けして穴に挿していった。

 すべて挿し終るとゴリゴリゴリと音が鳴り始めた。すると天井の一角から光が差し込んできて噴水の池の水面を照らし出した。同時に羊の戦鎚がくるくる螺旋を描きながら穴のなかに沈んで消えてしまった。

 池を囲う壁の栓が開いて、水が床に溢れ出し、戦鎚が消えて空いたままになっている穴のなかに流れ込んでいった。

 僕たちは咄嗟にタイル貼りの土手に上って事なきを得た。

 よく見ると床に勾配が切ってあって、水が満遍なく十箇所に流れ込む仕掛けになっていた。

 そして、池の水がすべて抜けると、池の底が動き始めた。がくん、がくんと床が扇形に沈んでいき、十段の階段が現れた。下りた先には重厚な扉があった。

 僕とロメオ君が力の限り扉を引いたら、あっさり開いて転びかけた。


 そこには一振りの金色の戦鎚が置かれてあった。そしてもう一つ。羊の面である。面と言っても、かなり精巧にできていて、頭からすっぽりかぶる被り物に近かった。こちらはただの木彫りの面だが、どこか異様な雰囲気がある。

「あっ、こら!」

 オクタヴィアとヘモジがお面を取った。僕たちは周囲を警戒する。

「罠だったらどうする気だ?」

 もうかぶってるし……

「ナーナ」

 ヘモジがお面をかぶって間抜けな姿をオクタヴィアに晒している。

「ただのお面か?」

 アイシャさんがほっと胸を撫で下ろした。オクタヴィアには大きすぎるのでヘモジがかぶり続けるようだ。

「見つけたわよ。金の羊毛製造器!」

 ナガレが鎚の載った台座の前で仁王立ちして指を差す。

「罠はないですか?」

「罠を張る理由はないと思うけど」

 そう言いつつ魔力の流れがないか確認する。僕には発見できなかった。

「お面で安心させておいて、こっちでとか?」

 ロザリアも心配性だ。

「あくまで報酬だもんね。報酬が罠だったら泣くに泣けないよ」と言いつつロメオ君は獲物から遠ざかる。

「念のためにナガレ以外は部屋を出よう」

 ナガレを残して、みんな部屋どころか、池のなかからも出た。

「大丈夫か? なんかあったら再召喚な」

「がんばれ、ナガレ」

「がんばって、ナガレちゃん」

「薄情者ッ!」

「さっさと取って来るのです」

 召喚獣は死なないからと言って、あんまりな気もしないでもないが、一番欲しがっていたのもナガレだしな。仕方ないだろ。

「早くする」

 オクタヴィアも遠慮がない。

「うるさいわね。今持って行くわよ」


 結果、何ごともなく回収できたわけだが、「どう使うんだ、これ?」ということになった。

 付与効果は『羊毛を金に変える』とあるだけだった。以前にも問題になったが、金に変わったらもうそれは羊毛とは言わないんじゃないだろうかということで、実際に狩りで使ってみることになった。

「羊毛と言えば」

「眠り羊なのです」

 なんか違う気もするが、この迷宮で羊と言えば眠り羊である。時間的に狩り尽くされているかも知れないので、狩りは明日の朝やることにして、本日はクヌムで羊毛を買って試すことになった。

 結果分かったことは、金色に染まった羊毛になるということだった。洗ってもこすっても金色が剥げることはなかった。

「これはこれで凄いよね」

「これで何作る?」

「金色のマフラー」

 そういや、子供たちにプレゼントするという罰ゲームを考えていたんだったな。

「ほんとは自分が着けたいのです」

 こっそりリオナが僕に囁いた。ま、いいけどね。


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