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エルーダ迷宮侵攻中(殺人蜂・ジュエルゴーレム・ミノタウロス編)32

 僕たちは螺旋階段を下りた。ちらちら見えるミノタウロスを始末しながら、下へ下へと下りていった。

 燭台以外何もない石煉瓦の長い通路に出る。左右にあるのは鉄格子の牢屋だ。どうやらここは留置所のようだ。

 明かりも暗めになっていた。こちらで勝手に明るくするので構わないが。いきなり強烈な魔力の弾が飛んできた。

 一瞬結界が持って行かれた。

「気を付けろ! 魔法のレベルが違うぞ!」

 アイシャさんが叫んだ。さすが、一撃で気付いたか。

 全員が反撃の一撃を放つ。

 一瞬暗闇に障壁が光ったが、貫通した一撃が敵の身体を貫いた。

 ロザリアが明かりを向けた。

「結界持ちだったね」

「どっちに反応したのかな?」

「リオナの一撃が早かったのです」

「ということは物理結界か?」

「次に会ったときに試せばよかろう。結界は一枚じゃ、同時攻撃で貫ける」

 近づくと魔法使いには不釣り合いな頑強な肉体をしたただのミノタウロスが転がっていた。不釣り合いな杖に大きな宝石を宿していた。

「『魔石モドキ』……」

 いりません。

「今の一撃、こいつに溜まっていた魔力を放出したようじゃな。これだけ魔力が減っていると売り物にはならんの」

「ミノタウロスが魔法なんて変だと思ったんだ」

「だが、少なくとも杖のおかげでスペリアより強力な魔法を放ってくるぞ」

 オクタヴィアが僕の肩に避難してきた。

「注意していこう」

 全員が頷いた。

 注意したのがよかったのか、先制を食らったのは後にも先にもあの一回だけだった。敵の名はミノタウロスジェイラーとあった。看守という意味らしい。

「出口だ!」

 ようやく、三階脱出である。大きな両開きの扉が待っていた。

 リオナとナガレ、ヘモジとオクタヴィアが駆け寄り、扉を押した。

 暗闇に光が差し込んできた。

 四階の景色が飛び込んでくる。

「またここからマッピングか」


 マッピングはいらなかった。

 出た先は採掘抗の出口だった。

 ここはあの巨大建造物を建設するために利用された石切場のようだった。

 見渡す限りのオープンスペース。こちらが上手で、出口は恐らく下手だ。その間、敵の軍勢で埋め尽くされている。

「恐らくここがミノタウロスの村なのだろうな」

「あんなでかい宮殿があるんだからなかに住めばいいのです」

「あんな天井の低い建物はごめんなのよ」

「ナーナ」

「迷路だし」

「ごもっとも」

 リンクは必至。元採掘現場だ。入り組んではいるが逃げ場はない。奴らが入れないサイズの坑道が恐らく唯一の安全地帯だろう。が、塞がれたら終わりかな。なかで戦闘回避用の近道が通っている可能性も無きにしも非ずだが。期待し過ぎか。

「取り敢えず、羊を持ってるか確認してくれない」

 ナガレが言った。

 望遠鏡を使ってミノタウロスたちの装備を確認する。

 釣り竿で釣りしてるし……

 ざっと見た感じでは羊持ちはいなかった。あるとしても家のなかだろうな。瓦礫を組んだ家が点在していた。

「どうやって攻略する?」

 ロメオ君が聞いてきた。

「範囲が広すぎて一網打尽にはできないよ。見つかったら最後、こっちが囲まれる」

「橋を落としたらどうじゃ?」

 採掘場には川が流れていた。幾つも支流が引き込まれていて、エリアは広いがそれぞれ分断が可能な様子だった。勿論ミノタウロスが泳げなければだが。少なくとも装備を付けたままでは苦労することだろう。

 はて…… 今ふとよからぬことを思い付いたのだが。

 僕は周囲の地形を見回した。

「楽しみは明日に取っておくか?」

「え?」

 本日はこれにて解散ということになった。このエリアのすべてを回収しようと思ったらそれだけで大仕事だ。倒したはいいが回収する時間がないというのは悔しい。だから撤収である。


 リオナは約束通りナガレを連れてメルセゲルの村に布を買い付けに行った。

 僕は回収品を転売してから、家に戻ると明日鏃に使う魔石に仕掛けを施した。


「買って来たのです」

「ありがとう」

「これでいいですか?」

 赤紫色のきれいな布だった。ドレスにしたらさぞ映えるだろう、見事な織物だった。店の人はきっとリオナに似合う色を選んでくれたに違いない。勿体なかったが僕たちは決まった大きさに布を切り分けていった。

「宝石も着飾るのです」

 これで少しでも買値が高くなってくれればいいが。早速今日取ってきた石を加工して、布で包んでやる。

「これ貰っていいですか?」

 ピンクの石に赤紫色の布がきれいにマッチしていた。僕は頷いた。

 リオナは嬉しそうに両手で抱えると自室に持ち帰った。


 このことが切っ掛けになってリオナたちが持ち寄る布に急激な需要が起こった。ただでさえ高価な布が更に何倍もの値段で売れまくったのである。どうやら宝石を買ってくれた裕福な方々に布のサンプルを提供する形になっていたらしい。

 人気が下火になるその時まで、迷宮の帰りにリオナ、ナガレ、ロザリアは反物を持ち帰るのが日課になるのである。


 翌日準備を済ませると僕たちは振り子列車に揺られて、いつも通り迷宮に向かった。

 作戦会議において「四階攻略は一日掛かりだよね」と言うロメオ君の言葉に「多分すぐ終る。アイテムの回収の時間だけで済むだろう」と僕は返した。

「何するですか?」とリオナが尋ねるので、僕は土の魔石で作った鏃を見せた。

「一個だけ大きさが違うのです」

「魔石(大)で作った」

「ちょっと、大丈夫なの?」

 ナガレが訝しんだ。

「『闇の信徒』を出さないためにこの方法を取ることにしたんだ」


 転移で、四階入口に着くと、早速準備を始めた。

「攻略ポイントは四つ。あそこと、あそこと、あそことあそこだ」

 アイシャさん以外、全員が首を傾げた。

「なるほどの」

 アイシャさんだけは頷いた。

「では行きます」

 僕は一番大きな魔石を放った。長い滞空時間の後、遠くの空の向こうで魔法陣が発動した。そして、ドンピシャで巨大な岩が川の本流上空に現れた。大岩はゆっくりと落ちていった。

 リオナもオクタヴィアもナガレもヘモジもロメオ君もロザリアもただ呆然と見つめていた。

 アイシャさんだけは楽しそうに腕組みをしている。

 大岩が採掘場の横を流れる河川の上に落ちて、大きな水柱を上げた。波を受けた川岸一帯は水没して、ミノタウロスたちを飲み込んだ。

「早くしないとアイテムが流される!」

 僕は通常の土の魔石で作った鏃を、残る三箇所の川の支流や運河に放り込んだ。

 大きさはまるで違うが充分同じ役目を果たした。

 この採掘跡地に流れ込む河川の下流をすべて大岩で堰き止めたのだ。


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